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次は私が欲しい物を考える番でしょうか

 昼下がりの午後、リンデは屋敷近くの牧草地で乗馬の練習をしていた。

 この栗毛の馬は先日、ハイルに頼み用意して貰ったのだ。

 馬に乗って牧草地の中を一通り駆けていると、柵の向こう側にある道に大きな馬車があるのが見えた。

 近くには何人かの従者らしき人達と、一人紫黒色のドレスを着た貴婦人の姿も見える。

 その貴婦人は扇子で自分の顔の下半分を隠してはいたが、その姿にリンデは何か見覚えがあった。


「あの方は……」


 リンデは下馬すると柵の近くに行き、その一行に近づいていく。

 向こうは何やら話しているようだったが、リンデに気づくと皆こちらに視線を向けてきた。


「ロザネラ様、お久しぶりです」


 そう言うとリンデは貴婦人に向かってうやうやしくお辞儀をする。


「あら、リンデじゃないの!?こんな所で会うなんて、元気にしてた?」


 名前を呼ばれた貴婦人は持っていた扇子をピシャリと閉じると顔をほころばせてこちらの方に視線を向けた。

 ロザネラはリンデが以前仕えていた城の王妃である。


「婚約してお城から出たと聞いて心配してたのよ。それはそうとして、この間のお城で開かれた展覧会には来なかったの?見かけなかったけど」

「私も展覧会には足を運んだのですが、おそらく入れ違いになってしまったのかもしれません」


 リンデとしても展覧会ではロザネラの姿を見かけなかった。

 展覧会の会場は城のいたるところで開かれていたため、出会わなくても無理はないだろう。


「ところで本日はどうされたのでしょうか?」

「実はね……散策のついでに城下町から出たまでは良かったんだけど、馬車の車輪が道からそれてはまってしまったみたいなの」


 そう言うとロザネラは肩を竦めて馬車の方を持っていた扇子で指す。

 リンデも指された方を覗いてみると確かに車輪が道の側溝に嵌ってしまっていた。


「さっきから馬車を押したり引いたりしてみてはいるんだけどまったく動かなくて、どうしたものかしら」


 ロザネラも従者も途方に暮れているようである。

 一通り話を聞いた後、リンデは馬車の周りを一周して馬車の様子をみてみた。

 幸い、馬車本体や車輪には異常がないようだ。


(ただ車輪を溝から押し出してやれば良いわけだから、これくらいなら私の力でなんとかなりそうね)


 リンデは車輪の近くに屈むと、自分のスライム体の分身を車輪の下に潜り込ませる。

 一細工を終えると、リンデはまたロザネラ達の前に戻ってきた。


「今度は私も手伝いますので、もう一度馬車を押してみては如何でしょうか?」

「貴女が?気持ちは嬉しいのだけれども、ね……」


 この提案にはロザネラも周りの従者たちもあまり乗り気ではないようである。


「私の見立てではあともうひと押しで道に戻る所まできているようです。ぜひお願い致します」

「そこまで言うのならやってみましょうかしら。皆、配置について頂戴」


 従者たちは首を傾げながらも、ロザネラからの命令とあらばと指示に従ってくれた。


「せーの!」


 ロザネラが音頭を取り、一斉に皆で馬車を押す。

 すると馬車は何事もなかったかのように前に進み道へと戻ってきた。


「おお!動いたぞ!」

「さっきまで岩のように動かなかったのが嘘みたいだ」


 感嘆の声が従者たちからも湧き上がっている。


「ありがとうリンデ、何と礼をすれば良いかしら。何でも言って頂戴」

「いいえ、礼にはお呼びません。後もう少しという所でたまたま私が通りがかっただけでしょうから」


 リンデは慎ましく答えるも、それではロザネラの気がすまないようであった。


「では、私から今ここでお茶の誘いをしようかしら。もちろん受けてくれるわよね?」


 王族からのお誘いであればここは受けないほうが無礼にあたるだろう。

 そう考えたリンデは二つ返事で答えることにした。


「はい、では城までご同行させていただきます」

「ありがとうリンデ、では馬は従者に任せて貴女も馬車にお入りなさいな」


 ロザネラは自ら馬車の扉を開けるとリンデをその中へと招き入れる。

 王妃様は相変わらずだなと思いつつも、リンデも馬車の中へと入るのだった。


 ―――


「あの馬はプレゼントで貰ったのね」

「ええ、直々に選んでいただきました」


 リンデはハイルからあの馬をプレゼントされた事をロザネラに話した。


「良いプレゼントを貰ったわね。でも馬はまだあの子には早いかしら」


 そう言うとロザネラは何か考えるような仕草を見せる。

 何か悩み事があるようなので、リンデは率直に聞いてみる事にした。


「王妃様は何かお困りごとがおありなのでは?」

「実はアルジュへのプレゼントを考えてるんだけど、それを誰かに相談したかったのよ」


 リンデに促されてロザネラは喋りだした。

 アルジェとは前王妃の娘である。

 年は12で、髪は王様譲りの黒獅子の毛並みを思わせるような漆黒の色、目は前王妃譲りの金色の瞳でとても可愛らしい顔立ちの方だった。

 リンデも何度か身の回りのお世話を仰せつかった事もある。


「色々と考えてはみたんだけど、あの娘が喜ぶような物がなかなか思いつかないのよ」


 ロザネラは窓の外に目を向けると、また考えにふけるような顔を浮かべた。

 この様子だと当分贈り物は決まりそうにもない。


「そうですね……それならば、まず私がアルジェ様に欲しい物を伺ってみましょうか?」

「確かに直接聞いてみた方が一番ね、ではお願いしようかしら」


 ロザネラはパンッと手を打つと顔を輝かせた。


(この間は私が自分の欲しい物を考えていたのに、今度は他の方の欲しい物を聞くことになるなんてね)


 ちょっと面白い因果ではある。

 そして、もう馬車は城が窓から見える位の所まで来ていたのだった。

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