33 ほのぼのライフ
「レイラーニ様、そろそろ休憩しましょう」
「はーい」
竜王国へやって来た─帰って来てから半年。
記憶に関しては、“失った”のではなく、“覚えていない”と言う結果が出た。だから、本当の母親であったコーデリア様に関しての記憶は全く無いけど、それは父親である竜王様が色んな話をしてくれるから、どんな人だったのかは知る事ができた。ダンビュライトのお母様と同じような人だ。
竜王国での生活が慣れて来た頃、「何かしたい事はありませんか?」と、ブランシュさんに訊かれてお願いした事は2つ。この竜王国や竜人の事を学ぶ事と、土いじりをする事だった。すると、3日後には竜王国について教えてくれる先生がやって来て、1週間後には日当たりの良い王城の敷地内に、私専用の庭園が完成していた。
「ついでに小さいですけど、川も造っておきました」
「アリガトウゴザイマス」
ー川って、ついでに造れるようなモノじゃない…よね?ー
サラッととんでもない事を言うのはテオフィルさん。四天王の1人で宰相の子息なテオフィルさんなのに、今は私専属の護衛をしてくれている。「竜王の護衛はしなくて良いの?」と訊けば、「竜王国最強の竜に喧嘩を売る者が居るなら、お目に掛かりたいですね」と、ごもっともな回答をされてしまった。
「勿論、その竜王の娘のレイラーニ様に手を出す馬鹿も居ないと思いますけど、違う意味での護衛です」
違う意味とは?──首を傾げて考えていると「無自覚に振り撒くからですよ」と、相も変わらず眉間に皺を刻むテオフィルさん。
ー何かを振り撒いた覚えもないけどー
兎に角、私は今、少し前迄では予想もしていなかったほのぼのとした生活を送っている。
「この庭園も、だいぶ花が増えましたね」
「竜王様やテオフィルさんが、直ぐに花や種を用意してくれたからですよ。ありがとうございます」
「レイラーニ様の手入れが良いからですよ」
言葉や声が柔らかいのに、顔だけは相変わらずなのが、最近では可愛いと思えてしまっている。まさか、男の人…それも、年上の男の人が可愛いと思える日が来るとは………。これから先、私も恋をする日が来るかなぁ?
「何か欲しい物はありませんか?」
「んー…もう、植えたい物は全部植えたから…」
「…土いじり以外で─です。例えば…ドレスとかアクセサリーとか……」
「うーん……服は…竜王様がたくさん用意してくれたし、アクセサリーは普段着けないし…あ、でも、竜王国の街に…出掛けてみたいです」
色々あった事もあり、半年経った今でも、まだ王城から出た事は一度も無い。テイルザールでも後宮から出る事はなかったし、グレスタンでも……毎日の仕事が大変で休みもなかったから、街に出て買い物をする事はなかった。
「何かが欲しいとか買いたい訳じゃないけど……街に出てみたいです」
「分かりました。では、陛下にお願いしてみます」
「ありがとうございます!」
お礼を言うと、テオフィルさんはやっぱり眉間に皺を寄せた。
*テオフィル視点*
『何かが欲しいとか買いたい訳じゃないけど……街に出てみたいです』
申し訳無さそうな顔をしたかと思えば
『ありがとうございます!』
と、一瞬で嬉しそうな顔になったレイラーニ様。まだまだ表情の変化はあまり大きくはないが、以前と比べると少しずつ分かり易くなって来ている。それがまた可愛いらしいな─と思ってしまい、もっと笑顔を見たいと言う欲が出てしまう。ついつい緩みそうになる顔を留めるのに必死になる。
『それ以上、眉間の皺を深くするな』
そうブランシュに言われたが、それはレイラーニ様が可愛いから仕方無い。
そんな可愛らしいレイラーニ様に、何かプレゼントを…と思っているが……物欲が無さ過ぎて何をプレゼントすれば良いのかが全く分からない。だから、街に行きたいと言うのは丁度良かったのかもしれない。街を歩きながらレイラーニ様が気に入った物を見付ければ良いのだ。
ついでに、この竜王国の事も好きになってもらえたら良いな─と思う。王妃陛下も愛して下さったこの国を。
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「あれ?アルマは?」
「アルマは、今日は休みでブランシュと一緒に出掛けました」
ーそんな事、アルマから聞いてない…と言うかー
「それじゃあ、今日はテオフィルさんと2人…ですか!?」
「護衛は、俺1人で十分ですからね」
確かに、護衛はテオフィルさん1人で大丈夫だろうけど、2人きりでと言う事が問題……ではないのかなぁ?
「折角だから、歩いて行こうかと思ったのですが、馬車や馬が良ければそちらでもすぐご用意できます」
「……歩いて行きます」
「分かりました。では…行きましょう」
ここでグダグダ言ってもしょうがないし、時間も勿体無いから、私はテオフィルさんと2人で街へと向かった。




