023 館浜キズナの人生
「あー……」
酔っ払ってこちらが見えていないパーラとメントを尻目に、キズナはなんとなく昔を思い出す。思い出す必要性なんてないのだが、ここまでヘトヘトになっていると嫌でも思い浮かべてしまうものだ。
自殺する前、少年だったキズナはいじめられっ子でもあった。ほとんどのいじめに理由なんてないかもしれないが、キズナの場合は違う。元々正義感の強い少年であったキズナは、しばしば嫌がらせや殴打に苦しむ同級生たちを助けるために、それを行う者を咎め、あるいは教師に報告していた。
しかし、いじめを行うような連中にとって、キズナは目障りな存在以外の何者でもなかった。
文句を言われたらムカつく。先生にチクられたら面倒な説教を受ける羽目になる。
それが故、連中は標的をキズナへと切り替えたのであった。
それまで、いじめという概念がなくならないことを知っていても、それでもなお閉塞的な学校という舞台装置で抗い続けたキズナだった。だが、その矛先が自分に向けられたとき、まだ中学生になったばかりの少年は奈落の底へ落下していった。
まず、“ムカつく”という理由で殴打された。口の中が切れ、しばらく飯を食べるのにも苦労した。そしてその暴行は、連中とすれ違う度に行われた。アームロックをかけられ、プロレスごっこと称して顔を地面に叩きつけられ、いよいよ顔や身体にもあざができるようになった。
そんなキズナを親も教師も助けなかった。親に相談すれば、「やり返してこい」とだけ。先生に相談すれば、「遊びの範囲内だろ?」。中学生には耐え難い状況なのに、無責任な大人たちによって、中学内でのキズナへのいじめはもはや学校公認となりつつあった。
暴力だけでは終わらなかった。連中は心がへし折れつつあったキズナに、万引きを強要してきた。「アイスで良いからパクってこい。そうしないと、歯へし折るぞ?」という脅しとともに。
恐怖に支配されたキズナは、コンビニでアイスなどを万引きした。連中はそれをビデオで録画し、なんと学校に提出した。
次の日、キズナは学校から呼び出しを食らう。「これはなんだ?」と万引きの動画を見せられ、ガタガタ震えているキズナを見て、教師たちはこの窃盗はキズナがやったと断定。親へも通達され、コンビニへ謝罪しに行くことになった。
帰宅後、キズナは親からも殴られた。「館浜家の恥晒しめ。やり返すこともできなければ、万引きにまで手を染めやがって。オマエ、更生施設入るか?」と。
そこでキズナはすべてを諦めた。その日のうちに祖母の家へ逃げ込み、いままであったことをすべて吐露した。祖父母はキズナを抱きしめ、もう学校へも家にも帰らなくて良いと、優しく語りかけてくれた。
その後、キズナはいじめの元凶だった中学から転校し、別の中学で保健室登校をしていた。しかし、もうすべてが遅きに失していたのである。
「はあ」
あんな世界から離れられたのならば、それで良いじゃないか。親も同級生も腐ったヤツらばかりだったときに比べれば、パーラやメントがいるこの家は楽園のように居心地が良いのだから。
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