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12 新たな出会い

寒い季節が終わり、暖かい季節がやって来た。

テイルザールに来てから半年。有り難い事に、未だに国王の()()()はないままだ。

その国王に呼び出される事もなく、私はアルマと2人で後宮の奥でひっそりと過ごしている。


そんな私の今の楽しみは、荒れ地─自分の庭園をいじる事。寒い期間に雑草を抜きまくった。誰も手伝ってはくれないし、庭師すら見掛ける事はない。そりゃそうだ。私の庭園は後宮の最奥にあるから、私が呼ばない限り誰かがここに来ると言う事はない。だから、アルマと2人でここでお茶を飲もうが寝転ぼうが、誰にも注意をされる事も見られる事もない。


「土も柔らかくなって来たから、そろそろ何かを植えましょうか?」

「そうだね…何が良いかなぁ?あ、花も良いけど、食べれる物も植えてみる?」

「それは良いかもしれませんね」


獣人族特有なのか、ここで出される食事はコッテリとした物やガッツリした肉ばかりで、正直あまり食べられない。でも、残してしまうとチクチクと小言を言われ、1食抜かれたりするから、アルマと2人で何とか頑張って食べている。




「アルマも獣人なのに、人間の私に付いているってだけで見下されて…ごめんなさい」と謝れば、「私が好きでレイ様と居るのだから、気にしないで下さい!」と、逆に怒られてしまった。本当に、アルマが居てくれて良かったなと思う。



「ダリアを植えたいなぁ…」

「ダンビュライトの庭園に咲いてましたね」


ダリアはお母様とお姉様が好きだった花だ。


「今更気付いたけど…欲しいと言えば、用意してくれるのかなぁ?」

「あ…………」


こんな私でも、一応は側妃だから、私が使って良いお金がある─筈だけど、テイルザールに来てから何かを買う事もなかったから、お金の存在を忘れていた。


「用意してくれないかもしれないね…頑張って雑草を抜いたけど…」


マトモな食事すら提供されないのだから、あまり期待はしない方が良いのかもしれない。



「こんな所で…何をしているんだい?」

「──え?」


ーここは後宮の最奥に位置する庭園。私とアルマ以外の誰かが居る筈がないのにー


声がした方へと振り返ると、そこには黒色の髪と瞳の年配の男性が居た。


ーどうして、後宮の奥に男性が!?ー


基本、後宮で男性を見掛ける事はない。後宮の使用人は皆女性だ。それなのに、こんな所で男性と出会うなんて─。私の前にスッとアルマが私を護るようにして立つ。他の側妃様達には居るけど、私には護衛が居ないからだ。


「ここは第10側妃様の庭園です。貴方は何者ですか!?」

「第10側妃様の庭園?この荒れ地が?」


その男性は驚いた後「これは失礼しました」と謝った後自己紹介をしてくれた。




その男性の名前は“ネル”さんで王城付きの薬師。何でも、数年前にテイルザール王国へやって来たそうなんだけど、記憶を失った状態で倒れていた所を、テイルザールの国王に助けてもらったのだとか。自分の名前や出身国などの記憶を失ってはいたけど、薬師としての記憶は残っていたそうで、国王の勧めもあり王城で薬師として働く事になり、そこで与えられたのが、この森の中にある邸だったらしい。

そして、私に充てられた庭園が、ネルさんの敷地と後宮の境目にあると言う事なんだそうだ。


ー何故後宮の奥に?ー


と思わなくもないけど、記憶喪失状態なら、表に出るより隠れていた方が良いとの判断なのかもしれない。見た目は穏やかそうな人だ。ただ──


ー何となく違和感を感じるのは気のせい?ー


獣人には獣人の、人間には人間特有の()()がある。


『体に纏っている空気?私には分からないわ』


お姉様達にも言った事はあるけど、私以外には誰も分からないと言われた。獣人が人型になっている場合、それが獣人なのか人間なのかは判断できないと言っていたけど、私にはその人の纏っている空気で何となく種族が分かる。ハーフの場合、分からなかったりもするけど。

このネルさん、確かに獣人らしい空気を纏っている。でも、何となくその空気に違和感がある。それに、胸の中心辺りに嫌な感じが広がっている。


「あの……ひょっとして、体調が悪かったりしま───」

「そこで何をしている!?ネルから離れろ!」

「──っ!?」


ネルさんの体調が気になり、そのままネルさんに近付こうとした時、低くて冷たい声と共に鞘に収まったままではあったけど、首元に剣先を向けられた。


「レイ様!なっ…貴方、誰に剣を向けているか分かっているのですか!?」


アルマが悲鳴に近い声で叫ぶと、その剣を持った男性が更に視線をキツくした。


「その剣を下ろしていただけますか?ここは後宮です。それに、ここは私が王妃様から頂いた庭園です。私の庭園に私が居て何が悪いのですか?」


どこに居ても理不尽な事だらけだ。私はただ、二度と国王の目に留まる事なく、ひっそりと後宮(ここ)で過ごしたいだけなのに。何故、庭園で話をしているだけで剣を向けられないといけないのか─。


「テオフィル」

「………すみませんでした」


ネルさんが声を掛けると、その男性は剣を下ろした。





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