004 精神鑑定と見た目判明
「……そうだね」
ガラス張りの宮殿みたいな病院の前で、3人は誓い合った。
*
かんたんな精密検査を受けたキズナは、なぜか心療内科に案内された。パーラやメントいわく、異世界の記憶を持つ者はまず精神鑑定を受けるという。また、鑑定というと仰々しいが、実際のところは前世の記憶がどれくらい明瞭なのか、そしてこの国でどのような生き方をしたいのか訊くだけだとも。
「まあ、犯罪してるわけじゃないしね」
とはいえ、どこか落ち着かないのも事実。患者の待合室から即座に個室へ案内され、キズナは大きく深呼吸し、ドアを叩く。
「失礼します」
そこには、いかにもマッチョな壮年期の男性がいた。白衣の下からも分かる肉体美に、白髪交じりの医者である。
「緊張しなくて良いよ。形式上やらなきゃいけないことになってるだけだしな。ま、座ってくれ」
「はい」
「さて、まず名前と生年月日、出身国と何世紀かを教えてもらおう。まあ、あの子たちにはもう話してありそうだけどね」
嘘をついても仕方ない。というか、嘘をついたところで意味がない。
「名前は館浜キズナで、2010年生まれです。んで、13歳で死にました。出身国は日本という東アジアの島国で、世紀は21です」
「よろしい。日本という国からの転生者は案外多いから、そんな心配いらないな。しかも21世紀生まれなら、この国ともうまくやっていけるはずだ」
「日本からの転生者が多いんですか?」
「探せばそれなりにいるさ。もっとも、20世紀からやってきてたり19世紀だったりするけどな」
「へー……」
「それでは次の質問だ。これから先は答えたくなければ言わなくて良いからな」
「はい」
「死因と死んだ理由を聞きたい。不運で死んだ、たとえば暴走した車に轢かれたのであれば、死因だけで構わない」
パソコンのモニターには、めまいがするほどの速度で情報が埋め込まれていく。まだ出生を言っただけなのに、もう数十行に及ぶ文字が羅列されていた。
キズナはやや怪訝な表情になるが、いかんせん文字が読めない身分だ。それこそ仕方ないと思い、死因をつらつらと語っていく。
「まあ、自殺みたいなものでしょうね」
「自殺? 具体的には?」
「中学でいじめられてたんです。サンドバッグ代わりに殴られたり、万引きを強要されたりと」
「陰湿な連中だな。殺してェくらい恨んでいるんじゃないのか?」
「まあ、そうですね」あっさり答えた。
「ただ手を出さなかったんだろう? 本当に殺してたら自殺なんてするはずないもんな」
「あんなヤツら、自分から刺すこともなく、いつか自滅するって本に書いてあったので」
「立派な心がけだ。さて、形式上はこの国でなにをやりたいのかヒヤリングして、この場はお開きになるんだけども、君にはひとつ特異点がある」
医者はキズナに手鏡を渡す。キズナは表情筋を使うことなく、それで自分の顔を見た。
赤みがかった短めの銀髪、緑色の目、潤った肌、羊みたいなツノ、目鼻口ともに整った顔立ち。
「病院に入ってきた時点で分かってたよ。君はサキュバスと人間のハーフに生まれ変わったということをね」マッチョな医者はにこやかに、「私も長く医者をやってるけど、転生者で魔族と人間の混血児は初めて見た。だからま、注意点だけでも訊いておきたいだろ?」
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