054 転生者同士の密談
「なら、私からも質問良いか?」
「なに?」
「オマエ、名前の漢字は?」
「希望の希に、砂場の砂」
「希望の砂か、良い名前だな」
「だからなんなのさ」
「特段意味はないよ。ただ、日本人という人種が好きなだけだ」
「意味分からん」軽く手を広げる。
「アジア人は忠誠心が高い。それに、有能だ。たいていの仕事をこなしてくれる。私の生まれ、知っているかい?」
「訊いてないことは答えられないよ」
「ルーシって名前から、なんとなく連想できるだろ?」
「ロシア? それとも、ウクライナやベラルーシ?」
「その全部だ。生まれはベラルーシ。ただすぐウクライナへ移った富裕層であり、親はロシアの富裕層と仕事していた。今、あそこはどうなっている? オマエのいた世界での情勢で構わない」
「ウクライナとロシアが戦争してるのは、知ってる」
ルーシは顔を手で覆って、
「悲しいねえ……。大方、西側とロシアの戦争だろ」
「まあ、そんな言われ方もしてた」
「といっても、死んでしまった私たちにできることはなにもない。大事なのは今だ。今、東欧で起きている事柄に関する軍事機密、見てみるか?」
「は?」
寝耳に水だ。なぜ、この少女は軍事機密を知っているのか。いや、連邦情報局、通称FISで仕入れてきたのだろうか。
そんな思考をさせないかのように、ルーシは自身のスマートフォンを見せてきた。
どうやら、宇宙から見上げた地図のようだ。
「東欧帝国、これがロシアだな。そして、この侵攻を進めているのがガリア。私ら風に言うとフランスだ。まあ、ここまではナポレオン戦争だろう、と思うかもしれんが──」ルーシは写真を変える。「肝心なのは、使われている兵器だ。東欧帝国もガリアも、歯車と人工知能で作られた戦車を元に対抗している。欧州最大の陸軍国家同士が、このような兵器を使っているということは?」
「多数の戦傷者が出るってこと?」
「そうだ。私はどちらの味方でもないが、連邦の技術的優位性が薄れるのは問題だと思っている」
それは奇妙な物体だった。戦車、と言いながら、実際のところは人型のロボみたいなものであったからだ。顔に当たる部分へ主砲がつけられ、腕らしきところに副砲。足があって、頭頂部にヒトが乗っている。
「そこで、だ。キズナ。オマエの意見を訊きたい」
「はあ? ぼく、軍事には疎いというか、そもそも知らない」
「なんでも良い。ロシアとウクライナではなんの兵器が使われていた? 他の紛争地帯では? 参考にするだけで、いきなり兵器として採用するわけではない」
「んー、まあ、ドローンが使われてたかな」
「ドローン?」
「そ。あれで歩兵とか戦車も壊しちゃうんだって。あと、情報戦がすごかった印象」
「情報戦にドローンか。良いね。早速、国防総省に提出してみよう」
なぜか採用されそうになっている。キズナは慌てて、
「いやいや、ぼくの薄学を採用したら駄目でしょ」
「私が良いと言っている。なら、問題ないだろ」
ルーシはなんとも愉悦といった感じで、誰かに電話をかけ始めた。ますます性格が読めない少女、基青年である。
次回、シーズン2おしまいです。




