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頼まれごとに対してまた頼まれごとをしなければなりません

 馬車が城についた。

 ロザネラ様に続いてリンデも馬車の外へと出る。


「私が城に帰ってからあの子とお茶をする手筈になってるの、きっと城の中庭にあるガーデンテーブルでもう待っているはずよ」


 そのガーデンテーブルはリンデも度々手入れをしていたので、よく知っていた。

 木製で、そこの椅子にはリンデはもちろん座った事はないが、とても良い質感なので自分も一度座ってみたいと思ったこともある。


「できれば私が来るまでに欲しい物を聞き出してくれないかしら?私が一緒にいたらあの娘も言い辛いと思うの」

「承知いたしました」

「それじゃリンデ、私は着替えてくるから頼んだわね」


 ロザネラ様は端的に言うと、従者達を連れてそそくさと行ってしまった。

 リンデはお辞儀をして王妃を見送ると、これからの事について少し考える事にする。

 さて、どうアルジェ様に欲しい物を伺えば良いのだろうか。

 あの位の年の子だと何もかも欲しがる年代のような気もする。

 色々と考えながら歩いていると、もう中庭に着いてしまった。


 中庭を見渡すとガーデンテーブルに既に人の姿が見える。

 あの慎ましく椅子に座っている姿はきっとアルジェ様だろうとリンデは思った。

 話せる位の距離まで近づいた所でリンデはうやうやしく頭を下げる。


「アルジェ様、お久しぶりです」

「リンデ!?城に戻ってたのですね」


 アルジェ様は椅子から立ち上がると、わざわざこちらを出迎えてくださった。

 こうして直にお会いするのはリンデがハイルと婚約する前以来である。


「はい、王妃様に一緒にお城へと誘われたのです」

「そ、そうですか……王妃様から呼ばれたから来たということだったのですね」


 リンデが城に来た経緯を話すと、王妃様の名前が出た所でアルジェ様は少し戸惑われた様だった。

 自分が城にいた頃と同じで、まだロザネラ様の事をアルジェ様は苦手としているらしい。

 王様と今の王妃様が再婚して月日はいくらか経過はしてはいるが、まだ打ち解けるまでは至っていないようである。


「お祖父様のお城から帰ってきてリンデがいなくなってたのにはびっくりしました。まさか城を出るとは思ってもいなかったので」


 当然といえば当然なのだが、使用人の一人にすぎないリンデの動向はアルジェ様には届いていなかったらしい。

 婚約が急な話だったこともあるが、自分が居なくなった事でアルジェ様を驚かせてしまっていたようだ。


「こちらこそ申し訳ございません。アルジェ様にもお話しておくべきでした」


 リンデは頭を下げる。


「頭を上げてください。もう済んでいる事ですし……それに私もリンデの婚約をお祝いしたかったなと思っていたので、謝られる事ではありません」


 今度は逆にリンデが驚く番だった。

 まさか祝福の言葉を頂けるとは思ってもいなかったからである。


「という事で改めて婚約のお祝いをさせてください。今日は急だったので私は何もリンデにプレゼントできる物を用意できてませんが、またリンデが城に来た機会に……」

「ありがとうございます。そのお言葉だけで、リンデにはもったいないくらいです」


 再びリンデは頭を下げた。


「ですが、やっぱり私としても以前からプレゼントを贈りたいと思っていたのです。何かリンデの欲しい物とかありませんか?」


 ここで「いえ、お気持ちだけで十分でございます」と言うのは容易いだろう。

 しかし、リンデは一つ思いついた事があってそれを言ってみる事にした。


「そうですね……ではここは欲張りなプレゼントを一つ所望しましょう。アルジェ様が今一番欲しいものと同じものを所望致します」」

「はい!私の欲しい物ですね、えっ!?」


 この提案はやはりアルジェ様を驚かせたらしく、目を丸くなさっている。

 とは言えロザネラ様から命じられていたアルジェ様の欲しいプレゼントを聞くのにこれ以上の機会は無いだろう。

 何とかお伺いしなければならない。


「過ぎたお願いだったでしょうか?」

「いえ、そんな事はありません!けれども……」


 アルジェ様は一度目を閉じて気持ちを落ち着けなさると、意を決したように口を開かれた。


「わ、私が今一番欲しいものは……王妃様に送るための贈り物……です」


 一瞬の沈黙。

 言った後、アルジェ様は恥ずかしそうに目伏せている。

 リンデの方も思いがけない返答だったので虚をつかれてしまった感じと言った所だ。


「左様でございますか、さぞ素晴らしい物になると思います」


 何とか言葉を見繕うと、アルジェ様は再び椅子に座り直してこちらを見た。


「すいません、実は王妃様ともっとお近づきになれたらなと思ってて、それで私なりに色々と考えてたのですが思いつかなくて」


 どうやらアルジェ様も王妃様に送るプレゼントの事を考えていたらしい。

 お互いに相手への贈り物を考えていたというのは、こんなすれ違いもあるのだろうかとリンデは思った。


「アルジェ様、お妃様がお見えになられました」


 突如、私達の話を遮るように従者がアルジェ様に駆け寄り、ロザネラ様の来訪を告げる。

 どうやら着替えを終えて中庭に到着されたようだ。

 そしてロザネラ様が見える位置までこられた所で、アルジェ様は席を再び立つと出迎えに向かわれた。


「王妃様、本日はこの様な機会を頂きありがとうございます」


 そう言うとアルジェ様はカーテシーする。

 相当練習されたのだろう。緊張したご様子だったが、ぎこちない様子は少しも感じない。


「こちらも一緒にお茶が出来て嬉しいですよ。それに、思いがけない客人も出迎える事ができましたし」


 ロザネラ様がリンデの方を振り返る。

 リンデは会釈すると、自分も今回の例を述べた。


「私めもお二人の貴重な場にご同席をお許しいただき、光栄にございます」

「いえいえ、さて、堅苦しい挨拶はこれくらいにして早速お茶にしましょうか」


 ロザネラ様がパンっと扇子を叩く。

 挨拶の時間は終わり、という意味合いのようでご自分も席に着席された。


 その後はアルジェ様の日々のお勉強やご生活について話が進んだ。


「最近は領地経営について学んでいます。今は主にダンジョンへの課税についての話などの事で……」

「そ、そう?凄いわね」


 アルジェ様の話にロザネラ様は専門外といった感じである。

 確かにこれでは、アルジェ様の欲しい物へと話が誘導できそうな雰囲気ではない。

 しばらくそんな話が続いた後で、ロザネラ様はふと思い出したようにご自分の手元のお菓子を見て呟かれた。


「そう言えば、リンデがお城にいた頃は貴女のお母様が作られたクッキーをたくさん持ってきてくれてたわね」

「私もあのクッキーは好きでした。また食べたいです」


 今まであまり話に入ってこられなかったアルジェ様も、クッキーの事は興味を惹かれたようである。


「今度来るときはお菓子も持参してね、なるべく直に」


 ロザネラ様もアルジェ様がクッキーに対して興味を持たれた事に気づかれたらしい。

 どうやら次来る時は母にクッキーを焼いて貰わなければならないようだ。


「はい、幸いマイヤー家の領地とお城の距離は近いですし、そう遠くない日にまたお城に足を運ばせて頂こうかと思っております」


 その後はアルジェ様の手習いの時間もあるということでお茶会もお開きとなり、リンデは二人に見送られながら自分の馬に乗ると城を出てゆくのだった。

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