1 治癒師と結界師
この大陸には、主に3つの種族が存在している。
ー人間族ー
この種族が大陸では6割を占めている。そして、人間の8割程が魔力を持っていて、身分が高い者程魔力が強かったり珍しい魔力を持っていたりする。
ー獣人族ー
大陸の3割程がこの種族。魔力持ちではないけど、身体能力が人間とは比べ物にならない程高い為、武力で言えば人数が多い人間でも少数の獣人にも敵わない─とさえ言われている。
見た目は人間とあまり差異はないが、人型と獣型になれる事と、たまに人型でも耳や尻尾が出ている者もいる。
ー竜人族ー
大陸の1割程の種族。3つの種族のうち一番強い種族である。獣人と同じように人型と竜型の姿を持っていて、平均寿命は200歳とも500歳とも言われている。ただ、普段は上空にある浮島に住んでいる為、あまり多くの竜人の姿を目にする事はない。基本、最強の種族ではあるが、自ら好んで戦うような事はしない。
そして、異種族同士で結婚した子供は、親のどちらか強い方の種を引き継いで生まれて来る。
私─レイラーニ=ダンビュライト─は、そんな大陸にある島国のグレスタン公国に住んでいる。
ーグレスタン公国ー
その名の通り、代々グレスタン大公が治めている。このグレスタン公国には、他の国の人間族とは違う特有の魔力持ちが居る。
“治癒師”と“結界師”
ダンビュライト公爵家の者は治癒の力を、ラズベルト伯爵家の者は結界の力を持って生まれる。本家筋の子程その力が強く、分家筋になると弱くなり、掠り傷しか治癒できない、自分一人分しか結界が張れない程になったりもする。それでも、喩え弱い力であったとしても、治癒と結界の魔力は珍しい魔力である為、その魔力を持っていると言うだけでその立場は揺るぎないものとなっている。
私は、そんな珍しい治癒師の家系であるダンビュライト公爵家の次女だった。
******
「また誰かに何か言われたの!?」
「姉さま………」
邸の庭園の木に隠れて泣いているのに、いつも必ずお姉様がやって来た。
ーロズリーヌ=ダンビュライトー
私より2つ年上のお姉様。白色の髪がキラキラと輝いていて綺麗で、目は空と同じ綺麗な青色をしている。
ダンビュライトは治癒師の家系で、髪色が白ければ白い程治癒の魔力が強く、それが、グレイ掛かってくると魔力が弱いとされている。そんな中、私はと言うと──
「私は、レイラーニの髪が大好きよ!違うわ!レイラーニの顔も声も性格も全部好きよ!」
「姉さま……」
そう言って、いつもギュッと抱きしめてくれるお姉様。
私の髪色はアイスブルー。ダンビュライト本家筋では有り得ない色だった。どんなに魔力が弱くとも、本家筋では白かグレイ以外の色を持つ者が生まれたと言う記録が一切なかったのだ。おまけに、私には治癒の魔力も無かった。
「お母様が青色の髪だから、その色を継いだだけよ」
お母様はダンビュライトの人間ではないから、髪は青色だったし治癒の力もない…けど…。お母様は結界師のラズベルト伯爵家の令嬢だった。
そんな素晴らしい魔力持ちの両親から生まれたお姉様は、治癒の魔力を持って生まれた。その髪色は当主であるお父様よりも綺麗な白色で、成人すれば歴代一の治癒師になれるかもしれないと言われていた。
そんな姉とは違い、私は……魔力を持って生まれたものの、属性は治癒でも結界でもなく、ただの水属性だった。そんな私には、更に幼い頃の記憶が無い。私はもともと生まれた時から病弱だったらしく、生まれた後はダンビュライトの本邸ではなく、保養を兼ねて都から離れた別邸で育てられたそうだ。そして、5歳の誕生日を機に本邸へとやって来た。私の記憶も、その辺りからしかない。
私の容姿を目にしたダンビュライト一族の反応は、今でもトラウマとなっている。
『ダンビュライトで色持ちの髪とは…』
『本当に当主の子なのか?』
『治癒の魔力も結界の魔力も無いとは…』
『ダンビュライト始まって以来の無能か…』
『ラズベルトも恥をかく事になったな』
5歳の子供だから、聞こえても意味が分からないだろうと思っていたのか。わざと私に聞こえるように話をする大人達。
「レイラーニ…」
「わあっ───」
怖くて涙が出そうになった時、お父様が優しい声で私の名前を呼び抱き上げてくれた。その隣には、優しく微笑んでくれるお母様とお姉様が居た。
「この子の名は“レイラーニ”。紛れもなく当主である私と妻であるミレーヌの娘だ。レイラーニに対する侮辱は、私達ダンビュライト公爵夫妻への侮辱と見做す。何か言いたい事があるなら、直接私に言いに来るといい」
そのお父様の一言で、あからさまに私に何かを言って来る人は居なくなった。
それでも、子供はまた別で、大人が居ない所では私を見かけては色んな言葉を吐いて来た。
「無能なくせに偉ぶりやがって」
「お前は拾われて来たんだ」
「一族の恥晒しだって言われてるぞ」
「「「はははっ!」」」
「…………」
「悔しかったら言い返して───」
「その口、糸と針で縫い付けてあげましょうか?」
「「「なっ──!ロズリーヌ様!!」」」
「レイラーニ、こっちにおいで」
そんな時はいつも私を助けてくれるお姉様が、そこに居た。