誰かを待っている時にはまた別の親密な方が来られるものです
それからハイル様は外に出かける機会が以前よりも多くなった。
今日も朝早くから屋敷を出て行ったようで、おそらくまたダンジョンに入ったのだろう。
リンデとしてはやはり心配にはなったが、ハイルの様子が以前より調子が良さそうなので、それを止めさせようという気にはならなかった。
それに自身の外出禁止の期間がもう後数日という所まできている。
あと数日で自分もまたダンジョンに付いていき、見守る事が出来るのだった。
であれば、今は彼を信じて静かにしていよう。
という訳で、リンデはいつものように温室の家庭菜園の世話をしていた。
ふと、何かが近づいてくる音が聞こえてくる。
屋敷の門から外の方へ視線を向けると、立派な二頭の馬に牽引された豪華な馬車がこちらに近づいてきていた。
あの馬車に描かれている獅子の紋章は王家の紋章ではないか。
リンデは急いで温室から出るとそのまま玄関の方へと向かった。
☆
案の定、玄関前では執事が使用人達を慌ただしく整列させようとしていた。
「早く並べ!あ、リンデ様!今さっき人を呼びに行かせましたのに」
「私がまず挨拶しますので、皆様はただ後ろに控えておくようにお願いします」
リンデは場をまとめていた執事から指揮を引き継ぐと、そう言って皆を落ち着かせた。
急な訪問で驚いているのはリンデも同じだったが、その弱みは見せないようにする。
そうして、馬車が屋敷前に到着した。
まず、王宮に仕えている使用人たちが馬車の足元に赤いカーペットを屋敷側に始めた。
その両側に音楽隊の制服を着た方々が整列する。
これで準備は整ったようだ。
音楽隊がラッパを吹きならし、馬車のドアが開く。
中からロザネラ様が出てくる。
今日の王妃様は前回お会いした時とは違い、紫黒色のゆるやかな外套を纏われていた。
「ようこそお越しくださいました。ただいま屋敷の主人が出払っていますので、代わりにこのリンデが応対をさせて頂きます」
リンデは丁重に歓迎の意を述べる。
しかし、王妃様は顔の下半分を扇子で隠されたまま何もお答えにならない。
「まさか王妃様直々にお屋敷にまで来られるとは思いませんでした。今歓迎の準備をさせますので」
「妾が急に来たのは邪魔だったか?」
この王妃様の一言で屋敷側の使用人たちに緊張が走ったのがリンデにも分かった。
リンデはそれには構わず言葉を繋ぐ。
「そのような気持ちは滅相もありません」
一瞬の沈黙。
その後、王妃様はクスクスと笑われた。
もう先程のような緊張感は無い。
「相変わらずねリンデ、正直もうその元気な姿を確認できただけで安心しちゃったわ」
「それはロザネラ様も相変わらずのようで、お茶の準備をさせますのでどうかこちらへ」
リンデはそう言うと庭にあるカフェテーブルに案内するのだった。
☆
今日がそこまで寒くない日で良かった。
私はロザネラ様のティーカップにお茶を注ぐと向かい側の席に座った。
「ありがとうリンデ、ここに来た目的の一つがこれだったのよ」
「ありがとうございます。この間お話ししたクッキーもあれば良かったのですが、まだ母から届いていませんでしたので」
「それについて貴女が謝ることではないわリンデ。私が急に来てびっくりしたでしょうから、でもね」
そう言い王妃様は一口お茶をすすられると、話を切り出された。
「すぐにまた会えると思ってたのに、貴女があれから会いに来てくれないとは思わなかったもの」
「実は私、一か月の外出禁止を言い渡されておりまして、それで王宮には行けなかったのでございます」
王妃様がソーサーに置かれたティーカップがカチャリと音をたてる。
私は慌てて弁明した。
「いえ、これには理由がありまして、メイドへの罰を代わりに私への罰へと変えさせて頂いたのです」
「別にリンデは悪くないじゃない。今すぐ王妃の権限で外出禁止を取り止めさせます」
「それはマイヤー家の面子にも関わりますのでご容赦を、それにもう残り数日ですので」
「面子ねぇ、そんなもんかしら」
王妃様は不機嫌そうにまたお茶をすすられた。
私は話題を変えねばと思い、今度はこちらから話を切り出す事にする。
「ところで今日、ロザネラ様が馬車から降りられる時に音楽隊の方々が演奏されましたよね、あれを見て私はアルジェ様がその演奏をお好きだった事を思い出しました」
「そうそう!アルジェったら私があのラッパの音に合わせて馬車から出る所が好きみたいでね、自分も大人になったらやりたいって言ってたのよ」
やはり王妃様にはアルジェ様の話をするのが一番のようだ。
こう聞いているだけでも王妃様がアルジェ様の事を大事に思っていらっしゃる事が伝わってきた。
「私は経費の無駄遣いだから止めさせたいんだけどね、でもアルジェが……」
それから王宮内でのアルジェ様の事について王妃様が一通り話されたので、後は私は相づちを打っているだけで良かった。
「さて、私も帰らないといけないか、あ!」
王妃様は帰られようとしたが、後ろに控えていたお付きから何か囁かれて、ハッと何かに気づかれたようであった。
「この招待状を渡すために来たんだった。忘れる所だったわ」
王妃様はお付きから招待状を受けとると、それを私に渡された
高級そうな便箋には王家の紋章印で封がしてあった。
「今度、王宮で舞踏会があるからそれにリンデも出席して欲しいの。もちろん婚約者の彼も一緒にね」
「ありがとうございます。必ず行かせて頂きます」
リンデはそう言って一礼すると、王妃様と一緒にまた玄関へと戻るのだった。
☆
「では、次回会うときは舞踏会かしら。それまでご機嫌よう」
「ロザネラ様もどうかお元気で」
王妃様が馬車に乗り込まれると、馬丁が鞭を振るい馬車が出発する。
それを私と屋敷の者一同で、馬車が見えなくなるまで見送った。
☆
ロザネラ様が帰られた後、自室に戻ったリンデは肝心な事を尋ねるのを忘れていた事に気づいた。
舞踏会はいつ開かれるのか。
招待状に書かれているだろうと思い、リンデは内容を確認することにする。
そして、日付は外出禁止が解かれる日の前日となっていた。
王妃様からは婚約者と二人で来てとも言われている。
リンデはハイル様が帰ってきたら相談してみようと思うのだった。




