006 ロスト・エンジェルス連邦共和国
たいていの者は喉から手が出るほどほしい力であろう。だが、キズナはそう吐き捨てるだけだった。これから先、どんな美少女に惚れられようと、それは自分の魅力でなく、サキュバスの血が相手を洗脳しているだけだと思ってしまうに違いない。
「まあ、こうやってネガティブだからあんな惨い死に方したのかもね」
そんな暗い感情に心が覆われつつあったキズナのもとへ、パーラとメントが歩み寄ってくる。
「どうだった~? キズナちゃん!」
「ああ、うん。やっぱりぼくはサキュバスと人間の混血児だったらしいよ」
「だよね! キズナちゃん、せっかく目きれいなのに直視できないもん! 私、恋人いるしね!」
「でもさぁ、“チャーム”かけられた子ってどうなるんだろーな。あたしが知ってる限り、サキュバスは男女問わず魅了しちゃうらしいけど、そうなったときの反応は知らないんだよな~」
「じゃあ、ぼくの目見てみる? メントさん」
「不貞行為は駄目だろ! あたしだって彼氏くらいいるんだぞ?」
「またまた~、メントちゃん。男の子に泣きついて付き合ってくれないと爆殺するぞ、って脅したくせに~」
「……パーラ、それは黒歴史ってヤツだ」
どうやら黒い歴史の末に恋人をつくったらしい。そこまでして恋人がほしいものなのだろうか。
「ごほん。さて、キズナ。もう疲れたろ? とりあえずあたしとパーラの家に泊まって良いから、ちょっと頭ン中整理しな」
「う、うん。ありがとう」
「あしたになったら役所に届け出だね! んじゃ、一旦帰りましょー!」
*
考えてみれば、女子の家に泊まる経験なんてなかった。というか、友だちの家に泊まることが初めてだったりする。
「この部屋空いてるから使って良いよ~。ベッドと暖房もあるし、必要だったらノートパソコンも使って良いよ~」
「ああ、うん。パソコン、借りるかも。ごめんね」
「さっすが! 21世紀から来ただけあるね!」
「ねえ、パーラさん」
「なーに?」
「この国って何世紀なの?」
「んーとね、19世紀になったばっか! 1802年だよ~!」
19世紀なのに21世紀並みの技術力を持つ……そういえば国名すらも訊いていなかった。知らないことは恥でないと、キズナはレンガ造りの廊下でパーラへ色々訊いてみることにした。
「ほかの国も同じくらい発展してるの?」
「んー、他国がロスト・エンジェルスの技術力にたどり着くには、最短で50年って訊いたけど」
「ロスト・エンジェルス?」
「この国の名前! 略称はLASだよ~!」
「直訳で天使を失った、的な? 国名にしちゃ不穏だよね」
「実は私も良く分かんない! これでも一応大学生なんだけどね……」
「得意不得意はあるでしょ、人間なんだから」
「おーっ! かっこいいこと言うじゃん! キズナちゃんは私より8つ下、いや9つ? くらい年下に見るけど、絶対私より頭良いでしょ~」
肘をグリグリ胸のあたりに当ててくる。ただのスキンシップなのだろうが、たぶん大半の男子は変な勘違いしそうだ。
「って、あれ? もしかして女の子のこと苦手?」
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