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七話 エドランドの商店街を回るノブナガ

「今日はダンジョンの前にエドランドを案内してやる。買い物ついでにな」


 トシツネは自宅の非難轟々の玄関にてノブナガに話していた。今日はダンジョンへ行き、ダンジョンのモンスターなどについて学ぼうとしていたノブナガは拍子抜けした顔で口ヒゲをいじる。


「何だ。ダンジョンへは行かんのか。なら今日は庭の畑でも耕すのか?」


「さっきアカネがギルドから美味しい話があるっていう話を部下を使って連絡して来た。だから今日はダンジョンへは行かん。お前もエドランドには興味あるだろノブナガ?」


「あのキツネ顔の金柑女の情報。ならば待つとするか。エドランドの楽市楽座を堪能しようぞ」


「楽市楽座じゃなくて、商店街だ。行くぞ」


 トシツネの住む土地の管理人である金剛一族の金剛アカネからギルドに関するオススメ情報を得たトシツネは今日の予定を変えた。借金の返済日までまだ数日あるので、今日はノブナガにエドランドの商店街を案内する事にしたのである。ノブナガは貨幣経済で人々が生活している異世界ジパングという世界に興味津々であった。


「この商店街というのはやはり俺の作った楽市楽座ではないか。商人が自由に野菜や魚などを売って儲けを出し、人々の交流と金の動きを高めている。こうする事により、人はこの国を目指せば稼げると思いより良き人物がエドランドに訪れる。いわば一石二鳥というやつだな」


「ノブナガの国は自由に商人が物を売れない場所があったのか。それを変えようとしたお前は変人扱いのうつけ者と呼ばれていた。オレは息苦しくてノブナガのいる世界には行きたくねーわ」


「俺のいた世界は戦争が多く、他国との外交をしつつ相手に勝つ為の策を色々な事態に備えて何重にも策を練らねば国が滅びる。この異世界ジパングとは、もしかすると俺の作ろうとした世界の延長線上にあるのかも知れん」


 言いつつ、ノブナガは活気のある商店街の商人達の顔を見ながら微笑んでいる。そこで焼き鳥や焼き魚を買って食いつつ、元の世界の食べ物との味の違いなどを味わっていた。


 そして、少し歩くとノブナガは目の前に見えた大きな存在に目を細めた。左手でトシツネの動きを止めると群衆の中にいるその存在を見つめたまま言う。


「トシツネ。モンスターとはダンジョンだけに出るわけでは無いようだな」


 そこには、黄色の猫の着ぐるみのような物を着た人物が猫に襲われていた。周囲の人間達は猫と戦っている着ぐるみを拝むようにして祈っている。あぁ……と思うトシツネは両手を祈るように叩きながら答える。


「アレはエドランドを徘徊する猫仙人だ。よくわからんが、ここでは神様という扱いなんだ。猫にケンカで負けるけどな」


「猫に負ける雑魚が神なのか。全くもって意味がわからんな。一体奴が何の役に立つのだ?」


「あの額の隙間にお金を入れて拝んどけば御利益がある。オレの友達の魔法使いもダンジョンで人間を人体実験道具として使う魔女に出会った時に、猫仙人にお布施してたから生き残った。だからオレも猫仙人の御利益を信じてる」


「たわけが。迷信は信じぬ」


 吐き捨てるように呟くノブナガは先へ進む。黄色の着ぐるみを着た猫仙人は猫にやられて倒れているが、それはいつもの事なので気にせず額の隙間からお布施だけをしてトシツネはノブナガの後を追う。


「おいトシツネ。なんだあの女。人の悪口ざんまいではないか」


 と、ノブナガはスーツ姿のショートボブの女が周囲の人間に対して暴言を吐いている姿を見て言う。


「ありゃ、ダメダ師だよ」


「だめだ師?」


「他人のダメだしばかりする嫌われ者さ。関わるなよ」


 そのダメダ師の女は弱い志が無く民衆だけで無く、その実態は闇の組織と罵るギルドの批判もたまにしてる。ギルドはこのエドランドの警察機構でもある為、ダメダ師は何度か牢屋にブチ込まれている。

 そして、そのダメダ師は群衆に飲み込まれ数人の男女によって川に捨てられた。


「あの女。川に落とされたな。自業自得なのか?」


「いつもの事だ。気にするな。それよりアレは面白いぞノブナガ」


「ぬ?」


 すると、今度はまばゆい光が点滅している人だかりのステージがあり、そこには二人の紫を基調としたビキニアーマーを着る巨乳美少女達がカメラを手にするファンを相手に撮影会を開いていた。

 黒髪パッツンロングのアイと黒髪中分けロングのアミの二人組である。


『さぁて、今日のポイズンクッキングは?』


「ぽいずんくっきんぐ?」


 そこで何をしてるのかよくわからないノブナガは腕組みをしながら質問した。


「トシツネ。あの有象無象が手に持つのは確かカメラというやつだな。色紙にその人間が映し出される機械。その機械で撮影してる男共はあの女二人の家臣なのか?」


「家臣……ではない。ファンと言ってあの二人組が好きな男の連中だ。所属はギルドのアイドル戦士の二人組・ポイズンクッキング。あの毒を秘めたバストはモンスターでさえ誘惑する」


「たわけが。乳などはどうでもいい。お尻が大きくないと良い子が産めん。貴様の考えは根本的に間違っておる」


「間違ってんのはオメーだ」


 視線で火花を散らすこの二人の考え方は根本的に合わない。額を擦り合わせるような距離まで近づき、自分の主張が正しいと意固地になる。瞬間、ノブナガの頭上を何かの影が抜けて行った。


「!?」


 その影は人のようだが黒い覆面をしており顔は見えない。見えたのは身体が極小の生地の黒ビキニ姿であった。背中には二本の刀が背負われており、足元はサンダルだ。おそらく十代半ばぐらいの小娘であろうとノブナガは思う。


「あの影……忍者か! あれはまさか忍者?」


「ふー? ノブナガの世界にも忍者いたのか。その通り、忍者だな。その中でも最強クラスのビキ忍者の仕舞(しまい)シギリ。あのビキニを着た女もギルド専属だ。背は低いが意外にパワーもある。ただ、やや方向音痴なのが問題でダンジョンでも何度か助けてる」


 『忍者』という集団がギルドにはいる。

 エドランドを中心とした街の情報収集や他国のスパイをあぶりだし情報を吐かせて始末などを請け負う仕事だ。ダンジョンへ行くのはお宝探しが主で有り、主な活動場所はエドランドの内部が中心であった。自分のいた世界の忍者に似ているが、服装的におかしいと感じたノブナガはそこについて述べる。


「あの忍者……ケツに褌がくいこんでおったが寒くないのか?」


「褌? だからあれはビキニだよ。水着。つまり水中用の布。忍者はスピード命だから熟練者は軽装なんだ」


「デアルカ」


 このような感じで、ノブナガはエドランドという街を知り、異世界ジパングについて学んで行く。ここからこの世界を色々と調べて、この世界での天下布武に乗り出す計画を薄々と立てつつあった。


 二人はドリンク屋に入りカルピスを注文する。その白く甘い液体を作るオヤジの作業を見つめるオレンジ髪のオールバックの男はその目的の障害となる大きな組織について考えた。瞳を一度瞬きしたノブナガは何かの意思が固まったかのように意見を言う。


「実質的なエドランドの支配者であるギルドには入らなくていいだろう。ギルドに入れば家臣になってしまう。俺は奴等とは対等になる必要は無い。いずれは家臣にするわけだからな」


「お前は本気で世界征服するつもりか。ま、ギルドに入るとある程度のモンスターを退治するノルマも出来るしな。確かに今更ギルドでバトラーとして仕事をするのは面倒だ。オレはノブナガと出会ってチートパワーを得たけど、発掘師として生きるだけさ。源土の基本は変えねぇよ」


「一度得た力に酔わぬ奴などそうはいない。誰もが一度の成功体験に酔いしれ、それがいつまでも続くと信じて進んでしまう。だが、貴様は違うようだ」


 ふと、ノブナガは自身の織田家が負けたら崩壊する絶体絶命の電撃作戦を決行した桶狭間の戦いを思い出して口元を笑わせる。


「恐ろしいのはその場、その場で変化する人間。時代に合わせて変化して行く人間だ」


「何にせよ過去の栄光に縋るなって事だろ。源土一族も過去に囚われて今やオレ一人だ。それにお前はこのジパングじゃあただのノブナガだ。それだけだ」


「言いおるな。確かにそうだ。俺は無茶をした過去の成功を二度と使わずに人生を歩んで来た。一つの成功は次においての成功では無い。トシツネ。感謝するぞ」


 生まれ変わったようにノブナガは微笑んだ。

 それが今後、トシツネのスローライフを妨げる事になる事も知らず、二人は肩を組んでカルピスを飲んだ。トシツネは自分だけ少し濃いめのカルピスにしている事は言わなかった。そして、ドリンク屋のオヤジはふと思い出したような顔でトシツネに話しかけた。


「おい、トシツネ。発掘師の仕事依頼がギルドに出てたぞ。このチラシやるよ」


「お、センキュー。何々……これがアカネの言ってた美味しい仕事か」


 その内容はギルドからのバイトでダンジョンの修復作業員募集である。

 つまり、ノブナガを発掘した後に出会った魔王の娘・ベビーサタンと戦闘した時に起こったダンジョン崩落の修復作業員としての仕事だ。これはトシツネが意図的に起こした事故でもある。


「……わお! これやんないと不味いな。ちょっとズルだけど、金も貰えるなら丁度いい。三時間で修復して、後は発掘だ」


「あのキツネ顔の小娘の考えそうな事だ。金剛一族というのは、まさに金の一族だな。まぁ悪くは無い話がだろう」


「そうだ。美味しい話だ。発掘師風情が魔王の娘のベビーサタンを追っ払ったんだ。いわばタダ働きみたいなもんなんだから、しっかり金は貰うぜ。そもそも戦闘はギルドの連中の役目なんだからな。とりあえずギルドへダッシュ!」


 ヒャッホー! と駆け出すトシツネはギルドへダッシュする。フンと鼻を鳴らすノブナガはその背中を見つめた。


「あの男には欲が無い。スローライフなどというのは才能が有り余るあの男にとって飽きるはずだ。戦国の世とは違い、異世界にはとんでもない奴がいるものだ。俺もダンジョンとやらを学ぶとするか……って、俺を置いていくな! 迷子にするつもりかトシツネ!」


 危うくトシツネを見失いそうになるノブナガは必死に駆けるが迷子になってしまう。結局、ギルドのメンバーに保護されたノブナガはギルドに到着していたトシツネと再会し無事であった。


 二人はギルドでダンジョン修復作業員として登録して、明日から働く事になった。

 そうして、トシツネとノブナガは崩れたダンジョンの修復作業員という名目でダンジョンに向かったのである。

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