021 健啖家たちの腹八分目
前世への思いはほとんど消え去っていたが、日本食だけは忘れられなかったキズナに、朗報が舞い込んできた。
「ホント? すっげえありがたい」
『だよな、パーラ──『もしもし、キズナちゃん! あのね、学校にいる日本からの転生者に日本料理聞いてみたんだ! それでさぁ、試しにつくってみた! いまビデオに切り替えるね!』
割り込んできたパーラは、これでもかと言わんばかりの料理をビデオで見せてきた。
寿司だらけだ。キズナたちが暮らす国ロスト・エンジェルスは、アイルランドほどの本島と数十個の小さな島々から成る国なので、案外採れる魚も多いらしい。
マグロ、白身、光り物、エビ、イクラ、玉子、その他諸々。パーラの友人は渋いネタが好きなようだ。
「すげっ。高級寿司屋みたい」
『食べてみたけど、結構美味かったぞ。その他も用意してあるから、きょうは寄り道しないで帰ってきな』
「分かった。ありがとうね、ふたりとも」
帰れる場所がある喜びを噛み締め、キズナはKOM学園の初日を終えてしまうのだった。
*
「もうすこし多くつくれば良かったよ~。微妙に足りない~」
「腹八分目が肝心だぜ? パーラ」
兎にも角にも、パーラとメントは健啖家だ。なぜ30貫も食べて腹八分目だと言えるのか。しかもネタが大きい。シャリも大きい。回転寿司の2~3倍くらいの大きさだ。きっと、パーラに寿司を紹介した友人は江戸時代出身だろう、と確信するほどに。
「どうだった? キズナちゃん」
「美味しかったよ。味はね」
「やっぱり量多かった?」
「そりゃ……ぼくは中学生だからか、胃袋が小さいからね」
「成長期こそ良く食べるべきだろ。身体大きくならないぞ?」
味には文句がない。というか、居候している身なのに料理まで出してもらって、ケチつけるような人間にはなりたくない。
ただ、このふたりの食事についていくのは困難だ。ついでにいえば、野球部所属でトレーニングを欠かさないメントはともかく、パーラはなぜ太る気配がまったくないのか訝りたくなる。
「大丈夫だよ、キズナちゃん! メントちゃんと暮らしてれば勝手に食事量増えるから!」
「そうかもね……」
「さて、キズナよ。案の定学校でトラブルに巻き込まれたみたいだな。ある程度聞いたけども」
「まぁね。こんなに闘志むき出しで殴り合うお嬢様学校だとは、思ってもなかった。でもまあ、良い刺激になったかもしれない」
「そりゃ良かった。けど、キャメルが言ってたみたいに──「キャメルちゃん、いまKOM学園の教員やってるの!? すげえ! まだ大学3年生なのに!」
「んん? キャメル先生って大学生なの?」
「そりゃそうだろ。あたしらの同級生だぞ? それに、アイツはあたしらのタメの中でもトップクラスの魔術師。いろんな仕事のインターンやって、一番合った仕事のエリートコースまっしぐらだろーさ」
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