出されなかった手紙
7月7日 七夕
少女は机に向かって短冊に願い事を書いていた。
少女にはパティシエになって自分のお店を持つという夢がある。
願い事を書き終えて一息ついた少女はふと疑問に思ってつぶやいた。
「ふぅ、今日に願い事を書いて笹に吊るしたら織姫様と彦星様が叶えてくれるって言うけど、織姫様と彦星様ってどんな人たちなのかな?」
「そもそもあんなにたくさんの願い事、どうやって叶えてくれるんだろう?」気になった少女は疑問を解消するため図書館へと向かった。
図書館で七夕に関する本を何冊か手にとって自習室でその中の1冊を開いて読み始めた。
「織姫様が機織り、彦星様が牛飼い…よくわからないけど2人共働き者なのね」
織姫と彦星が出会い、お互いに惹かれ合っていく場面では頬に手を当てて
「うんうん、好きな人とは一緒にいたいわよね」
頬を赤らめてうっとりしていたが、お互いのことばかりに目がいって仕事をしなくなる場面では表情を曇らせて
「う〜ん、いくら好きどうしでもお仕事をしないのはダメね。お父さんが怒るのもムリないわ」
将来お店を持ちたい少女にとって仕事をしないのは良くないことだと思った。
最後まで読み終えて本を閉じた少女の目には涙がこぼれ落ちていた。
「そんな………いくら遊びほうけていたといっても無理矢理引き剥がすなんてあんまりだわ……」
「しかも1年に1回しか会えないなんて……」
「その会える日が今日の七夕だけ……これは願い事をしている場合じゃないわ。今日だけでも2人の時間を楽しんでもらわなきゃ」
少女はこの時一つの決心をした。
「そうよ! 2人の時間を邪魔してお願いを叶えてもらうんじゃない。自分の夢は自分で叶えなきゃ!」
そう宣言して図書館から家に帰った少女は願い事を書いた短冊を机の中にそっとしまった……
その後……少女から女性の橋を渡って大人になった彼女は努力に努力を重ねてパティシエとなった。
今では愛する夫とともにお店を開業して夫婦で作る甘くときに苦いスイーツで多くの人を笑顔にしている。
彼女の机の中にはボロボロになった短冊が大切にしまわれていた。