35 組紐
組紐の編み方は色々あって、アルマから基本的な編み方から教えてもらって練習をして、そこから色んな編み方も教えてもらった。
それから1週間─
「レイラーニ様は、手先が器用ですよね」
「そうかな?アルマの方が器用だと思うけど…上手くできてるように見えるなら良かった」
少し歪んでいる所もあるけど、褒められると素直に嬉しい。
編み上げたのは5本。
水色と白色と黄色は自分用に。
ピンクと茶色と白色はアルマに。
黒色と水色と白色は竜王様に。
白色と青色はブランシュさんに。
黒色と青色と水色はテオフィルさんに。
アルマに日頃のお礼を込めて渡すと、喜んでくれた。こんな物で喜んでもらえて、逆に申し訳無いぐらいだ。ただ──
「………」
テオフィルさんの組紐に、水色の糸を入れてしまったのは…何故だろう?色を選ぶ時に、テオフィルさんの色の黒色と青色を選んで……何となく水色も入れたくなって入れてしまった。編み直した方が良いかもしれない。
「その組紐、直ぐに渡しに行きますか?」
「え?」
「色合い的に、竜王陛下とブランシュ様と…テオフィル様への物ですよね?」
「そうだけど…喜んでくれるかなぁ?」
「勿論、3人とも喜んでくれると思いますよ」
と、アルマはニコニコ微笑んでいる。
「この時間なら、竜王陛下は執務室にいらっしゃると思うので、行ってみますか?」
邪魔にならないかな?とも思うけど、丁度休憩の時間が近いから、お茶を持って行くついでに─と言う事で竜王様の執務室に行く事にした。
「一応、ダロンさんに相談して来ますから、少しお待ち下さい」
「分かった。お願いしますね」
ーもし、水色が気に入らないようなら、後で作り直せば良いかな?ー
そう思いながら、私はアルマが戻って来るのを待った。
ダロンさんに「何の遠慮もせず執務室にいらっしゃって下さい」と許可をもらえたから、早速アルマと一緒に竜王陛下の執務室へと向かった。
「レイラーニ、よく来てくれたね」
「レイラーニ様、お久し振りです」
「レイラーニ様、お会いできて光栄です」
執務室に行くと、竜王陛下とテオフィルさんとブランシュさんが居て、ダロンさんがお茶の用意をしてくれていた。
「あの…執務の邪魔ではなかったですか?」
「丁度、休憩しようと思っていたところだから大丈夫だよ」
「なら、良かったです。ダロンさん、お茶の用意をしてもらって、ありがとう」
「とんでもございません。お礼は不要でございますよ。どうぞ、ごゆっくりなさって下さい」
ダロンさんはニコニコ笑って礼をしてから、執務室から出て行った。
「あ、テオフィルさん、改めてこの前はお出掛けの護衛ありがとうございました」
「いえ。また行きたい時はいつでも言って下さい」
「はい。その時はまた、宜しくお願いします」
それからお茶を飲みながら、4人で色んな話をした。そろそろ休憩も終わり─と言う頃に
「あの…これ、作ってみたんですけど…気が向いたら使ってもら───」
「今すぐ付けよう!」
「「勿論使います!!」」
「あ…ありがとうございます?……」
ー竜人は、被せる事が標準なの…なか?ー
兎に角、3人とも喜んでくれて、私の目の前で組紐を剣に結び付けてくれた。色に関しても何も言われなかったから大丈夫そうだ。
「それじゃあ、これで失礼しますね」
「レイラーニ、本当にありがとう。夕食は一緒にとれるから、またその時に」
「はい。待ってますね」
*ラシャド視点*
パタン──
レイラーニが部屋から出て行き、扉の閉まる音が妙に響きわたった。
「テオフィル、嬉しいなら眉間に皺を寄せずに素直に笑った方が良いよ?それと、陛下、取り上げるような事はなさらないで下さいよ」
ブランシュが面白そうに笑っている。
レイラーニが編み上げたテオフィルの組紐。黒色と青色は分かる。テオフィルの髪と瞳の色だ。しかし、なぜ、そこに水色が一緒に組み込まれているのか。その水色は、私の組紐にもある色だ。レイラーニの色だ。
「でも、それ、レイラーニ様は無自覚っぽいですよね。ふふっ…」
「………」
無自覚─おそらくその通りだろう。レイラーニの態度を見る限り、わざと自分の色を組み込んで渡したようには見えなかった。竜人でも人間でも獣人でも同じで、自分の色を相手に渡すと言う事は、“貴方を想っている”と言う意味が含まれる。ただ、レイラーニは恋愛に関してと言うより、人間関係そのものに苦手意識があるから、無意識に水色を入れたと思うけど──
「無自覚、無意識だからこそ……何とも言えないんだ………」
「あぁ、確かにそうですね……」
やっぱりブランシュは面白そうに笑い、テオフィルも口元が緩んでいる。
「はぁー…別に、私は2人がそうなったとしても反対も邪魔もしないよ。ただ、ようやく父娘として会えて、ようやく父娘として過ごせると思ったら、もう離れて行くのか─と思うと寂しいなと思っただけで……」
愛しい人ができた時の喜びや、愛しい人と過ごせる事の喜びを知っているから、2人がそうなればなったで、喜んで祝福する。
ーレイラーニを泣かせたりすれば、それ相応の覚悟はしてもらうけどー
「まぁ…兎に角、レイラーニ様が嫌がらない限り、私達は2人を見守るだけですね」
「嫌がる事なんてしない」
そう言って、テオフィルは穏やかに笑った。




