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30 番と妃③

私はあれから、一度も番を見に行ったりはしなかった。目にしてしまったら、自分がどうなるのか分からなかったし、怖かったからだ。それでも、彼女はきっとあれからも幸せな時を過ごしたのだろうと思う。何も関わる事のなかった番なのに、彼女の死は私に痛みをもたらし、また胸に大きな穴を空けて行ったのだ。


「…………コーデリア……………」


あんなにも焦がれた番の存在が、呪いのように重たく私にのし掛かり竜力が暴走し掛けた時、思い出したのは笑顔のコーデリアと、そのコーデリアに抱かれたレイラーニの寝顔だった。

直ぐにでも会いに行きたかったが、丁度同盟国との年に1回の交流会の時期と重なり忙しく、少し胸に痛みを覚えつつも薬湯で誤魔化しながら政務をこなしていった。




そして、交流会も無事に終え、ようやくコーデリア達の元へ行ける事になったのは、番の死から1ヶ月経ってからだった。




「陛下!どうか……どうか!娘を……コーデリアを助けて下さい!!」


コーデリア達に会えると言う日の3日前の真夜中の事。


念の為にと、一度だけ使用できる緊急用の転移魔法陣のスクロールを使用して、ラズベルト伯爵が竜王国へとやって来た。その、ラズベルト伯爵の腕の中に、顔色が真っ青になったコーデリアが居た。


「申し訳ありません…我が邸内に獣人の暗部の者が紛れ込んでいたようで……コーデリアが竜王陛下の妃だと気付かれて……少しずつ毒を盛られていたようで…気付いた時にはこの状態で!」


そっとコーデリアを抱き上げる


「レイラーニは、妻が見ております。レイラーニも毒を盛られてはいましたが、幸い、レイラーニが竜人寄りの体質だったお陰で、今は回復に向かっています」


抱き上げたコーデリアは、ゾッとするように軽かった。顔色が悪いだけで、静かに寝ているだけのようにも見えるけど、呼吸が浅い。


それから急いで医師と薬師を呼び、コーデリアの処置にあたらせ、私も私で、コーデリア達に盛られた毒を調べる事にした。

そして、ようやく判明した毒は、獣人国テイルザールで、王族直属の暗部が使用する遅効性でありながら、致死率の高い毒薬だった。服用期間が短ければ回復したりするのだが、その期間が長ければ、後は何をしようが死を迎えてしまう毒薬。そんな毒薬を、コーデリアは3ヶ月もの間飲まされていたのだ。


手遅れだった──





「──ド…泣かないで?」

「コーデリア……私は…どうすれば良い?君が居なくなったら…私はもう……」

「何を…馬鹿な事を言っているの?貴方は、本当に竜王様なの?」


相変わらず顔色は悪いままで、話す事もやっとと言う感じなのに、私を見る目はどこまでも優しいものだった。


「貴方にはレイラーニが居るわ。きっと、貴方を護ってくれるから。だから、貴方もこの子を護ってあげて。私が居なくても大丈夫。だって、この子は…貴方と私が本当に愛し合ってできた、奇跡の子なんだもの。きっと、この子が貴方を幸せにしてくれるわ。だから…お願いよ。この子の為に生きて、この子を幸せにしてあげて」

「コーデリア……」

「じゃないと…死んで私に会いに来ても……会ってあげないから。寧ろ、貴方を恨むから」

「コーデリア…………分かった……約束する……だから…………」

「……ラシャド……ずっと……愛してる。私達の可愛いレイラーニを………お願いね?」


コーデリアの声が小さくなり、コーデリアの魔力が消え掛けるのと同時に、私の竜力がザワザワし始めたのが分かった。コーデリアの術が消え掛けている事と、私の心情のせいだろう。このままでは魔力が暴走して、この辺りがどうなるのか──


ーここにはコーデリアもレイラーニも居る。護らなければならないのに、私が2人を傷付けてしまう!ー


「…本当に、最後まで……面倒な人ね……」


“面倒な人ね”と言いながら、更に私に優しい目を向けるコーデリアは、どこにそんな力が残っていたのか?と思う程の魔力を溢れ出させ、最後の力を振り絞って私とレイラーニに魔法を掛けた。




竜王(わたし)に、死んでしまったら狂ってしまいそうになる程愛したコーデリア(自分)への感情に封印を掛けた。


レイラーニには、自分が竜王の娘である事を忘れる魔法と、更には、レイラーニから溢れる竜力を封じる魔法を掛けた。


「貴方が落ち着いて、私の死を受け入れられたら、その魔法は解けるわ……レイラーニは…暫くの間はお父様とお母様にお願いするわ。あの子の名前を()()()()()()…迎えに行ってあげて…必ず……お願いよ………」





そこからの記憶は曖昧なものだった。

きっと、私が暴走すると予想していたのだろう。コーデリアの死後、レイラーニはグレスタン公国のダンビュライト公爵家で過ごす手続きが済んでいて、私もレイラーニが娘である事を忘れていた為、竜王国から居なくなっていても気付く事はなかった。コーデリアの死に関しては、“友人の死”としての悲しみの気持ちだけがあった。



ただ、ここで誤算が生じてしまっていた。



コーデリアもまた、竜王(わたし)を受入れて子を身篭り生んだ事によって、自身の魔力がより強くなり少しの竜力を持つようになっていた事を、誰も気付いていなかった。

そんなコーデリアが死の間際に願い、掛けた魔法はより強固なモノとなり、私だけではなく、竜王国全体に掛かってしまった事。


次々にコーデリアとレイラーニと竜王の関係を知っている者達が死んでしまった事。


そして、最大の誤算が、私自身にも呪いが掛けられてしまった事だった。





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