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三話 魔王の娘ベビーサタン現る!

 いきなりノブナガは魔王の娘・ベビーサタンに殴りかかった。しかし、その拳の一撃は顔面に直撃したが大きなダメージは与えられていなかった。チッと舌打ちするノブナガは後退してトシツネの隣に立つ。


「蚊のような一撃……それより、この人間界進行ルートがもうバレてるとはな。マロはマロっちゃう」


 と、先程の地震の影響からか、突如現れた魔王の娘・ベビーサタンは十代後半ぐらいの容姿の割には口におしゃぶりを咥えている魔族である。青い肌の魔族の女についても、魔王ベビーサタンの娘と言われても全くよくわからないノブナガは焦るトシツネの反応とは全く違う反応をする。


「おいトシツネ。マロっちゃうとはどういう意味だ?」


「知らん。魔族に関する知識はあんま無いからな。赤ん坊でも無いのにおしゃぶり咥えてるぐらいだし、身体は大人で心は子供なんだろう」


「異世界とは変な連中が多いものよ」


 よくわからない人間達に色々と言われるベビーサタンは怒り出した。


「黙らっしゃい! 誰が赤ん坊か! マロは魔王サタンの娘のベビーサタン! 控えおろー!」


 という命令はモンスターならば絶対の命令だが、この二人の人間には通用しなかった。トシツネは頭が混乱して通用せず、ノブナガに至っては根本的に聞く気すらない。その傲岸不遜な口ヒゲの男は言う。


「口におしゃぶりをしておるという事は赤ん坊ではないか。魔族というのは赤ん坊なのか? よくわからん存在だ」


「いや、あれが魔族なんだよ。魔族は寿命が百を超える存在だから人間と比べると絶対におかしくなるんだ」


「デアルカ。それより貴様、そんな青ざめた顔をしてどうした? 体調悪いならダンジョンを探索している場合ではあるまい」


「違うぞノブナガ! あれは魔族だから肌が青いんだ。体調悪くて下痢をしてると思ってたら痛い目を見るぞ。確かに青ざめてるし、何か顔の様子もおかしい……まさか本当に……」


 その俯き加減で腹を抑える魔族の女にトシツネはマジで腹痛か? と疑問を持った。これにより、ノブナガもそういう結論を下してベビーサタンに接する。


「腹を下してるならそうと言え。遠慮するな。俺もこの異世界に来たばっかりだ。この源土トシツネという男に頼れば薬ぐらいあるだろう。どうだトシツネ」


「あたぼーよ」


 素早くトシツネはバックの中から腹痛薬を探そうとする。その間も俯き加減で脂汗を流して腹を抑えるベビーサタンは体調の悪そうな顔を上げ、恨みのこもった声を出す。


「うっさいわいデベソが!」


『!?』


「人間風情がこのベビーサタンであるマロにここまで侮辱するとは許されん。まさかここまでの屈辱を受けるとはマロは完全にマロってしまった。もうここで人間共に宣戦布告をするしかあるまいて。主等を火炎地獄に落してやろうぞ……」


 どうやらこのベビーサタンはいきなり出会った人間達の対応に今までの人生の中で受けた事の無い屈辱を受けたようであり、すでに激怒を通り越して全てを抹殺しようと言う殺意が吹き出す魔力によって感じられた。


「おいトシツネ。あのベビーサタンというのは怒っているが、何か問題ある事を言ったのか? 人種とかが違うと文化も違うから全くわからんな。腹を下しているから気が短いのか知らんが、あの女の周囲にただならぬ気配が漂っているのは何だ?」


 トシツネは絶対的な死を感じさせる最悪の状況になっている事を察した。ノブナガのノリにつられていたが、相手は確実に魔王の娘の女であり、人間とは対立しか無い存在である。そして、その魔王の娘の女は赤い龍を魔法で生み出していた。その禍々しい炎の龍を見たトシツネは自分の魔法知識の中から一つの答えを導き出した。


「まさかあれが火炎系最強魔法のマグマドラグーン……やはりあの女は魔王の娘だ」


「あの炎の龍の事か? あんなのは花火を改造したまやかしであろう。にしてもよく出来た龍だ」


「あれは魔法だ! とにかく逃げろ! 焼け死ぬぞ!」


 トシツネはノブナガの手を取り駆けた。ここは駆けてこの場所から離れるしか無い。開かれた草原でも無い洞窟では、回避するにはとにかくこの場から逃げ出すしか無い。キャハハ! というおしゃぶりをした魔族の女の声がその魔法を放つ合図だった。


「間に合わねぇ……ノブナガ伏せてろ!」


「なぬ? 貴様――」


 トシツネはスコップを取り出し、この炎の龍を掘削してやろうと言わんばかりに構えた。あまりにも無謀な発掘師の少年は目を見開いて強くスコップを握り締める。そして、そのマグマドラグーンはトシツネを喰らうように呑み込んだ。


「……」


 おしゃぶりを口でモゴモゴさせるベビーサタンは消え行くマグマドラグーンの炎を見つめていた。生意気な人間を始末した事で興奮しているので、ついヨダレが垂れそうになってしまう。


「さて、当初の予定とは違うがマロはここから出て人間世界を混乱に陥れてやろうぞ。この上に街があるならマロの支配下にして、ここから人間界を魔族が支配してやろう……マロロ!」


 ニヤリと笑い踵を返し一歩そこから足を進めようとすると、耳に誰かの呻き声のようなものが聞こえた。振り返るとそこに二つの黒い影があった。


「……マロん?」


 まさか、もう生きてはいまいと思っている人間達が当たり前のように立ち上がっている事に驚愕している。

 自分の魔法は一切の手加減が無い火炎系最強の魔法。戦闘向けのジョブでも無い存在が耐えられるものでは無いし、マグマドラグーンをくらってようやく立ち上がれる存在もギルドのトップに君臨するナンバーズぐらいだろう。つまり、普通の人間には耐えられない魔法だ。


「この魔王の娘であるマロの得意魔法に耐えた? たかだか発掘師などという戦闘向きのジョブでは無い下等生物が……」


 水色のツナギがところどろ黒焦げになっているトシツネはとんだ災難だぜと思いながら、スコップを杖にして立っている。その背後にはノブナガも座り込んでいるが無事であった。


「一か八かの賭けで発掘してやったさ。ある程度の個体なら発掘してやろうと思った。オレは所詮発掘しか出来ない発掘師だからな。死ぬ時まで発掘するしかねーのさ。でも魔法を掘るのは初めてだよ」


「掘っただと……魔法を掘る? 人間にはそんな事が出来るのか? いや、マロはそんな話は聞いた事も無い。そもそも魔法を物理的に掘り進むなど有り得ぬ……」


 ベビーサタンは現状が理解出来ない。

 人間界に向けてダンジョンの奥地からワープゲートを段階的に作り、密かに侵攻する作戦を任され任務を遂行していたが、運悪く人間に遭遇してしまった。


 魔族として魔王の父からの命令は絶対の為にその目撃者を始末したにも関わらず、何故かその人間は生きている。並の人間なら一撃で百人を超えるバトラー達を始末出来る魔法すら効いていない人間を見て、ベビーサタンは一つの答えが浮かんだ。


「こやつまさか父が恐れていた『チート』なのか? ええい! お主の本当のジョブを申してみよ!」


「オレは発掘師の源土トシツネ。オレの一族は愚直に真っ直ぐ掘り進む。源土一族にはそれしかねぇのさ」


 発掘というスキルしか出来ない発掘師の少年は自分の一族の不器用だが、誠実に生きてきた証を言葉にした。

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