34 街へ
「あ、先にお渡ししておきます」
「何をですか?」
そう言って手渡されたのは、お財布だった。
「竜王国の貨幣については勉強されたと聞きました。物価や価格についても、ある程度勉強されたと聞きましたけど、実際自分で購入しなければ分からない事もありますから、今日は勉強も兼ねて自分で支払いをするのも良いだろう─と言う事で、陛下からレイラーニ様のお金を頂いて来ました」
「私の……お金?」
恥ずかしながら、今迄自分で自分のお金を持った事がない。お姉様達が生きていた時は、買い物をしても支払いはお付きの者が払ったり、ダンビュライト家付けで後払いだった。
私が使用人となってからは……『ただで食べれて寝る所があるのだから、お給金はいらないだろう』と言われて貰えなかった。
テイルザールに行ってからも、側妃手当?のような物はなかったし、後宮で買い物をした事もなかった。
「まだ言っていませんでしたね。まず、レイラーニ様がダンビュライト家で使用人として働いていた分のお給金と、テイルザールで側妃に充てられていた筈の支給金を、全て回収したんです。なので、レイラーニ様は結構なお金持ちなんです。それに、竜王国に帰って来てからは、王女としての支給金がありますから、使わなければ貯まっていく一方なので、そろそろ少しずつでもお使いになった方が良いかと」
「えー!?回収…したんですか!?」
働いた分はともかく、テイルザールからも回収って……国内が荒れているだろう所から、一体どうやって回収したのか……訊くのが怖いから訊かないけど、竜人と言うのは本当に凄い人達なのかもしれない。怒らせないようにしよう。
「そのお金は、レイラーニ様が手にして然るべき物ですからね。遠慮なんてしなくて良いので、気兼ねなく使って下さい」
「分かり…ました」
ー兎に角、街を歩いて気になった物を買ってみようー
「わぁー……人がいっぱい……」
街にやって来ると、そこにはお店だけではなく、広場には露店もたくさんあり、人もたくさん歩いていた。
「見たいお店とかありますか?あれば、案内します」
「特には決めていないから、色々歩きながら見ても良いですか?」
「勿論です」
お店に関しては、グレスタンとあまり変わりはなく、アクセサリーショップや服屋、レストランなどが立ち並んでいる。服には困ってないし、特に欲しいと思うアクセサリーも無いから、ウィンドウ越しに見ながら歩き回る。そうして広場迄やって来ると、何とも美味しそうな匂いが漂って来た。
「あの…お勧めの食べ物はありますか?」
露店の食べ物は買った事も食べた事もない。
「ランチがてらに食べますか?じゃあ…」
それから、テオフィルさんお勧めの鶏肉と野菜たっぷりのサンドイッチをトーストしたような物と、イチゴとクリームたっぷりのクレープと、チョコレートがたっぷりコーティングされたイチゴを食べた。
テオフィルさんのお勧めは、どれも美味しかった。
食べた後は、またお店を見ながら歩き回って、「そろそろ帰りましょうか?」と言った時に、あるお店に飾られている物が目に留まった。そこは、手芸屋さん?のようなお店だった。
「テオフィルさん、ここに飾られている組紐は何ですか?」
「組紐にも色々なタイプの物がありますが、ここに飾られているのは、主に剣に飾る物ですね。その組紐に石や魔石を組み込んで、お守りとして剣に結び付けるんです。他にも、髪を括る組紐や、アクセサリーとして使ったりしますね」
「…あの…ここで、何色か糸を買って帰っても良いですか?」
「勿論ですよ。何なら、全色買えるお金を持ってますよ?」
「そんなには要らないですよ」
庭園に川を造ったり、糸を全買いとか……テオフィルさんは加減と言う物ができない人なのかも??
そのお店で、何色かの糸と何色かの魔石を購入してから王城へと帰る事にした。
勿論、帰りも歩きだ。基本、体を動かす事は好きだから歩く事は全然苦にはならない。ただ、小さい私と大きいテオフィルさんとは歩幅が全く違うのに、私のペースで歩いてくれているようで、それが申し訳無いやら……嬉しいやら……。
「………」
チラッと横に居るテオフィルさんを盗み見る。
黒色の長い髪がサラサラで、瞳は青…瑠璃色で竜化した時の鱗の色と同じ色で綺麗だ。四天王とあって、体は引き締まっているし身長も高い。所謂イケメン。おまけに公爵家嫡男。
「テオフィルさんには、婚約者は居ないんですか?」
「居ません。竜人は寿命が長いので、人間族のように、幼いうちから婚約者を決める事は殆どしませんから。それに、恋愛結婚の割合の方が多いんです」
竜王自体が実力でなるものだから、貴族階級はあっても、その爵位だけで権力がどうこうなる事がないようで、家名を重視する為の婚約などが無いそうだ。
政略結婚が未だ多いグレスタン公国からすれば、何とも羨ましい国だろうか。
「それじゃあ、私も…恋愛結婚できるかも?ですね?」
「そうですね。だから、俺も頑張らないといけませんね?」
「ん?あぁ、テオフィルさんも、婚活中だったりするんですか?気になる人でも居るんですか?」
こんなイケメンなら、本気を出せば大概の女性は靡いてしまうんじゃないだろうか?
「まだまだ意識すらされていないので、これから意識してもらえるように頑張ろう─と思っているところです」
「なるほど。意識してもらえると良いですね」
と、テオフィルさんを見上げれば、そのテオフィルさんは私の耳元に顔を寄せて─
「意識してもらえるように…頑張ります」
と呟いた。




