019 女子のスクールカースト
結局、なにも分からないまま、キズナは初授業を終える羽目になった。不良に憧れているかのごとく、鋭い眼光をぶつけ合う女子生徒たちとは関わりたくないので、授業が終わったタイミングでキズナはすぐ外へ出る。
(女子同士のスクールカーストって、喧嘩で決まるのかな)
当然、(ろくに通っていなかったとはいえ)21世紀日本でも女子たちの權力闘争はあっただろう。ただ、あんな一触即発ではなかった。パーラやメントは、KOM学園を比較的平和だと語っていたが、キズナからすれば平和とはなんぞや、とつっこみたくなる。
(まあ、きょうはもう帰ろう。本格的な授業はあしたからだし)
というわけで、無意味なほど広い宮殿みたいな学校を歩いていく。
(というか、もう気温5度まで下がってるじゃん。足、絶対冷えるよね、これ)
校内の至るところに設置されているモニターが、寒波を報せてくる。
暖房設備が整っているので屋内は寒くないが、一歩外に出れば話が変わってくる。パーラとメントに弄られたスカートの短さの所為で、ストッキングすら履いていないキズナは、生まれたての子鹿のように足を震わせた。
「さみい……」
あしたから防寒対策しておこう、とキズナは誓う。
そんな凍え死にそうなほど震えているキズナは、なにを間違えたか校門でなく、その真逆にある第3校舎にたどり着いてしまう。
「噴水がお湯だったらどれだけありがたいか……ん?」
みんな下校時間だというのに、随分ヒトが集まっている。しかも騒がしい。どこかで聴いたことある声が、やかましく誰かに啖呵を切っているようだ。
キズナは怪訝な表情になりつつ、自分には関係ないと噴水前を立ち去ろうとする。
が、壁のごとく集まっている女子たちの隙間から、キズナは先ほど話したばかりの少女たちを見つけてしまう。
「──アンタのすべてが気に食わないのよ。元王族の序列1位だからって、私たちを見下しているのでしょう?」
「──そ、そんなことないです。私はただ……」
(アーテルさん? それに、さっき“チャーム”かけたヤツ?)
なにやら言い合いに、というか一方的にアーテル・デビルが責められているようである。
放っておくわけにもいかないので、キズナは女子たちの間を強引に通り抜け、ふたりの元へ向かう。
「どうしたんですか? ふたりとも」
「あ、いや、なんでもないです……」
アーテルは弱々しくキズナへ返事する。
「なんでもないことないでしょ。ねえ?」
そして、すでに“チャーム”にかかっている白い髪の少女に近づいていく。
「あら、貴方。イブ様になにするつもりなのかしら?」
が、誰かに肩を掴まれ、キズナの動きは静止される。
そのサキュバスとの混血児は振り返り、サングラスをずらし、「なんスか?」と語気を強める。
「目上のヒトへの口の利き方を知らないのかしら? まったく、“教育的指導”が必要ね」
ざわざわ、と騒がしくなる女子たち。こうなれば、自助のためにサキュバスの片鱗を見せるしかない、と思ったとき。
キズナの肩を強く握っていた少女が、レシートのごとく、空中高く跳ね上がった。
閲覧ありがとうございます。
ブックマーク、感想、良いね、ぜひお願いします。




