009 ホントにぼくなの?
月の小遣いが5,000円だった少年は、このサングラスだけは絶対に失くせないと心の底から思った。
洗面台の前でハミガキしながら、キズナはサングラス姿の自分を見る。髪色や肌色も相まって、手前味噌だが良く似合っているような気がする。思いもよらず自分に見惚れてしまうくらいには。
鏡を凝視しても緑色の目が見えないほど、遮光性が高い色眼鏡。ただ、目元が見えなくても、小顔で鼻口もきれいなラインを描いている。だから良く似合うのであろう。
まだこの姿になってから2日目のキズナは、まるで他人を見ているような感覚になった。
「これってホントにぼくなのかな?」
一生答えが出なさそうな疑問を覚えたところで、ハミガキを終えてリビングへ戻っていく。
「ピザ、焼けてるぞ~」
「うまそう。ありがとね」
ここはアメリカかよ、と疑ってしまうほど巨大なピザがあった。日本のLサイズよりさらに大きいからだ。
「気にすんな。さぁーて、ビール飲んじゃおうかな~。キズナも飲む?」
「いや、13歳だから飲めないよ」
「じゃあコーラだな。いやー、夜食よりうまい飯はないよな~」
メントは瓶ビールを開ける。プシュッ、という音とともに彼女は結構な勢いでそれを飲む。
「あー、不養生すると罪悪感湧いてくるぜ。これでも女子野球部のエースなんだけどな」
「女子野球部? 野球やってるの?」
「まーな。でも、あと1年半くらいで引退だ。というか、日本って国も野球流行ってるんだろ?」
「そうだね。まあ、野球部の連中は一部除いてクズだらけだったけど」
「マジか。あ、でも、誰かから訊いた気がするぞ。日本って国じゃ軍隊みたいな仕組みで野球やらせてるから、性格歪む子が多いって」メントは酒が回ったのか、顔を赤くし、「でも、ロスト・エンジェルスの野球部はゆるいところ多いぞ~。たいてい他の部活も掛け持ちしてるしな」
「部活、かぁ……」
マルゲリータピザを頬張りながら、キズナはなんとも感傷に浸るような表情になる。運動系の部活に属していた連中からいじめられていた身としては、やはりあまり良い感情を持てない。
「どうしたよ~? 年齢が年齢だし、たぶんどっかの中学に編入することになるんだから、そのときやりたいこと探しておくのは大事だぜ?」
「学校」
「医者と役所が暗に迫ってくるだろーさ、学校行けって。まずロスト・エンジェルスに慣れてもらわなきゃならねえわけだし、その歳じゃバイトもできないしなぁ~」
すでに泥酔しているように見えるのは気の所為だろうか。
それと、キズナがまだ1枚しかピザを食べていないのに対し、緑髪ショートヘアのメントはすでに4枚ほど食べている。体育会系らしく、健啖家なのは間違いない。
「まあ、あれだな。サキュバスとの混血だってのが完全に証明されれば、いろんな学校が手ぇ上げるだろーよ。あたしやパーラの属してた学校もそうだし、“カインド・オブ・マジック学園”っていう名門も狙ってくるさ」
「どっちがおすすめとかあるの?」
「ああ。断然、“カインド・オブ・マジック学園”だな。スカウト来た瞬間に即決して良いレベルだぞ」
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