008 チャーム対策にはサングラスが有効らしい
「ふああ~」
あれだけ疲れていたのに、時刻はまだ4時半だった。たしか12時頃に眠ったはずなので、ほとんどのヒトに推奨される6時間の睡眠は取れなかった。
ただ、そんなことは慣れっこだ。日本にいたときも、睡眠導入剤に頼っていた時期があるのだから。
「そういえば、こっち来てからなにもお腹に入れてないや」
そんなわけでなにか食べたい。キズナはもぞもぞとベッドから起き上がり、リビングへと向かっていく。
「あ」
が、キズナは失念していた。ここは彼、基彼女の家でないことを。泊めてもらっている身分で、冷蔵庫を漁るのは卑しいだろうと。
「ハミガキもしたいし、パーラさんかメントさん、起きてないかな」
キズナは間借りしていた部屋から一階へ降りていく。時間的に誰かが起きていることは期待できない。
と、思っていたら、リビングには灯りが灯っていた。ドアを開け、キズナは現代ヨーロッパっぽい暖炉付きの部屋へ入る。
「おう、もう起きたのか」
「うん、メントさん」
「あたしもたまたま目ぇ覚ましちまってさ。映画見てたところなんだ。さて……」
メントはソファーから立ち上がり、キズナに歯ブラシと……サングラスを渡してきた。
歯ブラシのほうはなんの変哲もない、2~300円で買えそうな代物。
一方、サングラスはいかにも高そうなデザインだ。ピンク色のレンズで、雫のように垂れ下がったフレーム。パイロットが着けていそうな、そういう厳つさを覚える。
「とりあえずハミガキしてきな。腹減ったんなら、そうだな。冷凍のピザがあったはず」
「いや、このサングラス、なに?」
「ああ、これか。そりゃ、誰彼構わず“チャーム”かけないためにお誂え向きだと思ってよ」
「なるほど、でもお高いんでしょう?」
「まあな。だいたい500メニーくらいしたかな」
「500メニー?」
「ああ、転生者だからロスト・エンジェルスの通貨なんて知ってるわけないよな。あれだ、コーク缶が1メニーでタバコが4メニー。パーラいわく、ゲームソフトが7~80メニーくらいらしいぞ」
要するに、1メニー=100円くらいの価値ということか。計算しやすそうで良いことだ。
とか、呑気なことを思い、「ありがとうね」と返事してキズナはサングラスをかける。
「似合ってるじゃん」
「ありがとう」
「でも、“チャーム”を任意で操れるようになるまでずっとかけ続けなきゃならねえし、いまのうちに慣れておきな。夜は想像以上になんも見えなくなるからな」
「確かに。サングラスなんて前世でもかけたことなかったし」
「まあ良いや。洗面所の位置、分かるだろ? ハミガキしてる間にピザ温めておくよ」
「ごめんね、ありがとう」
「謝られることしてるわけじゃないさ」
そんなわけで、キズナは洗面所へと向かっていく。
その道中で、赤みがかった銀髪少女キズナはぼやく。
「500メニーってことは50,000円? ホントにもらって良いの? これ」
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