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5 無くなったモノ

使用人として働き出してから3ヶ月。ようやく洗濯にも慣れてきた。ただ、3日に1回はお昼迄に間に合わず、昼食が取れなかったりもするけど、朝食と夕食は取れるから、それ程苦には感じなかった。それに──


()()、今日は大丈夫?」

「アルマさん。大丈夫ですよ」


ふわふわとしたピンク色の髪のアルマさん。私がダンビュライトの次女だった頃から、私に対して普通に接してくれていた使用人だ。私が使用人になった今でも、時々こうして私に声を掛けてくれる。「私に声を掛けていると、アルマさんにも迷惑が掛かるかもしれないから…」と、接触する事を断ろうとすれば「私は気にしないけど、レイラーニが気にするなら、これからはこっそり声を掛けるわ」と、笑顔で言われてしまった。そんな事を言われると、やっぱり嬉しいもので…それ以上拒否をする事はできなかった。


こんな私にも気に掛けて声を掛けてくれる人が居る─と思えば、多少の苦労は耐える事ができた。





「レイも、ようやく少しはマシになったわね」

「……」


“レイ”


私の……今の私の名前だ。





「何処の者なのか分からないのに、レイラーニなんて立派な名前……お前には必要は無い。お前の名前は今日から“レイ”だ。良いな?二度と、レイラーニの名を口にする事は許さない」


“レイラーニ”は、お母様が付けてくれた名前だった。辛うじて、私とお父様とお母様とお姉様を繋げていたモノだった。その唯一のモノも……無くなってしまった。


「ピッタリな名前ね」


そう言って嗤っていたのはグレッタだった。そして、その横にはクラウシス様が居た。



「レイ、本当に大丈夫?」

「え?あ、大丈夫です!アルマさん、先に食堂に行って下さい。私は、少し後から行きますから」

「…分かったわ。先に行くけど、レイもちゃんと来るのよ?」


心配そうな顔をしたアルマさんを見送った後、残りの洗濯物を干してから、私も食堂へと向かった。






それから更に半年程経った頃。


使用人達の間に、とある噂話が広まっていた。


「数年前から、竜王様の加護が無くなっているらしいわ」

「伺いの親書を送っているそうだけど、返事がないそうだ」

「それと…ここだけの話、グレスタンの結界も弱くなっているそうよ」


ー竜王様の加護が無くなって、結界が弱くなっている?ー


結界師の家門と言えば、お母様の生家のラズベルト伯爵家だ。お母様は直系の長女だったけど、治癒師であるお父様と恋愛結婚をする事になり、その後継ぎとして従兄を養子縁組したとか言っていたような…。そう言えば、お父様達の葬儀に、ラズベルト伯爵は来ていた?私自身が葬儀には参列させてもらえなかったから、会う事も見掛ける事もできなかった。きっと、向こうも私に会いたい─とは思ってなかっただろうけど。その証拠に、ラズベルト伯爵と私は一度も会った事がない。お姉様は、何度か会った事があると言っていたけど。


ー私が本当の子供じゃなかったからー







竜王の加護が無くなり、結界が弱くなればどうなるのか──




長い間続いていた平和に慣れ過ぎていたグレスタン公国。


「弱くなったのであれば、結界を張り直せば良い」「結界を張り直せば問題は無い」と言う単純な結論を出した。


ただし、グレスタン公国はこれから二月程の寒期の季節に入る為、その寒期が終えてから─と言う事になった。

グレスタン公国の寒期には雪が降り積もり、島を囲む海もよく荒れる為、島から大陸へ向かう事は勿論の事、大陸からこちらに来る事も困難になる為、結界が弱まっていたとしても何か悪い事が起こる事はないだろうと言う判断だろう。ただ、以前、お父様達が話していた事があった。



『荒波でも平気で泳げる獣人が居るそうだ。だから、結界も地上だけではなく、ある程度海中まで張った方が良いかもしれない』



その話が、ラズベルト家と共有できているのか?大公様まで話が行っていたのか?

今の私には確認する術はない。



私の心配は他所にして、不穏な噂話は嘘だと言うように何事も無く日々が過ぎて行き、グレスタン公国は寒期へと入った。寒期に入った1週間もすれば雪が降り始め、3日も経てば辺り一面雪景色となった。


そんな中、私は1人で洗濯の担当をさせられている。


「レイは水属性だから、水でも平気でしょう?」


侍女長にそう言われて、お湯を使用する事を禁じられてしまった。確かに、水属性の魔力を持っているから、寒い中で水を使っても多少の耐性はある。あるけど……万全ではない。まともに訓練なども受けさせてもらえなかったから、上手く魔力を使いこなせる事ができないのだ。

その上、水が冷たくて洗濯物の汚れが落ちにくくて、洗濯の時間もかなり掛かってしまう。


「はぁ……冷たい………」


ー寒期の間は、昼食を取るのは無理かもしれないー


そう思いながら、洗濯にとりかかった。






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