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十二話 新たなるジョブ!? それはスコップナイト!

 魔王の娘・ベビーサタンとの再戦が開始されている――。

 軽快にステップを踏むベビーサタンにトシツネのスコップが叩き下され、ノブナガの蹴りが一閃する。それは魔法・フリーズウォールの氷の壁により防がれ、その防壁も砕ける。同時にその砕けた氷は風に乗せられ弾丸となった。


「ウインドフローズン」


 風魔法のウインドに氷の破片が混ざり合い、切り裂く風と氷の弾がトシツネとノブナガに浴びせられる。


「ファイアウォール」


 と、ギル専魔法使いのツボミの炎の壁がその魔法を全て防いだ。何っ? と本来なら人間の魔法使いのファイアウォールなど消滅させる威力を持つ自分の魔力と互角なのに驚く。


「マロの魔法をたかだか人間の魔法使いが防いだのであるかえ? ならもう一段上の魔法を使おうか。それに、マロは個人的にこの小僧を倒したいであるし」


 急に伸びた左右の人差し指の爪が、交互に両手の平を突き破り青い血が地面を汚す。何の自傷行為かわからず攻撃が止まる三人の人間はベビーサタンに高位魔法を使う隙を与えてしまった。


「黒き魂よその者の行く道を縛れ……破門の闇」


 蛇のように伸びた魔力の糸がノブナガとツボミの足に絡みつく。


『――!?』


 破門の闇は昨日までに起きた邪な事を考える思考が自身の足を縛る魔族の高位魔法である。その魔法により、ノブナガとツボミは足がしばらく動かなくなる。ニンマリと微笑みおしゃぶりをしゃぶるベビーサタンは宿敵と認識する男に挑戦状を叩きつけるように言う。


「マロの魔力と人間の邪な煩悩が狂い咲く高位魔法。これでトシツネを思う存分痛めつけられるであるよ」


「ったく、だらしのねぇ奴等だ。ならこの源土トシツネ様が今度こそ魔王の娘ベビーサタンをブッ飛ばしてやるぜ!」


 足が動けない仲間に手出しをする気配は無いから一安心するトシツネは、徐々にこの前のチートパワーを取り戻すかのような動きでスコップを振り回しベビーサタンと互角以上の戦いを繰り広げる――が、


「げえっ!? スコップの根本が折れた!? これだと掘れねぇ!」


「本当にチートパワーが目覚めたなら、そんなチンケなスコップでは力に耐えられ無い。マロの勝ちでマロ!」


「バカめ。オレにはチートパワーだけじゃなく、このダンジョンで発掘師として生き抜いて来た知恵があるんだよ!」


 何かのワイヤーを引っ張るトシツネを見たベビーサタンは背後に飛んだ。また地面が崩壊する技を繰り出されるのを回避したのである。そろそろ動けそうだなと思うノブナガはフンとトシツネの策に引っかかる敵を笑う。そしてツボミはベビーサタンに口撃した。


「バカねぇベビーサタン。今のはトシツネのハッタリだで。そんなんじゃ、魔族が人間界を征服するなんて夢のまた夢。マロマローン!」


「……マロマロうるさいって、あれ? 本当に何も起こらない? は、計ったマロな!」


「マロマロうるせーぞタコ助」


 また地面を崩壊させるハッタリをかましたトシツネはナイフとワイヤーを使い、折れたスコップを何かに仕上げた。スコップの柄の部分の木の棒は先端が槍のように尖り、土を掘るさじ部の鉄板はワイヤーが巻かれ持ち手が作られている。


「即席だがこれで完全だ! 行くぜオレの新たなるジョブ――」


 新たなるジョブ!? とその場の全員は各々の驚いた顔をする。

 トシツネは右手に折れたスコップの柄である木の棒をソードのように持ち、左手にはの土を掘るさじ部分をシールドとして構えて叫んだ。


「クラスチェンジ! スコップナイト!!!」


 新たなジョブ『スコップナイト』として、トシツネはベビーサタンと対峙する。


 そしてそのスコップナイトはベビーサタンに接近戦を仕掛けた。その光景を身体の具合を感覚で確認しているノブナガは言う。


「そろそろ動けそうだが、トシツネの攻撃はまるで効いておらん。クラスチェンジはパワーアップというやつでは無いのか?」


「おそらくチートパワーはスコップを使ってないと湧いて来ないんでしょ。あのままだとトシツネは負ける。スコップナイトなんてカッコつけてるから勝てる戦いに勝てないのよ」


「過信と慢心……か」


 ツボミの言う事に答えを出すノブナガは、マグマドラグーンの直撃を受けて大ダメージをくらったトシツネにいら立つ。


「ここで心臓を潰してあげるマロ。闇魔法……嗤う心臓」


 闇魔法・嗤う心臓によりベビーサタンに遠距離から心臓を掴まれ、そのまま潰されそうになる。もうすぐ動けるが間に合わないツボミは幼なじみを助ける為に叫ぶ。


「トシツネ! そのスコップナイトってのを諦めなさい! それならまだ素手で戦った方がチートパワーを出せるはずよ!」


「!? ――しゃあ!」


 何の躊躇いも無くすぐさま両手の装備を捨てたトシツネは嗤う心臓から解き放たれた。


 そしてその何かを捨てるという覚悟がトシツネの心臓の働きを高め、前回ベビーサタンに潰された事になっているフルーツサンドの光景を思い出し、一気に全身にチートパワーが溢れ、髪が逆立った。


 ツボミは桁違いのパワーに驚愕しトンガリ帽子を押さえつけ、覚醒した力をようやくちゃんと引き出した姿を見たノブナガは、更に発破をかけた。


「そうだトシツネ。それが貴様のチートパワー。奴を倒せば甘い物が食い放題! 奴に負ければ、甘い物は二度と食えん!」


「そんなのは嫌だぁ!」


 そしてチートパワーが宿る拳がクリティカルヒットし、ベビーサタンに大ダメージを与える事に成功した。

 このぉ! と怒るベビーサタンは火炎高位魔法・マグマドラグーンを放つが、トシツネはそれを両手で掴んでうらぁ! とマグマドラグーンを跳ね返す。ベビーサタンの背後の岩壁が崩れ、紫の光が溢れ出た。


「今のオレはチートだ。そんな魔法は通じねぇ。ここで終わるぜ」


「えぇ。ここで終わるマロ」


 振り返るベビーサタンは後退した。マグマドラグーンによって崩れた岩盤の先には紫の五芒星が描かれた魔法陣がある。それはこの一年以上かけて作られた魔族専用のワープゲートだった。


「運が良かったわ。これは緊急非難用の一度きりのワープゲート。もう切り札のこれを使うしか無いわ。勝手に使ってゴメンねお父様! お尻叩きは百回までにしてー!」


 そうして、ベビーサタンは完全にこのエリアから消えた。頭をかくトシツネは逃げられたか……と近くの石を蹴る。すぐさまその魔法陣を確認するツボミは呟く。


「これは魔族専用のワープゲート。どうやら魔族はかなり人間界に近づいていたようね。でもどうやってこのエリアに膨大な魔力が必要なワープゲートを……こんな物を作っていたらギルドが気付かないわけが無いのに……」


「ま、とにかくベビーサタンは魔族のいる地下世界へと帰った。なら、そこにあるお宝頂いてオレ達も地上へ戻ろう。チートパワー使う反動で身体がダリー……」


 確かにそこには一つの宝箱がある。非常用のワープゲートエリアにある以上、特別なアイテムであるのは間違い無かった。


「多分、ベビーサタンがここに隠しておいたんだろ。武具や防具の仕様は人間も魔族も無いからな。装備出来れば誰もが使える。開けてみろよツボミ」


「宝箱モンスターのミミッ君だったらどうするのよ?」


「たわけめ」


 ノブナガは容赦無く宝箱を開けた。そこにはオレンジを基調としたカボチャの洋服とパンツが入っていた。この布は貴重な布であり、防御力がかなり上がる代物である。トシツネもツボミも防具としてこれほどのレアアイテムを見るのは初めてなので手を握り合いダンスをして喜ぶ。いい加減にしろとノブナガは二人を引き離し、へんちくりんな衣装の説明をさせた。


「……つーわけで、カボチャシリーズは世界最高の防具の一つなんだよ。オレンジを基調にしてるからノブナガには似合うよ」


「そうだで。ノブナガはすぐに着替えてもいいかも。きっと似合うよー」


 何やらニヤニヤする二人にノブナガはやや冷や汗が流れた。カボチャの洋服にカボチャのパンツ。どうみても滑稽な服でしか無いのにレアアイテムという貴重な物なのが理解出来ない。


「……え? これはダサくないか? だってカボチャパンツだぞ? たわけになるではないか……」


「いいから着替えなよ。私もトシツネもそれが見たいの。これはめっちゃ防御力上がるからベビーサタンの攻撃なんて効かなくなるよ」


「ツボミの言う通りだぜノブナガ。勝つ為には格好は気にするなって事だ。オレもスコップナイトを諦めたし。それと同じだ」


「同じか……そうか……」


 そうならば……と着替えようとするノブナガの背後でクスクスする二人に気付き、やはり防御力とかどうでもいい! と冷静になるノブナガは叫んだ。


「防御力が上がろうがこんなダサい服が着れるか! たわけ共が!」


 少しもめたがノブナガはそれを着る事を拒否する事に成功した。そして、ダンジョンから出たらやるべき事を再確認する。トシツネはツボミとギルドへの報告をまとめた。


 1.魔王の娘・ベビーサタンと遭遇し撃退した事を報告しなかった事。


 2.ダンジョンの崩落事件は自分のせいだった事。

 

 先日起きた事件であるこの二点はギルドに報告せざるを得ない状況になった。ギルド専属のツボミに色々とバレてしまっているので、もし報告しないとなるとツボミが罪に問われる事になるからである。


 そして今回の戦闘でベビーサタンを地下世界まで追いやった事の功績は大きいので上の二点は帳消しになると判断もした。


 と言う訳で、それを確実にする為にレアアイテムのカボチャシリーズはギルドへの献上品として使われる事になった。それに納得するトシツネはリュックを背負い地上への帰還準備をした。


「ダンジョン修復作業も終わって、ツボミも助けた。んじゃ、地上へ帰るか」


 チートパワーを使い疲れている為、トシツネは先行くぜとスタスタと歩き出す。その後ろ姿を見つめるノブナガはこの戦いで確信した事があった。


「トシツネは根本を言えば金でも土地でも動かない。欲はあるが、スローライフなんていう意味のわからんものだ。奴を使って行くなら奴の何かを刺激する物が常に必要。そしてそれは「人助け」という名目が一番良い。奴自身は気付いていないが「戦闘」をしている時が一番イキイキしてる。人助けと戦闘を組み合わせて行くのが一番天下布武に近い道だな」


「確かにね。貴方を発掘してからトシツネは変わったわ。チートパワーを得た事以上に、貴方の存在が大きい。でも彼は発掘師として生きるでしょう。ただのバトラーにはなれないわ。だでトシツネを無理させたら承知しないキニ」


 隣にいるギルド専属・魔法使いのツボミに視線を送るノブナガはふと思っていた事を口にした。


「フン、よく吠えるタヌキだ。ところで貴様。何故所々で口調が変わる? だでやキニはおそらく方言だろう?」


「わ、私は魔法の修行で地方に行った事があるの! だで、それが原因キニ。気にしゃちゃー……ちゃ? うわ! また方言が出てしまった! とりあえずトシツネの相棒とはまだ認めて無いからね! 覚悟シチュー!」


 頭のトンガリ帽子を抱えて焦るツボミは言うなり駆け出す。舞い上がるホコリを払いつつタカの目の男は呟く。


「覚悟シチューとは?」


 この世界のシチューという食べ物を思い浮かべたが、すぐに覚悟しておけという事だと思った。タヌキ顔の事はどうでもいいと思うノブナガは相棒であるトシツネを考えた。


「あの時、スコップナイトという自信があったジョブを簡単に捨てる覚悟は凄まじい判断力だ。人間、何かを得たらそれに囚われ捨てる事は出来ないのが普通。捨てる事こそ進化だ。それにトシツネは基本の発掘師だけで無い。商人、薬師のスキルもある。あの人の良さなら間諜や調略者にも出来よう。まずはエドランドをノブナガ軍団の拠点にする。ミツヒデに裏切られ炎に焼かれて死んだはずの身だったが……楽しみになってきおったわい」


 特に目立つ事の無いどこにでもいそうな顔つきの為、変装も出来るし応用が効く。源土散薬の薬で薬師でもあるし、自宅の非難轟々では無人販売で商人もしている。何かに似ていると思うノブナガは、かつて顔面に小便を引っ掛けた後に草履取りにしたサル顔の男を思い浮かべた。


「フン、やはり奴めはあのサルに似ている。これは異世界ジパングにていい奴と巡り会えたわい。やはり天は我に味方せり!」


 ニヤリと笑うノブナガはマントを翻してトシツネとツボミの後を駆けた。

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