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第十五話 錬金

 

 翌朝、いつもは先に起き出しているヨウが珍しくまだ布団の中に居た。

「おはようございます」

 目は覚めていたのか、恥ずかしげに挨拶を交わす。

「おはよう。今日は少し、ゆっくりなんだな」

「ええ…昨日は少し、疲れたかもしれません」

 ホツが来たことか。


 せっかくなので、体を起こし、ヨウを抱き寄せておはようのキスをする。

「んっ…あの…」

「ん?」

「大きく、なってます」

 あー。男の朝の生理現象だ。

 ヨウが先に起きている時なんかは気まずくて早々にトイレに行くのだが、こういうのは初めてだ。

「その、するのでしょうか…?」

「いや、しないぞ?」

「むぅ…」

 むくれるヨウを背に、トイレに向かう。



 水を汲みに行こうと扉を開けると、ホツが棒切れで素振りをしていた。


「あっ、先生、お早うございます!」


 …ヨウとするのしないの言ってたのを聞かれていただろうか。ホツも、昨日男性経験があるか聞かれた時にはすっとぼけた事を言っていたが、母親が娼婦だったことは知っていたわけだし、知識がないわけではないだろう。

 意図的に盗み聞きしていたわけでもないだろうし、気にすることもないか。


「…お早う。朝から精が出るな」

「水汲みですか、それでしたら私が」

「いや、大丈夫だ。ヨウが朝食の支度をしてくれているから、上がって汗を拭け」

「はい、では、失礼します」


 素振りのせいか、ホツは汗まみれで顔を赤くしていた。

 なんかエロい雰囲気だな、などと考えないよう目をそらして、水を汲みに行った。



 それから数日は竹刀作りが中心になった。

 お好み焼きで最低限の現金は入ってくるが、竹刀は百本まとめての注文だ。

 出来上がって販売するまでは金にならない。

 持ち手に革を巻いているのだが、これが実は少し高い。代用できるものがないかとも思ったが、サンプルを置いてきている以上、そこを変えたら文句を言われそうだ。


 東人街に来る前、ヨウの村で熊を倒したときの金貨をまた崩すことになった。

 一度目は俺達の長屋を借りた時で、兎の買取やホツの長屋の家賃なんかも日々の地道な積立から支払えていたのだが。

 まだ金貨が三枚残っている、ということも出来るが、ヨウと結婚して子供を作ることを思えば、貯金が目減りしていくというのは焦る。


 ボーナス武器の刀、売ったらいくら位になるんだろう。

 護身用にするにしても持ち歩いていないし、今後使う機会があるとも思えないんだよな。

 買い取ってくれるとすると、やっぱりニラワとか傭兵組合とかだろうか。

 手入れの問題もあるし、一度ニラワに見てもらうか。

 ホツの扱いについて文句のひとつも言ってやりたいしな。


 お好み焼きと竹刀作りで忙しくしているが、兎の世話も冒険者組合の子供たちに任せきりというわけにはいかない。

 最初の仔が大きくなってきているし、オスが複数匹いるとケンカするのだ。

 兄弟でじゃれ合ってるだけかと思いきや、耳を噛みちぎられた仔がいるのを見つけ、慌てて小屋内部をいくつかの区画に区切ったりしていた。

 兎は小さいうちはオスメスの区別がつきにくい。

 股間の毛をかき分け、たるんだ皮膚を広げてよく見ると睾丸のようなものがあるのがオス、だと思う。多分。

 兎の股間をくぱぁと広げてジロジロ見ていると、ヨウやホツが白い目で見てきた気がする。

 ちゃうねんて。オスメス区別せにゃあかんのやて。

 兎は繁殖力が強いとか、変な知識を披露したら、ヨウにウサ耳つけさせて喜んでいた俺に疑惑の目が向きそうだ。


 そんなドタバタを繰り広げつつも兎小屋の改造をしていると、冒険者組合の職員のおばちゃんがやってきた。

「悪いんだけど、力仕事引き受けてくれないかねえ」

「どうしたんだ?」

「錬金組合から注文が入ってるんだけど、いつも荷運びしてくれてる人が来れなくなってね、荷車も細工物組合に出張ってるし、重い荷物担いで行ってくれる人が必要なんだよねえ」

「錬金組合って…どこだ?」

「鶏の町だよ。鶏の町一丁目一番地。行けばすぐ解るけど、東人街の反対側だから大変なのさあ」

「あの、力仕事でしたら、私が」

 話を聞いていると、ホツが志願してきた。

「ええと、ごめんねえ、冒険者組合の所属でない人に頼むわけにはいかないのよお」

 鶏の町といえば東人街のお金持ちエリア、北西部だ。

 それなりに高価なものを運ぶのかもしれない。横流しする恐れのある者には任せられないということか。


 とりあえず重荷というのがどのくらいのものか見せてもらう。

 …俵だ。

 薬草の実を干したものを巻いているんだとか。

 担いでみると、ギリギリ歩けないほどではないが、鶏の町まで行くのは厳しそうだ。

 三分割に小分けしてもらうしかないだろう。

「三人で手分けして行くか」

「鶏の町は結構遠いので、往復するだけで日が暮れます。夕方のお好み焼きが作れませんが」

「うーむ、報酬は?」

「今回は急なお願いだからねえ、5セン出すよお」

 お好み焼きをフイにするほどではないか。


 とか思っていたら、ホツが俵を担いでシャカシャカとスクワットのような動きをしていた。

 マジか。力持ちとは聞いていたが、せいぜい俺と同じくらいかと思ってた。

 鍛えてるとかのレベルを超えてるんじゃないだろうか。

 俺の剣術みたいに、何か個人に付与されるスキルみたいなものなのかもしれない。

 ヨウの賢さとか器用さなんかも固有スキルだったりするのかね。


「大丈夫か?無理してないか?」

「全然問題ありません。傭兵組合の演習に同行した時などはこれよりも重い荷を背負って山に登ったりしておりましたので」

 おおう。竹取の仕事で手ぶらでの山登りにヒーコラ言ってた自分が情けない。

 これなら冒険者組合の冬の仕事という木材伐採でも活躍出来そうだ。

 思えば竹取で体力不足を痛感して、それから逃れるようにアイデア勝負の料理とか細工物とかをやり始めたんだよな。

 魔物狩りどころか、山林管理の冒険者すら俺には向いていなかったということか。


「…私がお好み焼きを焼きますので、カズオ様とホツで行ってくればいいのでは」

「いいのか?」

 ホツと話したりしているときなど、ヨウの目が冷たい気がして、なるべく俺とホツが二人きりにはならないよう仕事分配していたのだが、考えすぎだったか。


「それが効率が良いでしょう。ホツも、今回はたまたまですが、本来の力を発揮できる機会です。頑張って来なさいね」

「はい!奥方様の信頼に応えるべく精一杯事に当たらせて頂きます!」

 まあ、そこまで気負うことはないのだが。


 ホツには料理や細工物以外にも、空いた時間に読み書きや計算などの座学もさせているが、これまでの経歴を考えると明らかに苦手分野ばかりやらせている。

 久しぶりの本領発揮というところか。

 半分持とうと言うつもりだったが、張り切ってるなら任せていいか。

 俺が付き添うだけの手ぶらで、見た目子供のホツに大荷物持たせている、となると外聞は悪そうだが。


「じゃあ、ついでと言っちゃなんだけど、これも持っていってくれるかしらあ?」

 俺の手持ち無沙汰感を察したか、おばちゃんが追加の木箱を持ってきた。

 大きくも重くもないが、手荷物があるだけ随分マシか。

「こいつの中身は?」

「キノコだよお。毒のあるやつだから、掠めて晩御飯にしようなんて思っちゃダメだよお」

 何てもの運ばせるんだ。

 というか、冒険者組合はそんなもの生産販売してたのかとか、錬金組合はそんなもの買い取って何してるんだとか、ツッコミどころが多い。


「錬金組合は石だの生物だのから成分を抽出して商品に加工するところだよお。毒だって使いようによっては薬になるみたいだからねえ。怖がることはないよお」

 考え込んでいたら察してくれたのか、おばちゃんが説明してくれた。

 化学的な研究開発機関というところか。

 毒を扱う化学機関となると、戦争中は勿論兵器開発もしていたんだろうけど、平時は薬や生活用品なんかに研究成果を役立てていると。

 お金持ちの町の一丁目一番地にあるあたり、国だの領主だのからの肝入りもあるのだろう。

 関わりたいような、関わりたくないような。


 …化学か。何か現代知識で一儲け出来そうなネタはないもんかな。


 道中何度も、大丈夫か、キツくないか、少し休むか、などと確認したが、ホツは本当に無理をしていたとかでなく、シンプルに力持ちのようだ。

 痛みの感覚が麻痺してるだけで、実は疲労骨折起こしてたりしないよね?


 雑談がてら、薬草の話になって、そういえばこの子そこらへんの野草とか食ってたとか言ってたよなと思い出した。

 ホツにとって、植物は「食べられるもの」と「食べられないもの」に分かれて、味とか栄養とか薬効とかは二の次だったそうな。

 食べられないものについても、食べてひどい目にあってから覚えたものがほとんどだとか。

 キノコ類は初めから手を出すなと母親に言われていたので食べたことはないそうだ。

 …冒険者組合でシイタケとかシメジとかを栽培していたっけ。今度食わせてやろう。


 そんな感じでだらだらと喋りながら歩いて、錬金組合に到着した。一時間ちょいってとこか。

 東人街、広いような狭いような。

 まあ、面積的に広いのは冒険者組合の東側、半開拓状態の山林と、西側の農業組合のさらに西の畑と遊牧地みたいなので、実際のとこ横断したのは東人街の中心地区だけ、とも言える。



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