018 勘違い
(“チャーム”かかったのかな?)
しばし、沈黙が流れた。キズナは胸倉を掴まれたまま、おそらく30秒経過したはずだと信じる。
やがて、答えが明かされる。
アルビノみたいな髪色と白い目の少女は、キズナから手を離した。そして、一目散に走り去っていった。
「あれ?」
周りが再び騒然とする中、むしろ一番驚いたのはキズナのほうであった。
目を30秒見た相手が、熱烈な愛情を抱いてくるとの説明を受けていたものの、まさかあんな全力で疾走し始めるとは思ってもなかった。
「まあ、好きなヒトの顔も見られないくらい照れ屋ってことかなぁ」
ともかく、不愉快な絡み方をしてきた少女は消えた。黒髪少女アーテル・デビルも、胸をなでおろしていることだろう。だからキズナは、アーテルの方を(サングラスをかけ直して)振り返った。
「き、キズナ様。いまの魔術は?」
「さっき言った“チャーム”ってヤツですよ。たぶん」
実際、脳内までは分からないので曖昧な返事しかできない。
「つ、つまり、イブ様はキズナ様に恋煩いしていると?」
「まあ、たぶん」
(なんか、クッソ恥ずかしいな。なんでだろ)
なんというか、実際“チャーム”を使ってみると恥ずかしくなってくる。
友人的な意味で好きになったヒトはいても、恋愛には疎すぎるキズナは、どうしても恋というものを理解できない。
そんな動乱の中、予鈴が鳴ってくれた。これは逃げるチャンスだと、キズナはオリエンテーションが開かれるという教室に……そういえば、どこで開かれるのだろうか。
「ねえ、アーテルさん、いや、様? ともかく、中等部のオリエンテーションってどこで開かれるか知ってますか?」
「中等部? キズナ様は高等部ではないのですか!?」
「え? アーテルさんも中等部じゃないんですか?」
甚だしい勘違いをしていたようだ。確かにアーテルはキズナより高身長だし、着ている学生服のエンブレムも微妙に違う。つまり、1歳年上ではなく、4歳年上というわけだ。
そういう混乱の中、予鈴が鳴り止んでしまった。これでは初日から大物になってしまう。
「と、ともかく、ぼくもう行きますよ。初日から遅刻して悪目立ちしたくないし」
「は、はい。あの、ご健闘を!」
「そちらこそ。またどこかで会いましょう」
*
なぜこの学校は無駄に広いのだろう。結局、教室にたどり着いたときには、初日の授業はほとんど終わっていた。
ただ、私立大学の講義室みたいな場所に集まる生徒たちのほとんどは、遅刻してきたキズナに関心がないようであった。スマートフォンをいじくっていたり、誰かを睨みつけていたりと、色々忙しいらしい。
(ホントに女子校なのかよ、ここ。余裕で“チャーム”掛けられそうなくらい睨み合ってるヤツらばっかだし。てか、なんて書いてあるか読めない)
そんなカオスな部屋にて、キズナは一番後ろの席へ申し訳無さそうに座る。
4K有機ELモニターの数十倍美麗な3Dホログラムが、目まぐるしく校内での注意事項らしき情報を載せてくる。それは、未だ口語しか理解できていないキズナをフリーズさせるのだった。
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