022 キス魔
ロスト・エンジェルスでは、魔術の力量がそのまま生涯賃金につながるという。さらに、魔術能力を金額で評価、要は評定金額で、ある程度の生涯収入を割り出すこともできるのである。
「ほへー、キャメル先生って評定金額いくらなの?」
「3億4,300万メニーって言ってたな。あたしの3倍以上だぜ? 推定生涯年俸が3,430万メニー。まあ、孫の代まで遊んで暮らせるわな」
日本円換算で34億円ほど稼げるらしい。プロ野球球団の年俸総額に匹敵する金額である。つまり、想像もつかない世界にいるというわけだ。
「ただ、キャメルは元王族だし、あんまりカネには興味なさそうだったな」
「元王族ってなんなの?」
「ああ。150年くらい前、ロスト・エンジェルスの独立戦争で英雄的な存在になった連中が、その勢いのまま王族になったんだけども、100年ほど前に王政は廃止されたんだ」メントはウイスキーをグラスに注ぎ、「そもそも独立戦争で武功をあげただけの連中には権威もクソもないから、ってな。ただ、国民投票で平和裏に王位が廃止されたから、キャメルやアーテルは名字を名乗ることが許されてる。あと、政府から補助金が支払われたりしてるらしいぞ」
言われてみれば、キズナもパーラもメントも名字を持っていない。異世界人のキズナはともかく、このふたりに名字がないのは、19世紀だと考えれば不思議な話だ。他国では今頃、庶民にも名字を名乗っているだろうに。
そんなことを考えているとはつゆ知らないであろうメントは、ついに酒を飲み始めた。
「あ、メントちゃん! お酒弱いのに飲んじゃ駄目だよ!!」
「あたしは弱くねえよ。だいたい、オマエのほうがやべーだろ」
「だって私は飲まないもん!」
「でも、きょうはキズナが初登校した記念日だぞ? ホントに飲まないの?」
「あ、確かに。キズナちゃん、飲んで良い?」
なぜキズナに許可を取るのかは知らないが、「良いんじゃない?」と返事しておく。
「キズナは13歳だから飲めないもんな~。あー、残念だ。つってもこの国は18歳から飲酒オッケーだから、あと5年待つだけか~」
ウイスキーをストレートで飲み始めるパーラとメント。メントが弱いのは知っているが、パーラがどれくらいの強さなのかは分からない。でも、嫌な予感がする。
*
「キズナちゃん~チューして良い?」
「ほら見ろ~。オマエ、キス魔になるんだから~」
「信用してるヒトにしかキス魔にはならないもん~。ねえ、メントちゃん~」
キズナはパーラに5回ほどキスされていた。ちなみにメントとは10回以上キスし合っている。
たしか彼女は恋人がいるとか言っていたはずだが、これって不貞行為に当たらないのか、と疑念を抱く。
いや、パーラとメント、そして見た目は女性であるキズナの3人だから成立するのだろう。
とか考えながら、キズナは何度も押し倒されるスキンシップの前に、すっかりグロッキーになっていた。
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