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プロローグ

 

 異世界転移だ。

 森の中で目を覚まし、すぐに俺はそう考えた。


 目を覚ます前の、最後の記憶は車に撥ねられたことだ。

 普通に道を歩いていただけなのだが、大型トラックが歩道に突っ込んできた。


 ヤバい、避けなきゃ、間に合わない、と考えた次の瞬間には宙を飛んでいた。手足がおかしな方向に回って、ゴキッ、ベキッと嫌な音を立てていた。


 痛みはなかったが、強い恐怖と、これは死んだな、という諦めと、なぜか一種の爽快感のようなものがあった。

 死を前にして脳内麻薬でも分泌していたのだろう。


 宙を舞いながら俺は目を閉じ、意識を失った。

 目が覚めた時、そこが病院ではないことは明らかだったし、そもそも屋外だ。体にも異常はない。


 天国とか地獄といった様子でもない。異世界に転移する小説などでは、交通事故で死ぬのがトリガーとなっているものも多い。目を覚ましてすぐにそれを思い出したのだ。


 見ると、足元に日本刀が転がってる。

 ボーナスアイテムだろうか、と抜いてみて、刃のついた本物だと確認する。


 神様が現れて「お前を異世界に転移させてやろう」とか告げる説明はないタイプか。だとすると、元の世界に帰れる可能性もあるんだろうか。

 でもなあ。元の世界で死んだんだよな多分。


 と、そこへ悲鳴が聞こえた。

 駆けつけてみると、男の子が熊に襲われている。


「く、熊だ!」と驚いてる隙に腰に差していた刀の鞘が光った気がした、

 体が勝手に動いて刀を抜いて熊を一刀両断する。


「××××!」

 男の子が叫ぶ。日本語じゃないのか。


 男の子はどこかへ逃げ去る。

 まあ近くに母親がいるパターンだろう、と待つことにする。


 倒れている熊を観察する。

 胴体が真っ二つだ。内臓がぶちまけられてグロい。

 この剣の効果だろうか、それともそこいらの木の棒でも倒せたのだろうか。


 スキルとかステータスを確認しようとするけれど、何も見えない。

 アイテムボックスのようなものがないかと思うが、それも分からない。

 魔法か何か使えないかと色々念じてみるが、何も起きない。


 何か条件が必要なのだろうか?

 この先、村長とか冒険者ギルド長とか、そういう人から説明があるかもしれない。


 これじゃあ現実と大して変わりないじゃないか。

 何のための異世界転移だ、とも思う。


 …転移であって転生じゃないから、なのか?

 元の世界の年齢そのままでこちらに来たから、こちらのシステムに脳の認識が合ってないとか。

 こちらの世界で産まれなおしだったら魔法が使えたりステータスを見れたりできたのかもしれない。


 でもなあ。

 赤ん坊から何年もかけてコツコツ努力してレベル上げするのも面倒なんだよな。

 小説なら「それから十年後…」なんてすっ飛ばせるんだけど。


 そんなことを考えていると、予想通り先程の少年が母親らしき人を連れてきた。


「お侍さま、熊が出たと聞きましたが!」

 お、日本語だ。


「うむ、俺が切り捨てた。死体はここにある」

 お侍さま、なんて呼ばれたから喋り方も合わせたほうがいいのかな、なんて思ってつい尊大な態度になってしまった。拙者、とか言ったほうが良かったのかな。


 少年の母親は熊の死体を見て驚き、改めて俺に礼を述べ、屋敷に招く。


「×××!×××!」

「ええと、言葉だが…」

 屋敷に向かう途中、少年が別の言語で話しかけて来るのを聞いて、母親に尋ねる。


「お侍さまは、東国からいらしたのですね、この子はまだ東国語を話せません。先程から、助けて頂いた感謝を述べております」


 どうやら日本語は東国語と呼ばれているらしい。

「えーと…こちらでは東国語?を話せる者は多いのか?」


「多くはありません、この村では数人ほどです。私は先祖が東国人で、東国語を母から教わっておりましたので、東国の国境近くのこの村に嫁入りに来ました」


 東国は日本…なのだろうか。国境?海ではなく?

「東国から国境を超えてこの村に来る者は多いのか?」


「私がこの村に来て20年になりますが、東国から国境を超えて来た方がいらっしゃったのは初めてでございます。なにぶん魔物が出る険しい山脈がありますので、お侍さまのようなお強い方でないと難しいでしょう」


 魔物か。さっきの熊も魔物扱いになるんだろうか?

「熊は…よく出るのか?」


「村近くにくることはあまり…。普段は村の狩人が罠にかけたり、若い衆が総出で槍を持って追い払ったりしております」


 やはり、この拾った刀はかなり強い武器なのだろう。とはいえ、ボーナスがこれだけだと不便すぎないか?

「そういえば、名乗っていなかったな…。俺はカズオという」


「私はキクと申します。この子はロロ。あそこに見える屋敷が私どもの住まいです。村の東側の世話役のようなことをしております」


 話してたら到着したらしい。

 山のふもとでは一面畑が広がっており、ところどころ家が点々と存在している。キクの家は中でもけっこう大きな屋敷だ。上流階級なのか。


「カズオ様は、州都の東人街に行かれるのでしょうか?」


 州都とか東人街とか知らんが。とりあえず合わせておこう。


「うむ、まあな。州都はここから遠いのか?」

「歩きですと三日ほど、でしょうか。健脚の者ならばこの先にあるタトルの町まで一日、そこから州都までもう一日ほどで行くことが出来るそうですが」


 普通の人が頑張って一日歩くと50キロくらいだろうか。州都まで150キロってとこかな?

 遠いな。馬車とか船とかはないのか。


「明日、商人の馬車がタトルの町より参ります。同乗させて貰えるか尋ねてみましょうか」

「そうだな、頼む」

「タトルの町には私の姉がおります。明日はそちらにお泊りいただいて、明後日に他の馬車を手配して州都へ行く、というので如何でしょう」

「そうして貰えるとありがたい」


 とりあえずの目的地が決まってしまった。

 まあ、東国から来た人は東人街ってところに行ってそこで仕事を探す、みたいな流れがあるんだろう。

「お侍さまはお強いので、警備や冒険者などの仕事はすぐに見つかるでしょう。戦はここのところありませんので、傭兵のようなものは難しいかもしれません」

「冒険者か。こちらの冒険者はどのようなことをするのだ?」

「州都の東側に迷宮がありますので、そこに出没する魔物退治が主な仕事でしょうか。迷宮も入り口付近はさほど脅威ではないので、女子供も薬草採取に入ったりいたします」


 迷宮で魔物退治をする冒険者か。ファンタジーの定番だな。

 熊は一撃で倒せたけれど、もっと強い魔物がいたりもするんだろうか。

 熊にしても、一撃で倒せなければ逆に一撃でやられてしまいそうだが、なにせ体が勝手に動いたのだから、防御とか回避も出来るのかもしれない。


「とりあえず冒険者を目指してみるか…」

 そんなことを呟いて、これまで読んだファンタジー小説を思い出したりした。

 初期武器が日本刀で、剣技スキル持ちかあ。サムライといえば打たれ弱い前衛ってイメージだけど、ソロだと厳しいよな、良いパーティメンバーに出会えればいいんだけど。



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