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15 強制参加

私がテイルザール王国へやって来てから、もうすぐ3年になる。勿論()()()は無いままだ。一般的な婚姻に関して言えば、白い結婚のまま3年経てば女性からの離婚申請が簡単にできるけど、私の場合は人質としての意味合いがあるから、離婚なんて事は無理だろう。


ー恋とは一体、どんなものだったんだろう?ー






******



「建国記念祭?」

「来月、テイルザールの建国記念祭があって、今年は丁度100年になるから、かなり盛大なパーティーが行われるそうです」

「あ、そう言えば、去年の今頃してましたね。私はお呼びすら掛からなかったから、その日はアルマと2人で……料理をして食べてましたね……」

「何故、側妃がパーティーに呼ばれず、その上料理をするんですか!?」


と、低い声で圧を掛けて静かにキレているのはユーリッシュさん。私に圧を掛けてキレている訳ではない─事は分かっているけど、やっぱり怖いものは怖い。


「無能な上人間族の人質の10番目の側妃なんて、そんな華やかなパーティーに参加できる資格はありませんからね。きっと、今年も呼ばれないと思いますよ。そもそも、国王様とも輿入れした翌日に一度会ったきりで、それ以降は会ってませんから」


何なら、私の存在すら覚えてないんじゃないかな?と思ったりもする。それはそれで平和で良いんだけど。


「それで、建国祭の時は忙しいから─と、食事を忘れられた?みたいで…。こっそり厨房迄行って、アルマと2人で料理してご飯を食べていたんです」


ーあれはあれで楽しかったし、美味しかった。今年も放置してくれないかなぁ?ー





なんて言う願いはその翌日、あっさりと砕け散ってしまった。





「私も……その建国記念祭のパーティーに参加するの!?」

「今年の建国記念祭は100周年と言う事で盛大に行われます。獣人族だけではなく、人間(ひと)族も招待する事になったので、友好国の証であるレイ様も参加していただきます」


久し振りにメイド長がやって来たと思えば、来月の建国記念祭のパーティーに参加しろと言われてしまった。とは言え、その建国記念祭まで1ヶ月もない。


「私、パーティーに出るようなドレスなんて持ってないけど?」


デビュタントする前にテイルザールに来て、婚礼をせずに側妃となったから、正式なドレスなんて着た事もなければ、嫁入り道具の中にドレスなんて物も一着もなかった。勿論、後宮(ここ)に入ってから着ている服は獣人族特有の普段着で、ふわっとしたズボンだ。他の側妃様達は、露出の多いドレスを着ているけど。


「今回特別に、王妃様が用意して下さっておりますから、そのドレスを着ていただきます」

「……分かったわ…………」


一体どんなドレスを用意されているのやらー


そもそも、私は国王様とは一度しか会った事はないし、王妃様とは一度も会った事がない。他の9人の側妃様達は、よく王妃様とお茶をしているようだけど、私はその場に呼ばれた事が無い。

私は、“この後宮の主である王妃様に嫌われている”と言う事だ。そんな王妃様が用意したドレス。


ー何かあるとしか思えないよねー


それでも、他国からの大勢の賓客の前だから、軽い悪戯程度で───済むわけ……ない…か………。


軽くため息を吐いた後、メイド長から建国記念祭についての話を聞いた。







******


「明日から1週間、庭園に来れなくなりました」

「何かあったんですか?」

「明日から建国記念祭の日に向けて、色々礼儀作法とか体のメンテナンスをされるそうです」

「「「メンテナンス……」」」


何故か、ネルさんとユーリッシュさんとアルマに残念な子を見るような目をされている。


「コホン…言い方は微妙ですけど、この1年でレイ様は本当に綺麗になりましたよね。ここに来る前は…本当にボロボロで、見ている私が辛かったぐらいに……」


どうやら、3年前の私はアルマから見ても酷い様だったようだ。


「そうですね。初めて会った時は…実年齢より幼く見えるほど小さい人でしたね。それでも、まだまだ痩せ気味ですけどね」

「19歳には見えませんね」


やんわり言葉を選んで言ってくれるのはネルさんで、しっかり抉ってくれるのはユーリッシュさん。眉間の皺には慣れないし、ストレートな物言いをするユーリッシュさんではあるけど、嫌いではない。


「兎に角、暫くは来れないけど、私が居なくてもこの庭園に入ってもらって良いので、好きに使って下さい」

「ありがとうございます」

「それで、暫くは引き篭もり生活もお預けだから、今日はいつもより心を込めてお茶とお菓子を用意しました!」


ネルさんの胸の辺りにある嫌なモノも、あと少しで綺麗サッパリ消える─と言うところで1週間も空いてしまうと、ソレがどうなるのか分からない。ネルさんは私を1人の人間として見て対応してくれた人だ。必ず元気になってもらいたいから、今日はお茶にもお菓子にも、いつも以上に魔力と祈りを込めて用意した。


「ふふっ。レイ様、ありがとうございます」

「ありがとうございます」


そこには、ふわっと優しく微笑むネルさんと、眉間の皺が更に深みを増したユーリッシュさんが居た。





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