六話 本能寺で死んだノブナガ。そして美少女管理人さん現る!
異世界ジパングに転生したノブナガが前世で死亡した事件。
それが「本能寺の変」である。
本能寺の変とは天正十年六月二日に織田信長の家臣である明智光秀が謀反を起こし、京都本能寺にいる織田信長を包囲した。
この時、織田信長の他の家臣達は遠くの国へ遠征中であり、信長は光秀からすれば無防備な状態だった。その信長は早朝の寝込みを襲撃され防戦したが多勢に無勢であるのを察すると、寺に火を放ち自害した。
「……そのはずだったんだがな」
と、ノブナガは目の前のトシツネに語る。
「アケチミツヒデ……明るく智があり光り輝き秀でている。って感じの男か?」
「ただの金柑頭だ。その金柑頭にしてやられて俺はここにいる。人を道具としてしか使わぬ感情無き愚か者と奴は言っていたな」
「確かにノブナガはそんな感じがするな。そもそも謀叛って事は、その傲岸不遜な性格や天下布武という偉業を成す為の行動がその家臣から非難されたって事だろ?」
「デアルナ」
と、ノブナガは多くを語らず一言で答えた。
本来死んだはずのノブナガは何故かこの異世界ジパングに転生し、トシツネに発掘され見知らぬ異世界での生活をする事になった。今更もう一度自害しても仕方ないので、ノブナガはジパングでの生活を受け入れて過ごすつもりだ。その口ヒゲの鷹のように鋭い目の男は源土一族というものについて聞いた。
「一人で住むにはそれなりに広い家であるが、トシツネは家臣も家族もいないのか? 源土一族というのは、本当に貴様一人だけなのか?」
「そうさ。源土はもうオレが末裔の風前の灯の一族だ。元々親父はだらしない奴でな。親父は母親が病気で死んでから発掘師としてオレを食わせる為に何とか働いていたけど、いつの頃から酒に溺れて帰らない日が続いた。そしたら、他の源土達とダンジョンの発掘中にモンスターに襲われて死んだとギルドから通報があった。一族崩壊の原因を作り、一攫千金を目指してギルドの怪しい仕事をしていたようだし、自業自得かもな」
「自分の父親が嫌いなようだな。同族だろうが使えぬ者は忌み嫌って当然だ。そして、その親父はトシツネに何かを残したのか?」
「残したのは借金だけさ。死体も無い。食われたらしいからな」
発掘師として周囲の源土達に迷惑をかけ、ギルドの怪しい仕事をしたりして勝手に死んで行った親父の事を思うトシツネは無表情になり溜息をつく。そしてオレンジのオールバックの男に今後の事を聞いた。
「今後、お前はどうするんだノブナガ? 居候してもいいが、お前の性格だとダンジョンシーカーにでもなるのが一番かなぁ」
「ダンジョンには行かん。目的を作るならこの異世界ジパングを俺の手に収める天下布武だ」
地下のダンジョンにはあまり行く気が無いノブナガはあくまで地上征服しか興味が無いようだ。理由として、ダンジョンにはモンスターしか存在しないし、話も出来ない獣と話しても仕方ないのが理由のようだった。
「話も通じんモンスターしか存在しないダンジョンには興味が無いが、このジパングには興味があるぞ。そこの土地の畑を耕してもいいな。貴様は自分の能力をもっと自分で把握すべきだ。俺がその才能を擦り切れるまで使い倒す必要がある」
「野菜仕事してくれるなら助かるな。そこの野菜とかはエドランドの人間や隣の幼なじみのギル専の魔法使いに売ってる。今はおそらくダンジョンで調査してるからいないけど。どうやら昔、エドランドを崩壊寸前まで追い込んだ魔女が現れたようだからな」
「はて、まじょとは何ぞ――」
『魔女』という聴き慣れぬ単語を連想して目が細くなるノブナガは、この家の奥から何やら人の気配がしたのを警戒した。
「何だ? この非難轟々はトシツネ一人だけが住んでいるのだろう? もしや賊か! 正しく敵は本能寺ではなく非難轟々に有り!」
「いや、あそこは風呂がある。おそらく管理人さんだ」
「管理人さん?」
「管理人さんはこの和式の風呂が好きでな。勝手に入りに来るんだよ。管理人さんはこのエドランドの不動産王の一族だからな。変な事はするなよ」
言いつつ立ち上がるトシツネは風呂場の方へ向かう。管理人という者がどんな者か気になるノブナガはその後に続いた。風呂場の脱衣所の前に行くと、無数の猫にくっつかれた謎の生物が存在している。うわぁ……と頭を抱えるトシツネに意気揚々とノブナガは話す。
「人間ではないぞトシツネ! これはモンスターではないか。貴様から教わった知識だと猫のモンスターだな。俺もこのジパングに慣れて来たわ」
「いや、アレ人間だから。人間、人間」
「……ではないはず」
困惑するノブナガは目の前の無数に猫が張り付く猫生物を見る。すると、その猫生物はボソボソと何かを話し出した。
「……猫に構う時間も厳守しないとならないわ」
風呂から出て猫と遊んでいたら、いきなり増え出した猫に身体中くっつかれて動けない管理人さんの顔が現れた。
「トシツネ君。借金は時間厳守よ」
それは茶髪のポニーテールのモデルのような美少女。十七歳の管理人。エドランドの不動産王の娘。金剛アカネだった。トシツネとは子供の時に発掘師見習いとしてネックレスを掘り当てて、それをあげた事で仲良くなっている。予想通りだったアカネの登場を歓迎しつつも、胸元に光る何かを見つけて話す。
「風呂に入る時ぐらいはネックレス外せばいいのに」
「これはもう身体の一部だし外せないの。それより猫を外してちょーだい」
「外してもいいけど、服が無いぞ?」
「ふ、服は猫に盗まれたわ……うぅ……」
「アカネ。すぐオレの服用意するから泣かずにいてくれ!」
そして、素肌に張り付いた猫達をある程度外し終わるとトシツネは服を置いてその場を去ろうとする。ノブナガは胸と股間の猫を外そうとするが、トシツネがそれを阻止する。そして、ジーパンとTシャツ姿になるアカネは居間でトシツネとノブナガと茶を飲む。
「まさか異世界から転生する存在がいるなんて……これはクリスタル以上の発掘よトシツネ君。素晴らしい功績だわ」
「どこまで素晴らしいかわからないけど、クリスタルように売る事は出来ないからな。それにダンジョンへ行ってもこれからも人間を発掘出来るわけじゃないと思う」
「それでもやってみる価値はあるわ。私の目的としてダンジョンにも私の不動産が欲しいの。人間を発掘するなんて事をしたなら、今後は発掘師としてではなくダンジョンシーカーとして活動出来るわね」
「うーん。そうするとギルドにも正式登録しないとならないし、そもそも戦闘向きのジョブじゃないからな発掘師は」
「でもトシツネ君はダンジョンシーカーに憧れてたじゃない。ノブナガが強いなら二人でダンジョンシーカーをすればいいのよ。最近は魔女が復活した話もあるし、魔女を倒せば一攫千金よ!」
「何故このノブナガが貴様の指図で動かないばならんのだ。たわけが」
勝手に自分を巻き込んだ話しで盛り上がるアカネの態度にノブナガは釘を刺す。ぷくぅと頬を膨らませる管理人のアカネはノブナガと対立している。
「トシツネ君のおかげで発掘されたんだから感謝しなさいよ。ほほほほー」
「キツネ顔のミツヒデみたいな娘だ。吐き気がする」
「キツネ顔ですって!? それにミツヒゲって何よ!?」
「ミツヒデだキツネ娘。貴様の下のヒゲも剃り落とすぞ」
「私は下の毛は――」
「二人共、やめれ」
面倒になって来たのでトシツネは二人を止める。そして、まだ借金の返済日でも無いのにここに来た理由を聞いた。
「そもそも今日は何でオレの家に来たの? 目的は風呂だけ?」
「目的は家賃滞納の夜逃げ犯を捕まえに来たの。この非難轟々のどこかに隠れているのは知ってたから。ほーら、あそこの草むらから出てきた二人組が犯人よ」
確かに草むらから出てきた二人組が農園の野菜を狙っているようにコッソリ動いていた。窓を開け放つアカネは金色のコインをその二人に向けて投げる。それを見たノブナガは射撃の正確に驚いた。
「銭投げか?」
「ゴールドアクションの一つ。ゴールドショットだ」
トシツネが答えると、外に出たアカネは金の棒であるゴールドロッドを生み出す。顔を抑える二人組の夜逃げ戦士達は段々と大きくなるゴールドロッドを持つ金剛グループの管理人に恐怖で動けなくなった。
「ここに隠れていたのですね。管理人さんの顔も三度までです。だけど夜逃げは一度です」
「いや、家一つ潰れる大きさの超大木じゃん! それにそれは仏の顔もだし! アンタ笑顔の鬼だよ!」
「デカすぎる棒で潰される! 助ずげでーーーっ!」
無様に叫ぶ夜逃げ犯達はゴールドロッドの超大木に潰されて沈黙した。そしてギルドの連中に引き渡されて逮捕される。
「さて、一緒に返済計画を立てていきましょう」
笑顔で語るアカネはトシツネとノブナガに手を振ってギルドの面々と共に姿を消す。笑顔で答えて手を振っていたトシツネは額の冷や汗を拭いて呟く。
「わかっただろ? だから絶対管理人さんを怒らせるな。家賃滞納は死だ」
「この世界の女とは強き者が多いようだな。女武将とでも言うのか。不動産王の金剛アカネか。たわけなキツネ顔め」
「真っ直ぐ掘り進むのが源土。そして、時間厳守の不動産王なのが金剛。これでこのエドランドの一つを学んだなノブナガ。そしてまだまだ学ぶのもがある」
「?」
「とりあえず週末に借金返さないとならんから、明日にはダンジョン行くぞ」
「ダンジョン? 俺は地上の方が興味ある」
「あぁなりたいのか?」
「行くか」
と、即答した。まだこの世界をよくわからないノブナガは今はトシツネに従おうと決めてダンジョンに向かう事になった。




