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9/12

本日の貴方が眩しいのは、その光り輝く装飾品のおかげではないようです

 ダンジョンの探索から数日が過ぎた。

 今日は城内の大広間で大規模な展覧会が開かれる日である。

 その大広間の角でハイルは展覧会の開催を今か今かと待っていた。


(何とか当日に間に合わせることが出来たな。不参加となっては家名に傷が付くところだった)


 隣に置いてある紫色の布がかけられている箱を見る。

 中には自らが収集した美術品の一つである食器セットが納められているはずであった。

 この白磁の食器セットは昨年にハイルが大金をはたいて美術商から手に入れたものだ。


(まったく、あれが来てから碌な目に遭わん)


 展覧会の日を迎えるまで色々と大変だった。

 そしてその原因の全てはリンデにあるとハイルは思っている。

 彼女が自分の少年時代の肖像画の事についてあれこれ聞かなければこうはならなかった。

 あれで少し調子が狂ってしまったのは間違いない。

 真っ当な婚約者ならば、ただ何も聞かずに黙っていれば良かったのだ。

 そうすれば自分は展覧会の事を忘れる事がなく、もっと入念に準備をすることが出来たはずである。


(今考えても仕方がない。展示品の位置の最終確認をしておくとするか)


 ともかく今は目の前の展覧会に集中するのが優先事項であった。

 食器セットの配膳の最終確認をしようと、ハイルはショーケースにかけられていた布を取る。


「な!?」


 想定外の事態に思わず声が漏れてしまった。

 これは一体全体どういうことなのか、布の下には何も無かったのである。


―――


「お城に来るのも久々かしらね」


 大広間に入室すると、リンデは誰に言うでもなく一人呟いた。

 城で働いていた事もある彼女にとって、様々な貴族服を着た貴族の方々やメイドなどの世話人達がせわしなく歩いている様は少し懐かしい感じを抱かせる。

 周りは綺羅びやかな服装の人々ばかりだが、リンデはいつもと同じ様に緑色の質素なドレスを着ていた。

 変わった所は手に赤い布地を持っている事ぐらいである。

 この布地の中には先日ハイルが見つけた兜が入っていた。


(さてはて、あの人はどこにいるのやら)


 わざわざ城に来たのは理由がある。

 この兜の忘れ物をハイルに届けに来たのだ。

 展覧会には各家が保管している珍しい品々や新発見された遺産を披露する会でもある。

 この兜は先日ハイルがダンジョンで習得したばかりの品、それを忘れていってしまうとはきっと困っている事だろう。


(さて、あの人は……いたいた)


 展覧会が開かれている大広間に入室すると彼はすぐに見つかった。

 奥にある角のブースで何やら作業をしている。


(なるほど、確かにこういう時にはあの過剰なまでの装飾品が役に立つわね)


 他の貴族の男性方と比べてもジャラジャラとブレスレットなどの装飾品を身に着けている彼はよく目立っていた。

 何かを探しているようで、テーブルの下を覗き込んだりとソワソワしている。

 やはりこの兜が必要なのだろう。

 リンデはそんな彼に近づくと後ろから声をかける事にした。


「ハイル様」

「む、何だお前か」


 ハイルは不機嫌そうにこちらへと振り返る。

 しかし、視線の先はリンデではなくテーブルの方をチラチラと見ていた。


「何かお探しのようですね、落とし物でもございましたか?」

「ふん、そんなものは無いに決まっているだろう。俺はただ……テーブルの下を見たかっただけだ」


 おかしな動機である。

 何か探している物があるには違いなかった。


「さようでございますか、ところでこれは必要ありませんでしたので?」


 リンデは持っていた赤色の布地を解いて兜を取り出す。

 それを見たハイルは目を丸くさせた。


「何でそれを持って……いや、何も無いよりはマシか」


 ハイルは言葉を濁しつつも兜を受け取ると、テーブルの紫色の布の上にその兜を置く。

 そして彼が兜を置くとほぼ同時にベルの音が鳴った。

 展示会の開演の合図である。


「ハイル様、その位置にいては展示品がよくお見えにならないと思いますが」


 何故かハイルは兜の真正面に立ち、まるで兜を隠すかのような位置にいた。

 すると、一人の貴族がこちらに歩いてくる。

 彼は置かれている兜を見るなり血相を変えて、こう尋ねてきた。


「この兜は……!手にとってもよろしいですかな?」

「ええ、どうぞご自由にご検分ください」


 ハイルは苦い顔をしながらも、いきなり検分をしにきた観客に対して応対する。

 その緑色の貴族服を来た人物は兜を手に取ると、目を丸くさせた。


「私は長年細工をしてきたが、この様な細工は初めて見る。大型モンスターの角をここまで圧縮しているとは」


 どうもこの細工師の人の見解によると、この兜に使われている角がこんなに小さく加工されているのが珍しいようである。


(私が消化途中で吐き出したから、小さくなっただけなんですけれども)


 角はリンデがスライム体でゴブリンを丸呑みにした時に、兜と一緒に消化しようとして小さくなってしまったのだ。

 とは言え、今更そんな理由があったんですよとここで言うわけにもいかない。


「大変興味深い品だ。貴殿はこれをどこで手に入れたのですかな?」

「先日、ゴブリンの潜むダンジョンにこれが落ちていた所を拾った次第で……別にそんな大した品ではありませんよ」


 予想外の反響にハイルは驚いているのか冷や汗をかいていた。


「いやいや、ゴブリンが高度な技術を持っていた何て一大事ですよ」

「奴らにそんな芸当はできないだろう。これには失われた古代文明の技術が使われているに違いない」


 細工師の人の意見に対して、近くにいた別の貴族が反論する。

 今度の人は城の書記官のようで、その証である白地のエンブレムを胸に着けていた。


「これは研究的にも軍事的にも重要な品かもしれませんな」


 また別の人が出てきて会話に加わる。

 いつの間にか様々な分野の人達が集まりだしたらしく、兜の周りに人だかりが出来てきていた。


「やはり、これを手に入れるのにはよほど苦労されたのでは?」

「ハハ、それなりにはね。ですが、私にとっては造作もないことでしたよ」


 ハイルが謙遜する様に言う。

 集まってきた人々に、最初は不機嫌だった彼もいつの間にか上機嫌となっていた。

 今では自分から積極的に観客に話を行っている。


(さて、私はちょっとお邪魔かしら)


 その様子を見て、リンデは少し距離を置くことにした。

 今のハイルの顔立ちは彼女には少し眩しい。

 こんなにも活き活きとした彼を見るのは初めてかも知れない。


(人から持ち上げられると調子に乗っちゃうタイプなのね。まあ今日は良いでしょう)


 静かにその場を離れると、リンデは様子を遠巻きに見守ることにする。

 人混みの列は展覧会の終了を知らせる鐘が鳴るまで続いていたのだった。

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