020 甘いヤツ
「き、キズナ様に触れないでください!!」
アーテル・デビルはそう叫んだ。しばし沈黙が場を支配するものの、やがて数メートル跳ね上がった少女が地面にバキッ!! という音とともに地面へ戻ってきたことで、あたりは悲鳴に包まれる。
場が混沌とする中、教員がこちらへ向かってきた。ようやく、と言った感じである。
「貴方たち!! なにしてるの!?」
その低身長な茶髪の女性教師は、怒号とともにアーテルと白い髪の少女の間へ入った。
皆がうろたえる中、キズナに“チャーム”をかけられたはずの白髪の少女は、両手を挙げて降参のサインを出す。その表情に、余裕はない。
「あ、あ。キャメル先生……」
同時にアーテルの表情も青ざめている。どうやらこのキャメルという教師は恐れられているらしい。
「……。とにかく、誰か救急車を呼びなさい。その子、骨折じゃ済まないわよ? それと」
と、どこか他人事のように考えていたキズナであったが、その160センチにも満たない低身長な教師は、まずキズナのもとへ詰め寄ってきた。
「貴方がキズナね? ちょっと話があるわ。着いてきなさい」
どうも、主犯格だと思われているようだ。たまたまアーテルが絡まれていたから、それを止めるためにこの場へいただけなのに。
そして、キズナとキャメルはすこし離れた、彼女たちの声が聞こえない場所で立ち話を始める。
「あの子に怪我を負わせたのは、貴方かしら?」
「いいえ」淡泊な返事だ。
「だと思った。良かったわ」キャメルはすこし安堵した表情で、「貴方、転生者なんでしょ? メントから話は聞いてるわ。自分の魔術を制御できずに、望んでもないのに誰かを傷つける可能性があるって」
「メントさんと知り合いなんですか?」
「ええ。同じ学園に属してたわ。当然、パーラもね」
「ほへー」
「ともかく、貴方はもう帰りなさい。アーテルと貴方が悪くないことは分かってるから」
キズナの背中を押し、キャメルは帰宅するように伝える。
「分かりました」
この場に残ってもやることはない、という意味合いにも聞こえたので、キズナは大人しく校門へと歩み始める。
その最中、メントから電話が飛んでくる。
「もしもし」
『キズナ。オマエ、一日目から飛ばしすぎだろ~。キャメルが大慌てしてたぞ?』
「なにに慌ててるの?」
『KOM学園の戦力均衡が崩れかねないことに、だな』
「戦力均衡?」
『あたしも良く分かんねえんだけど、KOM学園は派閥同士の対立がやべーんだってさ。中でも、高等部の評定金額第1位のアーテル・デビルって元王族に、第2位のイブって白い髪のガキが挑もうとしてる的な話だと。なんとか喧嘩にならねえようにキャメルは腐心してたらしいけど、そのデタントもいましがた壊れちまったみたいだ』
「良く分かんないなぁ。まあ、アーテルさんはお咎めなしってキャメル先生言ってたし、それなら良いや」
『ホント甘いヤツだよな、オマエって』
「嫌味?」
「んなわけないだろ。ともかく、きょうはもう帰ってこい。パーラが日本って国の料理をつくってみるってさ」
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