003 私たちは友だち!!
「おうおう。てめえら、あたしの友だちになにしてくれてるんだ!?」
憤怒に染まるメントがそこにいた。爆発音と大量の人間に囲まれたことで、顔色がさらに悪くなったキズナを守るための行動だったのであろう。
ただ、そこでキズナの意識は途切れた。色々と限界だったのは否めない。
*
「はッ」
次の瞬間、キズナは救急車らしき乗り物のベッドに横たわっていた。狭い車内の隣には、パーラとメントがいる。
「あっ、キズナちゃん! 大丈夫?」
「ああ、うん。夢にしちゃリアル過ぎて、ようやく異世界に来た気になれたよ」
「大丈夫そうには聞こえないな……」
わずか脳裏に浮かんでいた、いま起きていることは夢のひとつだという推測は、完全に打ち破られた。
「でもま、この状態だったら一応精密検査受けて終わりだろ。ですよね?」
「そうなるでしょうな」
レスキュー隊らしきヒトは端的に返事した。
「しかし、異世界人でありながら、サキュバスの肉体を持つ存在がいるのは驚きですな」
「多様化の時代だし、ないことはないですよ!」パーラが答える。
「それもそうですな」
あずかり知らぬところで話が進んでいたようである。パーラ、メント、レスキュー隊の3人は納得していて、されど当人であるキズナはまるで現状を飲み込めていない。
「あのー、いったいなにが起きたの?」
キズナは首を動かしてメントの方を向く。
「気色悪い連中がオマエのこと殴りそうだったから、あたしが魔術で先にぶっ飛ばしといた」
「え、それって暴行罪じゃ──」パーラがキズナの言葉を遮り、「大丈夫だよ、キズナちゃん! あんなの正当防衛に決まってるもん!」
「そ、そうなんだ」キズナはやや慄きながらも、「でも、ありがとう。メントさん。日本だったら見て見ぬふりされて終わりだったから」
「そりゃ薄情だな。友だちも助けてくれなかったのか?」
「友だち、いなかったからさ。ずっといじめられてたんだ」
「あっ、悪かった……」
謝られてしまった。しかし、事実を陳列しただけなのに、すこし悲しそうな表情になってくれたふたりは良いヒトだ。
そして病院へたどり着いたようである。別に立って歩けるので、キズナは担架を断り、ガラス張りの病院へ歩いていく。
「なあ、キズナ」
そんなキズナに、最前気まずそうに押し黙っていたメントが声をかける。
「転移だろうが転生だろうが、元の世界へ戻れないことには変わりない。でも、ヒトは生きてる限り一人ぼっちなんてことはないからな。だから、その」
「私たちを信じて! キズナちゃんが悪い子でないように、私たちも悪いヒトじゃないからさ!」
キズナはしばし押し黙り、「うん、もうすこしだけヒトのことを信じてみるよ」と頷いた。
「うん! 信じて頼って! 私たちは友だちなんだから!」
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