序章
元殺し屋は異世界に暮らす
またわすれてしまった。
昨日のことなのに。
その人が何故殺されなければならなかったのか。
ちゃんと計画を立てる時に全て調べたのに。
顔も忘れてしまった。
名前すらも。
なのに殺した方法だけは覚えている。
その地域の警察の動き、監視カメラの位置。
あの引き金を引き、一つの命を奪う感覚まで、人を殺すためだけに役立つ経験だけは覚えてる。
帰ったらまた依頼が届いてた。
またあの感覚を味わなければならないのか。
いつになったら依頼はこなくなるのだろうか。
僕はいつ失敗して死ぬのだろうか。
僕が生きているから暗殺を考える人がでてくるのだろうか。
僕が死ねば、幸せに生きれる人が増えるのだろうか。
僕が生まれて来なければ今まで殺してきた人は今も幸せに生きていたのだろうか。
もう疲れた。
死ねば楽になるのだろうか。
楽になるとしても、死ねない、死にたくない。
それは白で塗り潰してしまうということだから。
だから僕は偽り続ける。
自分を。
自分の気持ちを。
そうしろと、言ったから。
晴れた空。見慣れた通学路。
酷い頭痛。
俺は昨日仕事があり、寝不足で死にそうになっていた。
何日も寝ないで学校に行くのはもう何回もあったのでなんとか歩けてはいるが、今回の依頼は今までにないくらいの難易度だったので、今にも倒れそうだ。
俺の名前は四矢 落葉。高校生でもあり、殺し屋でもある。
昨日は普通なら一週間程かけてする仕事を一晩で終わした。
平日は学校があるので出来るだけ一晩で終わすようにしているのだ。
海外での仕事だったので、帰りは寝たが、ヘリでの睡眠は俺には合わな過ぎた。
今日は出来るだけ誰とも喋らないようにしよう。
そんな事を考えながら登校していると、前の十字路から知ってる顔が出てきた。
最悪だ。
「あ!おっはよー、四矢。」
「おはよう、キサ。」
紀伊 紗奈。
同じクラスの女子。
いっつも俺の宿題を写すのに、テストではほとんど順位一桁をとる、いわゆる天才っていうやつ。
よく俺に話しかけてくるので、この状況で出会うのは全くもって嬉しくない。
「大丈夫?またクマできてるよ。」
「え?昨日ちゃんと寝たんだけどな。」
まぁ昨日仕事で一時間も寝てないんだからそりゃできるわな。
「本当?クマできてるときいっつも寝てるって言ってるじゃん。本当は強がってるだけでしょ。」
「まさか。まぁそんなことより、何か用事があるんだろ?」
どうせ課題だろうけど。
「そうそう!課題やってこなかったから写させて。」
やっぱり。
「・・・お前人のこと心配する前にまず自分の将来を心配しろよ。」
「大丈夫!テストでいい点数取れるから!」
「なんで課題やってないのにいっつも順位一桁とれるんだよ。」
「前日にめっちゃ勉強してるもん。」
「・・・はぁ。ジュース奢れよ。」
「はぁ!?なんで!?」
「宿題を写させてやるんだ、それ相応の対価が必要に決まっているだろ。」
「女の子に奢らせるの!?」
「性別とか関係ないだろ。奢れ。オレンジジュースが飲みたいかなぁ〜。」
「奢るって言ってない!はぁ、なんで他の女の子には優しいのに、なんで私ばっかりそんな冷たいの?」
「毎日課題やってないやつに優しくできるわけないだろ。ほらそこのコンビニで買ってこい。」
「酷い!そんなのあんまりだわ!」
キサは両手で顔を覆い、項垂れるふりをした。
俺は見なかったことにし、学校への足先を早めた。
すると、後ろから走って来る音が聞こえ、
「ふ・ざ・け・る・な!」
「グガッ」
頭に強い衝撃を受け、俺は膝を着いた。
「着いたな片膝。」
顔を上げるとそこには右手を上げているドヤ顔のキサが立っていた。
どうやらキサが走って来て、その勢いを乗せて頭を殴ったようだ。
ドヤ顔で漫画みたいなセリフ言いやがって。
「てめぇ・・・」
俺は怒鳴ってやろうかと思ったが、立ち上がったときにくらくらしたのでやめた。
「はぁ、絶対課題見せてやんねぇわ。」
「いや!ほんとごめん!それだけは勘弁してください!謝るから!」
「じゃあ、見せて貰おうか、心からの謝罪を。」
「てへぺろ☆」
「チッ」
「舌打ちすんな。」
俺は無視して学校へと足を進める。
「待って!ほんとごめん!謝るから!ほんと課題終わさないとやばいから!ごめんって!」
「やだ。」
「いやほんとお願い!見せてくれたらもしかしたらジュースが出てくるかもしんないからさ。本当の本当にお願いします!」
はぁ。
俺は諦めてバックから課題を取り出す。
「ありがとう!」
キサは俺の手から今日提出の課題を取って友達らしき人の方に走っていった。
話していたら、学校に着いたようだ。
キサは振り返り、こちらの方へ軽く手を振ると、すぐさま友達の方へ向いた。
俺は暗殺の他に、潜入調査や、拷問し、情報を取ったりする仕事もしている。
その仕事をこなしていく内に相手の表情から思考を読み取ることが多少できるようになっていた。
キサの表情からは俺に対し、全く興味がなさそうだった。
課題を写させてくれる良い人としか思ってないのだろう。
でも、それでいい。
近づいてきた人を突き放す方が苦しい。
これでいいんだ。
キサが玄関の前まで行くと振り返り、
「自分の身体は大切にしないとだめだからね!四矢が休んだら宿題写してくれる人いないから!」
?
何か違和感を感じる。
今まで見えなかったものが突然見えたような、そんな感じがした。
まぁ、とりあえず俺は返事の変わりに手を上げた。
そうした時には何を感じたかもう忘れてしまっていた。
考えようとしたからか、頭痛がまたしてきた。
こめかみを軽くおさえながら
二階へ上がる階段を登ろうとしたとき、一段目を踏み外しバランスを崩してしまった。
天井が見えたと思ったら頭に強い衝撃がきて、意識が無くなった。
目の前に人が立っていた。
自分だった。
自分が口を開ける。
「お前はなんで人殺しなんてしている。」
そんなの決まっている。
世界の間違っているところを変えるためだ。
そう答えた俺の声は震えていた。
「そんなの嘘だろ。」
自分が言う。
「全部八つ当たりだろ?義母に捨てられたこと。大切な人が殺されそうになったこと。そして、自分に両親がいないこと。なんで自分ばっかり、自分はこんなに頑張っているのにこんな不幸なんだと。」
違う。
それが嘘だから出たのか、ただ認めたくなかったから出たのか分からなかった。
「全て壊したいんだろ?」
俺は首を横に振る。
「皆殺したいんだろ?周りにいるやつも。」
違う。
そんなの絶対に
・・・いやだ。
「何がいやなの。」
俺は慌てて起き上がった。
頭に痛みが走りこめかみを押さえる。
周りを確認すると、保健室のベッドに居た。
横にはキサが椅子に座っていた。
「いや、なんでもないよ。」
「ふーん。」
・・・。
「怒っているのか?」
「・・・。」
キサは無言でコップに水を入れ差し出してきた。
俺はそれを受け取り、水を飲んだ。
キサは無言でこっちを見つめている。
わからない。
キサの表情からは以前として何も読めない。
「だいぶクマ良くなったね。」
「そうか?」
「まだちょっとあるけど、さっきよりはいい。」
「・・・そう。」
・・・。
「・・・今は?」
「昼休み。」
「え?」
「身体に気を付けてっていってすぐに倒れてるんだもん。ほんとありえない。」
「いやー、えーっとそれはー昨日ほとんど寝てないから仕方ないといいますかー。」
「やっぱり寝てないんじゃん!」
やべっ
「えー、それは寝てないって言ったら絶対心配するだろうから心配させないようにあえて言わなかったと言いますか。」
「本当はめんどくさかったからでしょ。」
「はい、そのとおりです。ごめんなさい。」
「はぁ。」
めっちゃ大きなため息された。
「あのさぁ、私は心配して言ったんだよ?それを適当に返されることがどれだけかわかってるの?」
「誠に申し訳ございませんでした。」
「よし。じゃあ、今日はもう帰って休んで下さい。荷物は持ってきたし、早退届はもう出したから、早く帰るよ。」
「いや大丈夫だよ。テストも近いし。」
「ダメ!今日は早く帰って寝て!ほら荷物持って!」
そう言ってキサは左手で俺のバックを俺に向かって投げた。
キサは右手にバックを持っていた。
「そのバック誰の?」
「私のよ。」
「ん?なんでお前もバック持ってんの?」
「そりゃぁ、私も一緒に帰るからよ。」
「なんでだよ!」
「帰ってる途中に倒れたりでもしたらどうするの。」
「う、大丈夫だよ。」
「ダメです。心配ならいらないよ。先生に許可貰ったし、授業中寝るし。」
「・・・授業ぐらいまじめに受けろよ。てゆうか絶対授業サボる為だろ!」
「うるさい!いいからいくよ!」
キサは俺の手を引いた。
俺は諦めて大人しく帰ることにした。
「あの、キサさん。」
キサがこちらを向く。
「あの、この手は一体どういうことなんでしょうか?」
俺は握られている手を上げる。
「倒れたりするのを防ぐためだよ。こう手を繋いでいれば、倒れそうになったってすぐに支えることができるでしょう?」
「いや、そうかもしんないけど、ほら、すれ違う人に勘違いされるかもしれないじゃん。」
「ん?あっ!なるほど〜。周りから見たらカップルだから、嬉しくて嬉しくてしょうがないってことね!」
「違います。」
「とか言って本当は嬉しいと思ってるんでしょ?」
「思ってないです。」
キサはムッとした表情になった後、スマホを取り出した。
「ハイチーズ!」
「!?」
スマホには俺とキサが写っていた。
「やったぁ!四矢とツーショットを撮れたぁ。」
「おい、俺マヌケみたいな顔してただろ消せ。」
「やだよー。四矢のこんな顔今後そう見れんしょ!」
・・・。
「はぁ。」
「なになに?嬉しい?私にときめいちゃった?」
「いやただ疲れた。」
キサはまたムッとした。
「四矢はもうちょっと正直になったらかわいいのになぁ。」
「は?」
「だから、かわいくて惚れちゃうって言ったの。」
「何言ってんだよ。」
キサはニコッと笑った。
・・・。
「はぁ。」
キサは以前こちらを見ている。
「なんだ?」
「べつにー、なんでもない。」
何もわからなかった。
けど、分からなくていいと思った。
この感情がわかってしまったらきっと・・・。
ピロリン
キサのスマホが鳴った。
「ごめん、ラインきたからちょっと手離すね。倒れないでね。」
「誰が倒れるか。」
俺はキサがラインを見終わるまで遠くの雲を見ていた。
「もう大丈夫だよ。ほら手出して。」
「いやだ。」
「そんな恥ずかしがらなくていいのに!」
「いや、大丈夫です。」
「いいから、ほら!」
キサは無理やり手を繋いできた。
?
キサの手が震えていたような気がした。
気のせいだと思いながら朝キサと会った十字路まで歩く。
「じゃあね、四矢。」
そう言い、家に帰るキサは悲しい顔をしているように見えた。
鳥の鳴き声が聞こえる。
窓の方を見るとカーテンの裾から光が入っている。
今日は今までにないくらい目覚めがいい。
時計を見ると六時になっていた。
どうやら帰ってからすぐに寝て、今までずっと寝ていたらしい。
睡眠時間十六時間か、どんだけ寝ていたんだよ。
どんだけ疲れてたんだよ。
いや、学校でも寝ていたから。
実質二十時間だ。
アホなん?
・・・まぁいいや。
ご飯を作ろう。
そう思い、厨房に向かうと、あいつの部屋のドアが開いていた。
「はぁ。」
さっきまでいい気分だったのに、最悪だ。
ご飯を作るか。
・・・おし!
かなりいい出来だ!
「おーどれどれ?」
俺は近づいてきた粗大ゴミの顔面を思いっきりグーで殴った。
「痛いじゃねぇか!」
「うるせぇ!ご飯にゴミがつかないようにしたんだよ!」
「それゴミって俺のこと言ってるだろ!」
「そうだよ!」
・・・。
「とっても傷ついた。」
「うるせぇ。仕事は?」
「もちろん終わったよー。もう、治療が大成功してね、治療費ましましでもらっちゃった☆もう、大変だったんだよー。追ってから隠れての治療だったから短時間で終わらせなきゃいけなくてね、けど、治療内容が切断された脚をくっつけるという、ちゃんとした器具があっても成功するかわからないほど難しい治療だったんだよ。でも、俺はメスと針と包帯とお薬だけで僅か一時間足らずで成功させたんだよ!全く俺の作る薬は神だね!」
「お前の作る薬はほとんどが副作用ありまくりのゴミだろ。」
「・・・。」
「飯が冷める。早く食うぞ。」
「はーい。」
「「いただきます。」」
もぐもぐ
「うまい!」
俺は醤油差しをゴミの顔面に投げた。
チッ、受け止めやがった。
「なんで!」
「食事ぐらい黙ってろ!」
・・・。
「ごちそうさまでした。」
「ごちそうさま。」
「あ、そういえば!前に話したあの暗殺者、また大仕事をこなしたみたい。近ごろまた大きな仕事をするって情報屋から聞いた。そいつは女で年齢は二十歳程、日本人らしい。関係無いと思うが、一応気をつけろ。」
「ああ。」
「・・・なぁ、落葉。」
「なんだ。」
「なんか悩んでる?」
「・・・なんでわかるんだよ。」
「はっはっは。俺を誰だと思っているんだ!過去に拷問の仕事や、情報屋の仕事だってやってたんだぞ!その程度の表情、何考えてるか読めるわ!」
何回聞いてもうざいな。
事あるごとに自慢しやがって。
だからこいつは嫌いだ。
「そう嫌わないでくんない?俺だって人間だから傷つくんだよ?」
「黙れ。」
「お前とか、こいつとかじゃなくて、松平とかなんならお父さんって呼んでもいいんだよ?」
「誰がお前の名前なんか呼ぶか。」
「・・・まぁ、悩んでるならいつでも相談してね。悩んでいる状態で仕事受けても危険だから。今日も俺は仕事あるけど、夜には帰って来れる予定だから俺の分も晩御飯作っといてね。んじゃ、行ってきます。」
「・・・。」
玄関の扉が閉まるのが聞こえた。
頼ってよかったのだろうか。
これは俺の問題だから俺一人で解決しなきゃいけないって思ってた。
けど、もう何もわからない。
解決出来る気がしない。
あいつに相談すれば、何か分かるのかな。
・・・。
今日何も進展しなかったらあいつに相談しよう。
よし、学校行くか。
ホームルームの一時間ほど前なのに、教室にはすでにキサがおり、読書をしていた。
前もこういう時があった。
キサは前と同じく宿題を終わらせているだろう。
キサは俺の方をチラッと見ると、ポケットから紙を取り出し、無言で、無表情で紙を渡してきた。
俺は自分の席に座り、その紙を開くと時間と場所が書かれていた。
この学校からは少し遠い喫茶店。
今日のこの時間に喫茶店に来いと言うことだろう。
一体何の用だろう。
授業中に考えたりしたが、結局わからなかった。
例の喫茶店に来た。
指定された時間よりもかなり早く来てしまったので、中でコーヒーでも飲んでいよう。
喫茶店の中に入ると、奥の席でキサが本を読んでいた。
他に客は居ないようだ。
キサは俺に気づくと手招きをした。
俺は大人しくキサの前に座った。
「早かったね。」
「どうも。すみません。コーヒー一つ。」
店員さんにコーヒーを頼んで、
「で、何の用ですか?」
「いや、まずは四矢のコーヒーがきてからにしよう。」
コーヒーがきてから十分が経とうとしている。
「あのそろそろ何の用でここに呼んだのか教えていただけませんかね。」
「ん?ああ、ごめん考え事してた。」
人をこんなとこまで呼んでおきながら存在を忘れるなんていい度胸してんな。
「んじゃ、なんで呼んだかなんだけど、ちょっと待ってね。」
キサはバッグの中から一つのファイルを取り出し、机の上に乗せて、右手でこちらに伸ばしてきた。
そのファイルの中にあったプリントの内容は、来月にある文化祭について書かれていた。
その時信じられない物が視界の隅に入った。
それはキサの左手に握られ、こちらを向いていた
拳銃だった。
バンッ
俺が頭があったところを銃弾が通る。
俺は拳銃だと認識した途端、バッグを右手で掴み、左に転がっていた。
キサを見ると、避けられたことに少し動揺しているみたいだ。
だが、すぐにこちらに拳銃を向けようとしていた。
俺はバッグで射線を切って出入口のドアに走った。
キサは俺に向かって四発撃ち、二発はバッグに、一発は床に、そして、もう一発は俺の足に当たった。
俺は無様に転がった。
キサの拳銃は銃弾が六発入るタイプの拳銃だった。
つまり、残り一発残っている。
その一発は絶対に避けれない。
あの手順、精度の良さは俺と同じ殺し屋だろう。
人を殺す前にあれほどの表情を作れるなんて、俺と同じ、今までたくさんの人を殺してきたやつにしかできない技術だ。
そんなやつが倒れているやつに外すなんて絶対に有り得ない。
キサは拳銃を向けながらこちらに近づいて来る。
キサの口がゆっくりと動く。
「まさか、最初の一発を躱すなんて、思いもしなかった。流石ね、四矢 落葉。」
キサはこちらを見ながら銃弾を補充していた。
これで俺の死が確定した。
こちらを見るその目は酷く冷たかった。
俺は何故か朝、あいつに言われたことを思い出した。
新人の暗殺者。
あいつが言っていた特徴にキサはだいたい当てはまる。
大きな仕事を軽々とこなす、天才の新人暗殺者がクラスメイトかもしれないとはね、笑っちゃうよ。
「ちなみに店員さんはうちの組織の人だから、助けは来ないわよ。」
「へへっ、まさかお前が暗殺者だなんて、思いもしなかったよ。」
「ふっ、死ぬ寸前によく笑えるわね。これが夢とでも思ってるの?」
「いや?全く。」
「ふふ、やっぱりおかしな人ね。あなたを彼氏役にしてあげようとしたのに、全然なんだもの。絶対行けるって思ってたのに。」
「だってお前色気ねーじゃん。」
「へぇ〜、拳銃持ってる人を煽るなんて、いい度胸してるじゃない。」
「そりゃどーも。」
何も考えたくない。
もう疲れた。
仕事ミスって死ぬのかと思ってたけど、まさか、暗殺されて死ぬことになるとは(笑)。
今までしてきたことが返ってきたって感じか。
そういえばまだこなしていない依頼、たくさんあったな。
めっちゃ混乱するだろうな、とくにあいつ。
恩返せてねーや。
はぁ。
胸が痛い。
痛い?
なんだっけそれ?
そんなの僕知らない。
「そろそろ店員さんが帰ってきちゃうかもしれないから終わりにしましょう。さようなら、四矢。」
僕は目を閉じる。
もう偽りたくないな。
バンッ
銃声が響くのが聞こえた。
身体のどこも貫かれる感覚は未だにない。
もしかしたら頭を撃たれて、撃たれたのを感じる前に死んじゃったとか?
んなばかな。
んじゃ外した?
それもあり得ない。
んじゃなんで?
・・・。
やっぱ撃たれたの気付かなかったんかな?
色んな感覚鍛えてたのに気付かないのはつらいな〜。
はぁ。
ワンチャンあの命の危機とかのときに時間が引き伸ばされるやつになってるかも。
目瞑っているのに?
あれ目開いてて弾がゆっくり来てるのがわかるのが普通じゃない?
・・・。
身体の感覚あるんだよなー。
なんか変な感じだけど。
んー。
目開いてみるか!
目開いた瞬間撃ち抜かれるとかやめてよ?
うん、普通に目開きそう。
んじゃ、お邪魔しまーす。
まず最初眩しい光が目に入ってきて、何も見えなかった。
徐々に目が慣れて来ると人影が見えてきた。
!?
目の前にはやはりキサが立っていた。
けど、キサは全裸だった。
「キャー!!」
僕はとっさに叫んで目を手で覆ってた。
「ええ!?そっちが!?いや普通私が言う側でしょ!」
「うるせぇ!早く服着ろ!」
「あの気づいてないかもしれないけど、君も全裸だよ?」
「キャー!」
俺は目を閉じたまま、大事な所を手で隠した。
「なんで君がキャーって言うの。あと、頑なに私を見ようとしないんだな。」
「うるさい!」
なんでこんなことなってんの?
なんで服なくなってんだよ!
「あの、服は?」
「消えたね。」
「近くに落ちてたりは?」
「しないね。」
オワッタ。
「・・・あの。」
「何?」
「隠した?」
「あー、うん隠した隠した。」
「本当?」
「ホントホント。」
チラァ
バッ
「隠してないじゃん!!」
「いいじゃんべつに。一回見たんなら二回も三回も変わんないよ。」
「それ見られる側が言うセリフじゃないよ。」
「いいよ、別に慣れてるし。」
・・・。
「あ、言ってなかったね。けど、わかるでしょ?私、殺し屋。今までたくさんの人を殺してきた。どんな手を使ってでもターゲットを殺した。この身体を使ってもね。もう色んな人に見られてるから、別に君に見られたって全然なんとも思わないよ。」
「・・・けど、・・・そうだったとしても、隠してくれ。頼む。」
「・・・思ったんだけど君が反対側向けばよくね?」
!?
僕はすぐさま後ろを向いて目を開いた。
目に映る景色は見たことも無い草原だった。
遠くでは前に博物館で見た恐竜に似た動物が走っていたり、自分の周りをよく見ると見たことない草がいくつか見られた。
「何処だここ?」
「さぁ?私もわからない。引き金を引いた瞬間、持っていた拳銃も、着ていた服も、全て消えて、ここにいた。いや、消えたって言うより、私達の身体だけここの世界に転移したって感じかな?」
「転移って、アニメかよ。」
「面白いね。魔物みたいなのもいるし、本当に異世界に転移したみたい。」
「異世界・・・ねぇ。これから俺達どうすんだ?」
「さぁ?魔物に喰われて死ぬか、餓死するか、はたまたこの世界の盗賊に殺されるか。生き残る確率は低いだろうねー。」
「・・・、あれで終わりだったら楽だったんだろうな。」
「ん?なんか言った?」
「いや、大変そうだなって。」
「・・・ふーん。やっぱり君変わってる、私の銃弾躱すし、死ぬ間際になっても恐怖を見せないし、さっきまで自分を殺そうとしてた人と普通に話すし、そんだけイカれてるのに女の子の裸は見れないし。」
「うるせぇよ。」
「君のこと知り尽くしたかと思ってたのに、全然知らなかった・・・。」
・・・。
「アハハ。面白い!やっぱり君変わってる!知りたい!悔しいはずなのに、そんなことどうでもいいって思うくらい君の全てを知りたい!君の性格、過去、好み、個人情報、ぜーーーーんぶ知ってやる!」
「うわ!抱きつくな!」
「君の全てを知るまで、一緒に生きてやるよ。どんなことをやってでも、どんなに生き物を殺してでも。この世界に一緒に足掻いてやるよ。」
恐ろしく冷めたい声だった。
何も信用していない、ずっと一人で生きてきた者の声だった。
その声を俺は一度だけ聞いたことがあった気がする。