015 困ったときはお互い様
カインド・オブ・マジック学園──通称、“KOM学園”。総生徒3,000人を誇るマンモス校である。
また、この国ロスト・エンジェルスにおける最大の女子校でもある。それが故なのか、学生服も可愛くつくられている。
ただ、つい一週間前まで男子だった半サキュバス少女キズナに、緑を基調とした制服の愛らしさはいまひとつ理解できない。
強いて言えば、こんな寒い国なのに、前世での横浜市並みにスカートが短い子ばかりなのは不思議、と言ったところか
そして、バスで学校へ着いたあと、同時にこうも思った。
(まあ、この国一応19世紀だから宮殿みたいな校舎にしてるのかな?)
イギリスのバッキンガム宮殿みたいな見た目の校舎前、キズナはポカンと口を開ける。自由の女神並みに巨大な女性の銅像も建っていて、随分生徒からカネを搾り取ったのだろうな、と余計なことを考えてしまう。
そんな口を開けて首をかしげる、ホログラムみたいな黒い翼と尻尾を生やす少女の肩を誰かが叩いた。
「や、や、やあ。あっ、違った。ご、ご、ごきげんよう」
肩を撫でるように叩いてきた割には、尋常でないほど手が震えている。
普通、こういう行為をする者の手が、アルコール依存症患者みたいにピクピク動いていることなんてありえない気がするものの、とりあえずキズナは返事しておく。
「えーと、なんだ。素敵なお召し物ですね」
ぶっきらぼう過ぎるだろ。語気からしていい加減だぞ、キズナ。
「ど、ど、どうもありがとうございます」
そういえばロスト・エンジェルスに転生してからまったく見たことのなかった、黒髪のロングヘア。髪質が良く、太陽光を浴びると青みがかるのが特徴だ。また、ロングヘア自体がなんとなく珍しい気がする。
顔立ちは美人だが、表情はひどく怯えている。なにを怖がっているのかは分からない。
「え、え、えーと、お名前は?」
「キズナです。あれかな、後期編入した形になるのかな? んまあ、1学年です」
「い、1年生なのですきゃ──いたッ!!」
口が振動しすぎて、口の中か舌を噛んでしまったらしい。
「大丈夫ですか? 体調が悪そうだ」
「だ、だ、大丈夫です……」
「ホントに?」
「あ、あ、本当は大丈夫じゃないです……わ」
(無理してお嬢様言葉使ってるのかなぁ。まあ、本来だったら入学金と授業料で7万メニーくらいだって言うし、お嬢様学校でもあるのか)
それはさておき、口から吐血するヒトを放っておくほどキズナも薄情ではない。羊の角が生えているサキュバスとの混血児は、名も知らぬ彼女の手を引っ張る。
「え、え?」
「保健室、行きましょう。口からとんでもない血出てますよ?」
「あ、え、あ、ひゃいっ! あ、あの──」
これ以上喋られても傷口が悪化するだけなので、キズナは人差し指を口元に突き立てる。
「良いから。困ったときはお互い様、って言うでしょ?」
シーズン1、開幕です。よろしくお願いします。




