十一話 またもやマローんなベビーサタン現る!
ギルドのダンジョン通路補修作業の依頼を受けたトシツネは岩壁に埋まっていた魔王の娘・ベビーサタンを発掘した。相棒であるノブナガもまたこやつか……という苦い顔をしている。魔法使いのツボミは何が起こるかわからないので青いトンガリ帽子に手を当て、五芒星のステッキを構えた。
三人の人間の目の前にいるのは白い髪に血を求めるような赤い目をしたおしゃぶりをする魔族。魔王の娘・ベビーサタン。
人間で言うなら十代後半の見た目であり、身につけているのは黒いブラジャーとパンツのみである。その魔族の女は薄目を開けて目覚めたようだ。
「マロ……ん」
すでに臨戦態勢のツボミは五芒星のステッキから魔法を放てるよう準備をして、トシツネに言う。
「当然ながらベビーサタンは生きてるわ。私はすぐに魔法を撃てるようにしておく。トシツネはどーせ助けるんでしょ? なら早くしてけれ」
「流石は頼れる幼なじみ。わかってるね」
ツボミが魔力を集中させる力が多少乱れたのを察するノブナガはフンと鼻を鳴らす。トシツネは気絶しているベビーサタンへ近寄る。
本当に助けるのか? と二人の行動に疑問を持つノブナガは話し出す。
「こやつはこの前戦った時から埋まっておったのか。それにしても、ワープしていたのに何故この青金柑頭はここにいる?」
「ま、ワープ装置も壊れてたしな。途中でワープエネルギーが切れてまたこのエリアに出現したんだろ。本来なら魔族は人間界の地下にいる。だから地下を目指して進まないと帰れない。けど、邪魔な岩石から逃れる為に上へ上へと進んだ結果がここに埋まっているという事だ。生物の本能として、溺れそうになったら上に逃れるのはあるのさ」
「流石は発掘師。海で溺れても、岩石に溺れても目指すのは上という事か。さて、この魔族は気絶している間に始末するか」
すぐさまノブナガは腰にあるナイフを持ちベビーサタンの首を見つめて近寄る。その目の前をトシツネのスコップが塞いでいた。
「言ったろ? 助けるさ」
「助けてどうする? 人間と魔族は共存出来ないのだろう? だからこそ、地上と地下に分かれて存在している。今は敵の戦力を削ぐちゃんすというやつであろう?」
そのノブナガの人間側の意見として真っ当な言葉に「確かにな……」という口の動きをするトシツネは乾いた笑みを見せ、話す。その言葉を唇を噛み締めながらツボミはじっ……と自分の事のように聞いていた。
「……どんなクソ野郎でもこのまま死んで行くのは不幸だ。だから生き埋めになったら敵であろうが発掘してやるし、助けた後の事はその時に考える。こんな薄暗い場所で孤独に死ぬのは、誰であろうと辛いもんだ」
「それはトシツネ。昔、貴様の大事な人が生き埋めになって死んだ経験から出た話か?」
瞬間、トシツネの表情が暗くなった。まるで過去に何かあったような暗い瞳になり、両手の拳を握り黙る。それを見た魔法使いの少女カッ! と目を見開き、
「ノブナガ! 貴方、そんな事まで聞くんじゃ無いわよ! わかってて言ってるでしょ!?」
怒りを露わにするツボミはわかっていながら人の心に土足で踏み込むノブナガを睨む。
「たわけが。これは大事な事だ。この男が何を大事にして、何を選んで生きて行くのか。それを互いに知らねばならん。人の心に土足で踏み込む事を怒るのはお門違いだぞ。男は女のように曖昧には出来んのだ。大義がある男は特にな」
「女をバカにすんじゃないわよ! そもそも貴方なんてトシツネと会ったばかりじゃない。それで相棒ツラしてるなんてチャンチャラおかしいだで。トシツネは発掘師としてお宝ゲットだけじゃなく、魔族やモンスターでさえ助けていたわ。過去を知らない貴方が言う事では――」
「ノブナガの言う通りだツボミ!」
急にノブナガを擁護するよう叫んだ驚きを隠せずツボミは涙ぐむ。鋭いタカの目でノブナガはトシツネを見据えていた。両手をツボミの肩に置くトシツネは優しい目で幼なじみである少女に感謝の言葉を告げる。
「怒ってくれてあんがとよツボミ。確かにあの事件が無きゃ、オレはここでこの魔族を助ける事も無かっただろうよ。でも、大事な人を失った事でダンジョンで倒れていれば誰であろうと助けるという大義が芽生えたのは変えられねぇ。これが発掘師・源土トシツネの流儀だぜ。ちょっと過去を思い出して迷っちまったが、オレの流儀は変わらねぇさ」
「……」
トンガリ帽子のツバを持ち顔を隠すように下げるツボミは薄い唇を動かし一言言う。
「なら早く助けなさいよね……」
「おうよ!」
ツボミの両肩を叩いてトシツネは横たわるベビーサタンの前に座る。
「とりあえず魔族でも源土散薬は効くはずだ。飲ませる!」
そして、秘伝の打ち身や骨折その他もろもろに効果のある源土散薬を飲ませる事にした。粉末の粉をベビーサタンの口に入れ、そこにペットボトルの水を流して強制的に飲ませた。普通は、かなり苦い薬の為に人間なら気絶していても確実に飛び起きる。ノブナガとツボミはさっきのいざこざを忘れるようその光景を見つめていた。
「フン、反応が無いな。やはり人間と魔族では身体の作りが違うのだろう。見た目は胸もあるし、ほぼ人間と同じだが」
「でもトシツネの源土散薬はかなり苦いから確実に魔族でも苦いはずなんだけど……。味覚に関しては魔族でも大きくは違わないはずだから効果はありそうなんだけど、やっぱり魔王の娘ともなると違うのかしら?」
「なら、とりあえず踊るしかないな」
『?』
そこで何故踊る? という顔をノブナガとツボミはした。そんな事は気にしないトシツネは、ベビーサタンの周囲を回るようにゲンツチ音頭を踊り出す。
「さぁさみなさんゲンツチ音頭♪ 掘り掘りザクザク儲かるよ♪ ここ掘れゲンツチ! そこ掘れゲンツチ! 億万長者のゲンツッチ♪」
『……』
トシツネはひたすらゲンツチ音頭を踊り、残る二人は困惑しつつただそれを見つめた。それから一分後に側から見れば何をしてるのか全くわからない儀式のような光景が、一つの叫び声で変化が起こる。
「マロピョエーー!」
鼻、口、耳、お尻……全身の毛穴を含めた穴という穴から空気を噴出させるようにベビーサタンは飛び上がり叫ぶ。どうやらベビーサタンはこれにて復活したようだ。それに納得したトシツネは拳を握りガッツポーズをした。
「へっ、どうやらオレの踊りも効果あったようだな。今度のエドランド祭りもゲンツチ音頭を自薦するぜ」
『やめておけ』
と、冷静にノブナガとツボミは言う。
何でだよー……と反論しようとしてると、完全に回復したのかやけに元気なベビーサタンは口にした源土散薬について感想を述べる。
「マロマロン! 何という苦く美味の粉なのじゃ……マロはその散薬とやらを毎日飲みたいである」
「これは薬で売り物なの。源土散薬が欲しけりゃ金だしな。それが人間のルール」
「マロ? 魔族は相手から根こそぎ奪うのがルール」
やはり人間と魔族である。
薬の効果は同じく現れても、考え方については水と油だ。こうなれば、戦闘という行為でしか決着はつかないだろうとトシツネは覚悟した。
(まだ自由自在に使えないチートパワー。今回の戦いである程度はものにしてみせたいもんだ。ツボミを助けて、ベビーサタンも倒せばオレはエドランドの英雄だな。ここで英雄らしい新しいジョブにクラスチェンジしてやるさ……)
ちょっと欲を出したトシツネには前回の戦いで覚醒したチートパワーに相応しいジョブにクラスチェンジしようと言う考えもあった。ノブナガ、ツボミもトシツネの左右に布陣した。対するベビーサタンは自身の身体の調子を確認している。
「ここで気絶していて体力は完全で無くても魔力はかなり回復しているマロ。そうであれば、こんな人間達に魔王の娘であるマロが負けるはずは無い」
巨大な魔力のプレッシャーがトシツネ、ノブナガ、ツボミを襲い強制的に臨戦状態へ気持ちを引き上げさせられた。口のおしゃぶりをクチャクチャと舐めるベビーサタンは白い髪をかき上げて赤い目を怪しく輝かせた。
「生物全てに仇を成すと言われる魔女の魔力を感じてこの周囲を調査してたけどもうわからないマロ。かくなる上はここで決着をつけてくれるわ!」
まだエドランドに近いダンジョンの中で生き埋めに遭いながらもウロウロとしていた魔王の娘・ベビーサタンと戦う事になった。




