称賛される俺を見ろと言うことで、付いていってみることにしましたが褒められていたのは私でした
ハイルは久々に上機嫌で朝を迎えた。
今日は先日管理を任される事になったダンジョンを視察する日なのだ。
先遣隊の報告によると、中々珍しい貴金属で作られた指輪や蛮族の仮面などが見つかったと言う。
そう言う綺羅びやかな装飾品や珍しい品には目が無いハイルに取って、現物を見るのが今から楽しみだった。
「ハイル様、本日は一段と嬉しそうですね。何か楽しいことでもあるのですか?」
出かけるために身支度を整えていると、リンデが茶々を入れてきた。
彼女は手に茶色の外套を持っている。
「当然だろう、今日は私のコレクションがまた増える日なのだからな」
ハイルは鏡で自分の髪を整えながら、リンデの方には一切目をやらずに言う。
「さようですか、ところで私は一つ気になっている事があるのですが」
まだ何か聞いてくるのかとハイルは思ったが、とりあえず質問を受けつける事にする。
「何だ、今日はダンジョンの視察があるので急いでいるのだが……まあいいだろう。手短に話してみろ」
「ハイル様はいつも自分が身につけている装飾品を吟味されておりますが、それには何か理由があるのでしょうか?」
「理由だと?」
少し怒った顔を浮かべてハイルはリンデの方を見た。
リンデの方はというと不思議そうな顔を浮かべている。
「もちろんあるに決まっているだろう。身につけている装飾品の質、そして数によってその者の値打ちも決まるのだ」
「値打ちですか」
ハイルが持論を述べてもリンデには腑に落ちないようであった。
やはり伝わらないかと、説明するのも馬鹿らしくなってしまう。
「いつもそんな質素な格好をしている君には分からんだろうな。君にも俺が称賛される姿を一度見てもらいたいものだ」
そう言うとハイルは自分の姿を今一度鏡で確認し、最後に金色のブレスレットを右腕にはめた。
「俺はもう出かけるが、遅くなるかもしれないから帰りは待たなくて良いからな」
この前のようにハイルは不機嫌な様子を隠そうともせず部屋を出て行こうとするが、それをリンデが呼び止める。
「ハイル様、この外套はお召しにならないのですか?」
「もちろんいるに決まっているだろう。早くそれをよこせ」
バツの悪そうにハイルはリンデから外套を受け取るとドアを締めるのだった。
ーーー
(何であんなに装飾品にこだわってるのかしらね)
ハイルが出ていった後でリンデは一人思案した。
リンデにとって装飾品とは宝箱に入れて大事に取っておくものだ。
これはスライムである彼女にとって余計な装飾品は変身の邪魔になるからという理由でもある。
(そう言えばあの人は称賛される姿を私に見てほしいって言ってたっけ)
ならば実際に彼に付いて行き、その様子を見てみれば良いのではないだろうか。
そう考えたリンデは二人に分裂した。
「一人は屋敷に残って、もう片方は彼に付いて行ってみることにしましょう。これで彼が装飾品にこだわる理由が分かるかも」
二人が同時に言うと、一方がスライム体にまた変身して窓から外に出る。
そして壁伝いに移動し屋敷の入口まで来ると、ハイルの声が聞こえてきた。
「遅くなってすまない。支度に少し時間がかかってしまってな」
「いや、君の事だからもっとかかるかと思ってたよ。今日は随分早いじゃないか」
ハイルが話した相手は赤い貴族服を着ている。
リンデは城で同じ服の人達を見たことがあった。
何かいつも気難しい顔で宮中を忙しく歩き回っていた人達だ。
そんな相手と何を話しているのだろうと、リンデは更に彼らに近づいていった。
「そうだな、リンデの奴が煩く言わなければもっと服を選ぶ時間があったのだが」
「ああ、この前話していた君の婚約者に手伝ってもらっていたんだね。だから時間に間に合うように来れたと、彼女の気立ての良いという噂は本当だったようだ」
ザムレスがリンデの事を褒める。
ハイルの説明は相手に惚気話と受け取られたようである。
「ザムレス、それは違うぞ」
「ともかく馬車に乗ってくれ、そこでゆっくりと君の婚約者の自慢話は聞いてあげるから」
否定するハイルだが、ザムレスは既に馬車の中に入ってしまっていた。
「あの分からず屋の小娘が気立ての良いなんて冗談だろう……」
ハイルは愚痴を溢すが、呆然とここに立っている訳にもいかないので渋々と彼も馬車の中へと歩を進めた。
その彼の足元にスライム体のリンデは更に体を伸縮させて縮まると、彼女も馬車の中へと滑り込んだ。
6人乗りの馬車の中に二人だけということで、中はゆったりとしていた。
その中でリンデはハイルのブーツの側に隠れて二人の様子を伺う。
ザムレスの方が近くのカバンから書類を取り出すと何やらハイルに見せようとしていた。
「さて、目的地のダンジョンまではしばらくかかるだろう。しかし、今日の君は……」
書類を手に持ったまま何か考え込む様にハイルを見るザムレス。
そんなザムレスに対してハイルは答えはこれだろうと言うように首にかけていたネックレスを見せつけた。
「分かるかね、このネックレスはこの間新調したばかりで……」
「いや、確かに装飾品の事ではあるんだけど、いつもより君がスラリとして見えると思ってね」
「スラリと見える??」
何を言われてるのか分からず、ハイルは聞き返してしまった。
「ああ、そうか君がいつも身に着けている装飾品の数が少ないからだね。いつもゴチャゴチャした感じだったし、変に考えさせてしまってすまない」
詫びるザムレスに対して、ハイルは何も言わずにふてくされた様に窓の外を見る。
まさか自分の装飾品を身に着けた姿がザムレスからはそんな風に見えていたとは思ってもいなかったのだ。
しかし、その様子がザムレスに更に誤解を生んだようである。
「屋敷の方を見てどうしたんだい?ああ、彼女の事が気になるのかな。これは早くこの視察を終わらせて君を婚約者の元に帰してあげた方が良さそうだね」
そう勘違いしたザムレスは、馭者に馬を急がせる様にと指示を出すのだった。




