八話 ダンジョンへ行こう!
エドランドの北部にある森の一角にダンジョンへの入口の一つがある。ここは普段はギルドが警備している場所で、ギルドに登録した人間か仕事でギルドに依頼された人間しか入れない場所であった。
ギルドでダンジョン内部の修復作業員として登録したトシツネとノブナガは交通手形を提示してダンジョン内部へと進む。
いつもと同じ作業着のトシツネは笠に丸印の源土一族の家紋が描かれる白いヘルメットを被り、赤い長袖Tシャツに水色のツナギを着ていて、足元は黒のブーツだ。背中にはスコップと黒いリュックが背負われている。
発掘師として作業用のツナギを着るトシツネとは違い、ノブナガはオレンジのマントの下は赤ベストにシャツ。金の懐中時計を首から下げており、黒いズボンにブーツを履いていて作業行くとは思えない格好である。
「今日の弁当は塩おにぎりとバナナだ。飲み物はお前の好きなお茶。バナナは誰かが物々交換として置いて行ってくれたもんだから、遠慮無く食え。おにぎりの具が無いのは勘弁しろ」
「握り飯に具が無いのは普通だぞ。それよりバナナか……あのサルをめを思い出すわ。俺が死んだ以上、次の天下はあのサルか三河のタヌキか……」
「ん? どうしたノブナガ?」
「いや、独り言だ。貴様の借金返済の為に俺もトシツネの作業中に敵が現れたら始末してやる。モンスターとやらは全て俺に任せい」
「いいねぇ。その心意気だノブナガ。さて、オレ達の行く方向はほとんどのギルドバトラー達は道が塞がれているから来ない。変なモンスターとか現れてもヤダから、とっととダンジョンの外壁修復作業に入るぞ」
前回来た時に魔王の娘・ベビーサタンと戦った地下五階付近へと足を進めようとする。その道中にて、トシツネは見知った姿の少女を見つける。
黒覆面に水着の面積が少ない黒水着。背中に小太刀がクロスするように二本担がれ、足元はサンダルである。この顔を隠して身体隠さずのような存在は、ギルド専属の忍者『ビキ忍者』でしかない。
その存在をノブナガも気付いてほう? と言った顔で見つめた。シギリも手を振るトシツネ達の存在に気付き、手を合わせ感謝のポーズをした。
「あれが『ビキ忍者』の仕舞シギリだ。シギリ、オレん家の居候を紹介する」
「はいな」
シュタ! と素早く馳せ参じたシギリはトシツネの横にいるオレンジ髪のオールバックの口ヒゲ男を見た。
「彼女がギルド専属の忍者。シギリだ。そしてこのオレンジ頭のタカのような目をした男がノブナガだ」
「ノブナガさんですね。覚えました」
シギリはお尻の水着の中から巻物を取り出し、何かをメモしていた。どこから巻物を取り出したんだ? と思うノブナガは自分のいた世界の忍者とは少し違うなと感じている。
「昨日エド商店街で見かけた忍者か。こんな軽装で大丈夫なのか」
「わちしビキ忍者なので。軽装なのです。軽率とも言われます」
「ほぅ。軽装とは忍者としてどうなのか? 忍者とは耐え忍び、心を刃にする者。少なくとも俺の知る忍者とはそうだ。貴様のようなネズミでは……」
「あ、すみませんノブナガさん。ちょっちゅ話を外します」
「む? 何だあれは! ネ、ネズミの大群が来たぞ! ネズミのモンスターか!」
もう敵襲か! と臨戦態勢のノブナガは構える。反応が鈍いトシツネは後方にいるから安心と考え、前にいるシギリに接近しつつ警告した。
「ビキ忍者! 下がっておれ!」
「下がるのはあなたでしノブナガさん。あれ? いきなり振り返ったら軽率でした。すんません」
振り返り様に伸ばした手がノブナガの股間に激突し、シギリはペコリと謝る。悶絶するノブナガは何とかネズミ達からシギリを守ろうとするが、股間の痛みがそれを許さない。
「ぐっ……もう間に合わん。トシツネあの忍者を……む?」
しゃがんだシギリはそのネズミ達を耳元に寄せて何かを聞いていた。アクビをするトシツネはじーっとノブナガを見ていた。その視線で、ノブナガはネズミの大群が敵では無い事を察知した。そして股間の痛みなど無いように立ち上がる。
そう、ビキ忍者のシギリはダンジョン内部を訓練したネズミを使って情報を収集していた。フンと鼻を鳴らすノブナガは口ヒゲをいじりつつストレスを解消する。
「この世界の忍者は動物を使役するのか。異世界とは面白いものだ」
「だろ? で、シギリ。何か情報は手に入ったのか?」
そのトシツネの問いに黒覆面の少女は答える。
「わちしはギル専『魔法使い』のツボミが行方不明との話で探索してます。これにてゴメン」
「ツボミが行方不明……って、そっち入り口方面だぞシギリ」
「わちし……不器用なので」
道を間違えるシギリはやってまった! とモジモジする。ハハッと笑うトシツネは屈託の無い笑みを浮かべ、
「忍者のクセに正直だな。好感が持てるぜ」
「はっ! それは困ります! 妊娠してまいます!」
足をグルグルと回転させるような凄いスピードでシギリはこの場から逃げ出す。ようやく股間の痛みが消えるノブナガはトシツネの隣に立ち、
「どうやら貴様の友の魔法使いとやらも遭難してるそうではないか。ならば俺のダンジョン案内は後回しになるのではないか? 貴様は説明が足りん所がある」
「ノブナガにそんな事を言われるとか有り得ねー。お前こそ「デアルカ」とか一言で終わる時あるし、あれ結構ムカつくからな。ツラも無表情だしよ」
「た、たわけが。家臣が我に楯突くな」
なぬ? と口ヒゲの左右をピンと立たせるノブナガは軽いショックを受けつつもそれを乗り越えようとしている。行く先を見つめるトシツネは首を左右に振って鳴らす。
「最近どっかのダンジョンの奥に『魔女』が出たって話しだからな。一昨日ベビーサタンが現れたばっかりのオレ達のいるエリアなら出ないさ。魔女と魔族は似てるようで相反するってアイツが言ってたからな」
「その魔法使いがか。ギルドは魔女退治と魔法使い探しのどちらに重きを置いている?」
「ギルドの捜索班は出てるようだが、その基本目的は魔法使い探しよりも魔女狩りなんだよ。偵察部隊の忍者や実働部隊の戦士達も魔女狩りで忙しいから、死んだ可能性もある遭難者は後回しになる」
「友が死んだ可能性もあるのに、貴様は冷静だなトシツネ」
「ダンジョンに入る以上、確実に生きて帰れるわけじゃない。誰もがダンジョンへ行く時は死を覚悟する必要がある。理不尽な死すら覚悟しないとダンジョンで活動する事は出来ない。だから心配はしても捜索はしない。オレ達はオレ達の事を地道にやるだけさ」
その青い宝石のような瞳は揺るが無い源土一族としての覚悟があった。強い意志を感じるノブナガはニヤリと口元を笑わせた。
「良い気構えだ。その話を聞いて、俺もダンジョンにもっと興味が湧いたぞ。ハーッハッハッハッ!」
「ま、時間があれば捜索するけどな。とっとと終わらせよう」
そうして、ここからトシツネとノブナガのダンジョン内部修復作業員としての仕事が始まったのである。




