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36 願い事

「あ、レイラーニ様、こんにちは」

「レイラーニ様、今日は何を買いにいらっしゃったんですか?」

「あ、こんにちは。今日は、糸とハンカチを買いに来ました」




竜王国へやって来てから1年が過ぎた。

竜王国での生活も慣れて来て、私は1週間に一度は街に買い物に行くようになった。そして、何度目かの時にブランシュさんと街に来た時、「「「レイラーニ様!!」」」と声を掛けられ「「「おかえりなさい!!」」」と言われた。しかも、今迄ずっと声を掛けたかったけど、ユーリッシュ様の圧が怖くて声を掛けられなかったと言われた。私の横で、ブランシュさんがクスクスと笑っている。


ーうん。その気持ちはよく分かる。分かるけど…ー


「きっと、テオフィルさんは私を護る為に圧?を掛けてたんだと思うんです。ちょっと顔も怖かったりするけど、本当は優しい人なんです。それで、えっと……こうやって声を掛けてもらえるのは嬉しいから、テオフィルさんと来た時も声を掛けてもらえると嬉しいです」


「「「レイラーニ様!」」」


何となく、あの時の人達の目が幼い子供の成長を喜ぶような目をしていたような気がしたのは……気のせいにしておいた。

20歳にもなっているけど、竜人達と比べると小さいから、幼く見えるのは仕方無いのかもしれない。それに、“竜人寄りの人間”だから、人間よりも成長がゆっくりなんだそうだ。


「そのうち、私もブランシュさんやアルマみたいになれるのかなぁ?」

「ブランシュ?アルマみたいに…とは?」

「あ、何でもないです。えっと…取り敢えず、今日欲しい糸は──」


思っている事が、ついつい声に出てしまっていたようで、一緒に居たテオフィルさんに聞こえてしまっていたようだ。その問に答えるのは少し恥ずかしいから、私はそれには答えずに買う糸を選ぶ事にした。





「うわーイチゴが白い」


手芸屋での買い物が終わった後、テオフィルさんに案内されてやって来たカフェでイチゴのパフェを注文すると、白いイチゴが盛られていた。


「なんでも、普通の赤いイチゴより甘いそうで、今人気があるそうです」

「──!んーっ!甘くて美味しい!」

「────くっ!」

「「「…………」」」


“嬉しそうに幸せそうにパッと笑顔になるレイラーニの顔を見て、緩みそうになる顔を眉間に皺を寄せて引き締める(無駄な)努力をするテオフィルを、周りの竜人達が温かい目で見守る”


と言うのが、竜王国での暗黙のルールになっていると言う事を、当の本人達だけが知らない。


「ただただ怖いと思っていた四天王のユーリッシュ様だけど、“遅咲きの春”満開で…何とも可愛い人だな」


と、ユーリッシュの人気?も密かに上がっているのは、ここだけの話である。





******



「グレスタン公国に行きたい?」

「正しくは、ダンビュライト公爵邸です」


グレスタン公国を出てから4年経った。その間色々あったけど、今は竜王国でのんびりした生活を送れるようになった。そうすると、心にも余裕が出て来て色々思い出したり考えたりする余裕も出て来た。

そして思い出したのが、ダンビュライトのお父様とお母様とお姉様の事だった。


「私、テイルザールに輿入れする日に、お姉様達のお墓に挨拶をしようと思っていたんです。でも、急遽、お迎えの時間が早くなってできなくなって……それに……お姉様達のお葬式の参列も許されなくて、それ以降もお墓に行く事も禁止されたから、一度も行った事がなくて…」


本当に、お姉様達のお墓にお花を供えて祈りを捧げたいと思っている。それと、今のダンビュライト公爵が“嘘つき公爵”と罵っていたから、ちゃんとお墓が管理されているのかも確認したい─と言う事もあり、竜王様と一緒にお茶をしている時にお願いをしてみたのだけど…。


「そうだったんだね。それは、辛かったね」


ぽんぽんと、竜王様が私の背中を優しく叩く。


「行くのは構わないけど、レイラーニは竜王の娘─竜王国の王女様だから、“それじゃあ、明日にでも行っておいで”とはいかないからなぁ…」

「あ……」


ーすっかり忘れてたー


あまりにも毎日がのんびり引き篭もり生活だから、自分が王女だと言う自覚が全く無い。人間や獣人の国みたいに、貴族の夜会やお茶会が竜王国には殆ど無いと言う事もあるけど。


「ひょっとして、私がダンビュライト邸に行くとなったら…恭しいものになっちゃいますか?」

「だね…レイラーニが竜王の娘だったと、グレスタン公国でも知れ渡っているからね。あぁ、正式な手続きは面倒だから、お忍びで行って来る?」

「お忍び!?」


ーそんな事をしても大丈夫!?ー


「流石に、黒竜の私が行くと大騒ぎになるだろうけど、テオフィルなら大丈夫じゃないかな?」


黒竜は滅多に居ないし、今は“黒竜=竜王”だから竜王様が一緒に行けば大騒ぎになるけど、青竜ならそれなりに居たりするから、身分を隠して変装でもすれば大丈夫だろう─と。


「レイラーニの特徴である、そのアイスブルーの髪色を変えただけで、印象は大分変わる筈だから。流石に、ダンビュライトに知らせない訳にはいかないから、ダンビュライトにだけは知らせる必要があるけどね。それに…丁度良い機会かもしれないね?」


と、竜王様は何やら楽しそうな顔をしていた。








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