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37 前進

*ジャレッド視点*




“お忍びで、レイラーニ王女がダンビュライト公爵邸を訪れたい─と希望している”



と言う手紙が届いたのは3日前の事。

竜王国の王女としてではなく、レイラーニとしてダンビュライト公爵邸を訪れたいと。


「伯父様達3人のお墓参りがしたいそうよ」

「なるほど……」


先々代公爵夫妻と……ロズリーヌ。レイラーニにとっては大切な家族だった3人だ。義父上の命令で、レイラーニは3人の葬儀に参列できず、それ以降も、お墓にすら行かせてはもらえなかったそうだ。そんな事を知らなかった私は、あれ程良くしてくれた公爵夫妻や姉の葬儀にすら参列せず、お墓にも来ない薄情な妹だ!と、レイラーニに対して怒りを覚えていた。だから、庭園で再会した時、あんな事を───


「いや…それは言い訳だな」


レイラーニを見れば…知っていれば分かった筈だ。レイラーニがそんな薄情な子ではないと言う事が。ただただ、あの時の私は、ローズを喪ってしまった悲しみと怒りを……レイラーニにぶつけてしまっただけなんだ。


ローズお気に入りのネックレスとピアス。グレッタが「気に入らない」と売りに出した物をこっそりと買い取って、レイラーニに渡したのは、せめてもの償いだった。それで、赦してもらおうとも、赦されたとも思ってはいない。いや、テイルザールで会った時のレイラーニの目を見れば、私の事を赦していないと言う事は分かった。


ーそれで良いんだー


兎に角、レイラーニがお忍びでダンビュライトに来る─私としては構わないが、義父上とグレッタがどう反応するかが問題だ。

テイルザールで竜人達の力を目の当たりにしたグレッタが、レイラーニに手を出す事は無いと思うけど……


「問題は…義父上だな」


あの場に居なかったが、大公閣下からは釘を刺された。「もう二度とレイラーニに手も口も出すな」と。そして、公爵の爵位を早々にグレッタに継がせて領地へと送り込まれた。何とも軽い処罰となったが、大公閣下自身もレイラーニを虐げていたから、自分の保身の為にも厳しい処罰を下す事ができなかったのだろう。それ故に、一部の貴族や民達から、大公閣下への不満の声が増えて行っている。


義父上は、自分が爵位を取り上げられたのはレイラーニのせいだと逆恨みさえしている。

だから、レイラーニがここに来る日は、義父上にしっかりと監視をつけて、領地から出ないようにしなければ─そう思いながら、私はグレッタの元へと向かった。







******



「ようこそいらっしゃいました………レイラーニ殿下……」

「お忍びでの訪問を受け入れていただき、ありがとうございます」


お忍びでやって来たのは、レイラーニと四天王の1人で青竜のテオフィル様の2人だけだった。

お忍びと言う事で、レイラーニの髪色が黒色になっていて、レイラーニだと言われなければ気付かないだろう程、印象が全く違って見えたが、最後に見た時より雰囲気が明るくなり、落ち着いているように見える。


ー竜王国での生活が、幸せなものになっているんだろうー


「それでは、お墓にご案内します」と、グレッタが言うと「場所は分かるから、案内は不要です。できれば…私と護衛の2人で行きたいんです」

「分かりました…では、お茶の用意をしていますから、私達は邸内でお待ちしています」


グレッタが頭を下げると、レイラーニとテオフィル様は2人だけで庭園の奥へと向かって行った。



“家族に会うのに邪魔をしないで”


そう言われたような気がした。いや、きっとそうなんだろう。レイラーニは私達の事は赦していないのだから。




「ふんっ……良い気になって……」

「グレッタ…」

「分かっているわ。ここで()()に手を出す程、私も馬鹿じゃないし、命は惜しいもの」


分かっているのかいないのか──


それから、私はグレッタと共に邸に戻り、2人が戻って来るのを待った。






*レイラーニ視点*



「お父様、お母様、お姉様……来るのが遅くなってごめんなさい」


ようやく来る事ができた3人のお墓。私の心配は杞憂だったようで、ちゃんと綺麗に整えられていた。そこに、竜王国から持って来た白色のダリアの花束を供えると、テオフィルさんが静かに私から少し離れた場所へと移動した。どうやら、私達4人の時間を作ってくれているようだ。


「…………」


私、本当のお父様に会えました。お母様にはもう会えないけど、お父様をはじめ、色んな竜人さん達から優しくされて…今、とても幸せです。

それでも、私にとって貴方達3人が私の家族である事に変わりはないと──思ってます。私を護ってくれて、ありがとうございました。そして、護れなくてごめんなさい。


これからは、昔のように言われて泣くだけの存在にはなりません。全てを諦めたりもしません。3人の分まで幸せになります。だから、安心して下さい。


目を閉じれば、優しい風が頬を撫でながら吹いて行った。




「お待たせしました」

「お話は終わりましたか?」

「はい。ありがとうございます」


テオフィルさんにお礼を言うと「良かったですね」と言って───


「テオフィルさんが笑った!!??」


眉間に皺を寄せる、刻む事なく笑っている。イケメンが笑うと、更にイケメンになる。


「俺も、これを機に、そろそろ素直になろうと思いまして」

「素直??」


ー今迄は素直じゃなかったって事?ー


「レイラーニ様が一歩前に進んだのだから、俺も一歩…二歩三歩と進もうかと…」

「謎解き…ですか?」

「これから先、あの3人と竜王陛下の代わりに、俺にレイラーニ様を護らせて下さい」

「ん?既に、護ってもらってますよ?」

「“護衛”としてではなく、“1人の男として”護らせて欲しいと言う事です」

「な────っ!!??」


ぽふっ─と顔が熱を帯びる。


「あぁ、意味を理解してもらえたようで良かったです」


と、更に優しく微笑むテオフィルさんの破壊力が凄い。心臓がバクバク言ってます!!


「返事は今すぐでなくても良いですが、これから、もっともっと意識してもらえるように頑張りますね」


と、テオフィルさんは今度は楽しそうに笑った。






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