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第21話 自己紹介は唐突に

「……えー、というわけで事情聴取します」

 教経、義経、アルグ、シェーンの4名の異界者(イテル)による闘争は終わりを告げ、関係者各位はバシラウス要塞の内部にある部屋に集められていた。

「おい教経、後でまた闘るぞ」

「望むところだ、次は勝つ」

「ねえシェーン? ボク達も続きやろ?」

「……ええ、私としてもあのままでは不完全燃焼ですので……」

 しかし、部屋の中で再び闘争の約束をする4人(馬鹿達)に若干イラつきを隠せていないアリシアと、呆然と見つめる翡翠とベル、我関せずを貫く巨狼だった。

 先の闘争が引き起こした破壊の数々は、この世界の住人であるアリシアからしたら筆舌に尽くしがたいものだった。竜銘(イデア)の激突は今までに何度も発生していたものの、それが同時に2つというのは前例が存在しなかったのだ。

 一向に話が進まない事情聴取の中、同じ異界者(イテル)であるベルは隣にいた翡翠に小声で話しかける。

「ていうか、私ずっとこの城で待機してたんだけど……何があったん? なんかすげー仲良さそうだけど」

「アルグさんとシェーンさんがあの2人と戦ってる間に、僕がアリシアさん達と話してたんですよ」

 ベルの率直な疑問に対し、翡翠は素直に答え、何があったかを語り出す。そうして、時は教経と義経が己の竜銘(イデア)を自覚した瞬間に遡る。

 

 

「どうか、僕達の亡命を受け入れて欲しいんです」

「は?」

 漆黒の骸骨を思わせる怪物が人の─青年の姿に変わっていきながら放たれた言葉に唖然とするアリシア。だが、青年─橘 翡翠は気に留めることなく、続けて言葉をアリシアに伝えていく。

「実は僕たち、向こうの……ええと、確か連合? でしたっけ、そこから来たんですが。いやー向こう本当に変な人というか、ヤバい人しか居なくてですね。正義の為に悪き帝国を打ち倒す協力をーとか、神に仇なす輩に裁きをーとかそんなこと言ってましてね。僕たちそれが嫌で逃げてきたんですよ」

「待て待て待て、情報が多い多い!!」

 情報の洪水をワッと浴びせかけられたアリシアは慌てて翡翠を止めに入る。そんなやり取りをする最中、2人の周囲にようやく平静を取り戻した帝国兵が取り囲むように現れた。各々剣や槍といった武器を手にし、その切先を翡翠に向けていた。

「コットンフィールド少尉、そいつから離れた方が良い。彼が言うには連合の“勇者”だそうじゃないか……つまり、我々の敵と言える」

「た、隊長……!」

 そんな中、1人の男がアリシアに喋りかけてきた。その視線は氷が如く、殺意を込めて翡翠を睨んでいた。隊長の指示通り、そそくさと包囲網の方に走るアリシアを確認すると同時に、隊長はその場にいる全員に合図を出す。

「総員、竜印起動許可──」

「あ、それはやめた方が良いと思います」

 竜印を使う許可、即ち宣戦布告にも等しい許可を隊長が出すその刹那、翡翠は柔かに笑みを浮かべながら静止を促す。

「オオオオォォォォォォォォォォォォ───!!!!!」

 そしてその意味を、アリシアや隊長、周囲の帝国兵達は身をもって知ることとなる。翡翠の目の前に白い影、体高2mにもなる巨大な狼が突如として降り立った。

 巨熊獣(ヒガンテスベアー)を始めとした大型の野生動物との戦闘を経験したことのある兵士も居るにも関わらず、帝国兵は動揺を隠せなかった。その理由は、白狼から溢れ出る桁外れの竜気(オーラ)を感じ取ってのことだった。元来野生の獣が竜と契約するのは不可能、理性ある人間だからこそ竜と契約し、竜印を授かるのだ。

 そんな常識が覆されて、動きが止まった帝国兵に対し白狼は低い唸り声をあげて威嚇していた。もし仮に、兵士が攻撃を少しでも加えようものなら即座に噛み殺すと言わんばかりの気迫に溢れた様子だった。

「ダメですよ、彼等は敵ではありません……今のところは」

 そんな白狼に対し、翡翠は大型の犬にするかのように撫でて落ち着かせようとしていた。そんな彼を見て、アリシアはおずおずと問いかける。

「そ、その……大きな狼は、お前のペット……なのか?」

「いえ、彼……彼女? は僕や向こうで戦っている人達と同じ、異界者(イテル)です」

 問いの返答は、彼らの予想とは大きく異なるものだった。異界から来た獣、それが如何に恐ろしいことか。

「………総員、武器をしまえ。ここで戦えば、数分後には我々の屍の山が出来上がるだけだ。各員この場を離れ、陣地を再構成しろ」

 それを理解したが故に、隊長は部隊に命令を下す。帝国を守る為に戦うが、行う意味が無い上に死ぬのが分かっている戦いをする程隊長は狂ってはいない。そして、それは帝国兵達もまた同じであった。命令を聞いて、これ幸いと言わんばかりに総員が武器をしまい、その場を離れていく。残されたのはアリシア、隊長、翡翠、そして白狼だけだった。

「ありがとうございます、皆さん。亡命に際し、僕達は貴方達帝国に対して、我々の持つ情報と可能な限りのお手伝いをさせていただきたいと思います」

「情報と、手伝い……だと?」

 翡翠の提示した情報と手伝いという言葉に反応するアリシア。手伝いはまだ分かる、異界者(イテル)として持つ強力な能力は有効に扱えるだろう。だが情報は? 彼らが何を知り得ているというのか、そういった疑問を抱くアリシアだったが、翡翠は柔かに告げる。

「亡命を受け入れてくれたら、喜んでお話ししますよ」

 それは端的に言って交渉であり、脅迫だった。

 ──知りたければ我々を受け入れろ。

 翡翠の言外の圧に対し、隊長は嘆息しながら頭を横に振り、「了解した。諸君ら異界者(イテル)の亡命を帝国が受け入れるよう申請しよう」と伝える。

 ここで異界者(イテル)達に本気で暴れられれば、事態はより最悪なことになる。それを見越しての判断だった。隊長は続けてアリシアに対し命令を下す。

「アリシア、取り敢えず話を聞いてこい」

「え」

 あっさりとしたその命令を下した隊長は、アリシアの返事を聞くこともなくそそくさと退散する。触らぬ神に祟りなし、君子危うきに近づかず、なのだろう。だが逆に言えば、残されたアリシアは死地にも等しい場所にたった1人で取り残されたのだ。

 そんな死んだ魚のような目をしながら走り去る隊長を見つめる彼女(アリシア)を興味深そうに顔を近づけて匂いを嗅ぐ白狼。もう藁にもすがる思いでアリシアは自分よりも大きな白狼にしがみつく。

「助けて……隊長は逃げるしこいつなんか腹黒そうで怖い……お前だけが頼りなんだ……ところで、えー……翡翠? この狼、名前はあるのか?」

「腹黒って、酷いですねアリシアさん……。それと、その子に名前はありませんよ、あったとしても僕達は知りません。話せませんからね」

 翡翠への問いに対し、それもそうかと納得するアリシア。少なくとも今までの白狼を見てきて、この子が喋れないことは分かった。ならば名前も持たないだろうという考えに至る。

「よし、じゃあお前の名前は……うん、ルプだ。ルプにしよう。お前は今日からルプだ!」

「………ワフ」

 アリシアに名付けられた白狼──ルプは返事をするかのように小さく鳴く。そうして、その場でおすわりをしてアリシアの顔面をベロベロ舐め始めるのだった。

「おお、早速仲良くなれましたねアリシアさん」

「……なんか、お前の発言って裏がありそうだよな」

「酷い」

 パチパチと小さく拍手しながらアリシアを褒める翡翠だったが、どこか胡散臭い雰囲気があるのか警戒するアリシアに小さく涙を流すのだった。

 

 

 

「と、いうことがありまして。あの4人が殺し合ってる中、我々は仲良くなったんですよベルさん」

「まだだからな? 私お前達のこと殆ど知らないんだからな?」

 翡翠とアリシアのやり取りを座りながら静かに聞いていたベルはパチパチと拍手し、挙手して部屋に轟くような声で叫ぶ。

「それでは早速不肖ベルこと、BeL-127845963の自己紹介を始めます!!!!」

 その声に一触即発と化していた|馬鹿4人組《教経、義経、アルグ、シェーン》はなんだなんだとアリシア達のところに集まっていく。

 こうして、この場に集った異界者(イテル)達の自己紹介が始まるのだった。

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