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プロローグ

神様の声が聞こえます。


あ、いや、違います。イタい子ではないです。


順を追って説明させてください。


私の名前はアミ。


主人公です。


あ、違うんです、イタい子ではないんです、本当に。


厨二病でもヒロイックシンドロームでもなくて、ガチで。


私はこの世界、乙女ゲーム「ユメミル・オトメ」の主人公なのです。


え?


いえ、違います、違います。


私は前世冴えないJKだったわけでも、過労死したOLでもありません。


と言うか前世の記憶とか転生とかちょっとよくわからないです。


私の脳みそには間違いなく、現世の幼児期からの記憶しか搭載されていません。


だけど、その代わり……私は、物心ついた時から。


そう、神様の声が聞こえていました。


「モノローグまだ要る?」


「要りません?」


「いや、私はもう全部知ってるから今更聞いても面白くないし」


「神様、もう長いこと生きてるから忘れてるかと」


「ボケ老人扱いしないでくれる!?キミは乙女ゲームの主人公、3歳の時にその事をキミに伝えたのは私だからね……そりゃ熟知してるよ」


そう、私は目の前にいる人……いや、神様から、私が何者なのかを伝えられたのです。


乙女ゲーム「ユメミル・オトメ」。


良くある(いや、他の乙女ゲームって私は見聞きしたことないんですけどね)中世ヨーロッパ風のファンタジー世界を舞台にしていて、まあ端的に言うと「学園ファンタジーもの乙女ゲーム」です。


私ことアミ・アルラシアはごく一般的な城下町のパン屋の娘。


両親に可愛がられてそれなりに不自由無く育った、何の変哲もない一般庶民です。表向きは。


しかし、14歳の誕生日に、この国(デュランタール国と言います、ストーリーにはあまり関係ないんですけどね)の習わしである魔力測定を行ったところ……。


よくあるやつです、光属性の魔法の才能が露呈しました。


ええ、言いたいことは分かります。


「そういう話どっかで見た」


「神様どんだけいろんな乙女ゲームやってるんですか」


「聞いちゃう?」


「やっぱりいいです」


話がそれましたね。


とにかく、隠された才能が目覚めた私は、これまたよくある展開で魔法の勉強をするべくヒュリエス魔導学園へと入学する事になったのです。


「と、いうのが先週までのストーリーですね」


私は自室……パン屋の2階にある居住スペース、角部屋が私の部屋です……で、宙に視線を向けながらそう告げた。


私の目には、ふよふよと浮かぶ毛玉のような光の塊が見えている。


幼い頃から何かと視界に飛び込んでくるこの毛玉は、私にしか見えない「神様」だ。


両親にも、友達にも、魔力測定の時に勿体ぶって杖をかざしていた神官様にも見えていなかったそれは、自分のことを「神様」だと私に言う。


私の目か頭がおかしいのか、それとも本当にこの丸いのが神様なのか、その証明は誰にもできない。


だけど、確かにそれは私の未来を知り尽くし、この世界の全てを見通しているようだった。


──キミ、明日転んで膝をすりむくよ。


初めて神様の声が告げたのは、そんなささやかな警告だった。


まだ自我が芽生えて間もない幼児だった私は、言葉の意味も、その光る毛玉が何なのかも分からないままスルーしたのを覚えている。


翌日、雨上がりでぬかるんだ道に足を取られて転び、膝をすりむいて泣いて帰った。


だから言ったんだ、とどこからともなく現れて笑いをこらえるように震えた声でそう言う毛玉を、私は涙に濡れた目で睨んだものだ。


それ以来、神様はことある事に私の傍にふよふよと浮かんでは、様々な予言や忠告を私に告げるようになった。


初めは怪我や不利益を被る事態を告げるだけだったそれは、段々と私の行動を制御するようなものになっていく。


そこの曲がり角を右に行きなさい。


公園で泣いている子供に声をかけなさい。


道端で俯く青年に花を渡しなさい。


何の意味があるかも分からないまま、私はそれに従った。


私が意味を聞いても、神様は「フラグだよ」ととしか言わないので、私は理解するのを諦めているのだ。


「神様は説明が下手だからなぁ」


「唐突に私を貶してきた、こわい」


毛玉がプルプルと震えている。


「ねぇ、神様」


「なんだい」


「私、学園で上手くやって行ける?」


「いけるとも、そのために今日まで色々頑張ってきたじゃないか」


「ならいいけど」


神様が「キミには光魔法の才能があるんだよ」と私に教えてくれたのは、5歳の誕生日を迎えた頃だった。


この世界で、光魔法を使える人間というのはそう多くはない。


ファンタジー好きなら分かるだろう、そう……闇魔法を操る魔族と唯一対等にわたりあえるのが光魔法だとかそういうやつだ。


とはいえ、このゲームにおいてはそれは「主人公」の証というか、それだけだ。


私が暮らすこの国は魔族との戦争などは特にしていないし、魔王というのも存在はしているけど特に悪いことはしていない。


あくまで魔族という人種(人なのかと言われると疑問だけど)がいて、その人たちが暮らす国があり、その国を統べる王様が魔王、というだけだ。


私が持つ光魔法の才能は単に「滅多にいない!すごい!かっこいい!やったー!」という程度のスパイスに過ぎない……と、神様は言う。


どんな才能も育てなければ芽吹かない。


と、言うわけで、私は本来14歳にならないと分からない魔法の才能を5歳で認知し、神様の指導の元コソコソ隠れて魔法の練習なんかもしてきていた。


これにより、学園入学の時点でのアドバンテージはそれなりにある。


ちなみに学園はこれまた定番で、基本的には貴族のお坊ちゃまお嬢様達が通う所だ。


特別に魔法の才能がある一般庶民が入学することもちらほらあるので、私はその枠に収まることになる。


そして、私は学園で……運命の出会いと言うやつをするわけだ。


「ようやく、神様の言う「本編」が始まるんだなぁ」


「不安かい?それとも楽しみ?」


「うーん……分からないけど」


幼い頃から聞かされていた、私の未来。


特別な才能を持ちながらも、純朴で可憐で健気な主人公。


神様の望む展開に持っていくべく、私は生まれた。


「まあ、ハッピーエンドならそれでいいよ」


「もちろんそうするとも」


ちか、と瞬く毛玉が自信たっぷりな声色でそう言った。


「ところで、アミ」


「うん?」


「忠告は覚えているかな」


「ん……ああ、悪役令嬢のこと?」


「良かった、彼女には充分注意するんだよ」


「分かってるよ、大丈夫」


悪役令嬢。勘のいい方なら「ああ、あれね」と分かってくれるだろう。


乙女ゲームには付き物のサブキャラクター。


攻略対象となる男キャラクターの婚約者だったり、幼なじみだったり、はたまた単に思いを寄せているだけだったり。


恋焦がれる余りに主人公に様々な嫌がらせや攻撃をしてくるも、最終的には悪事を暴かれてどこかへ追いやられるあのキャラクターだ。


このゲームにも当然そういう立ち位置のキャラクターは存在する。


アマリア・レイヴァン。


レイヴァン侯爵家の一人娘で、デュランタール国の第2王子であるレオ・デュランタール様の婚約者。


神様いわく、私はレオ王子を攻略することになるそうなので……対決は免れないだろう。


「婚約者を押し退けてまで攻略するって、結構非道だと思うんだけど……」


「真実の愛なんだから仕方ない」


「真実ねぇ……」


神様の言うことは分からない。


私はまだレオ王子を見たことすらないのに、運命だと言われても困る。


「まあ、悪役令嬢様も程々で諦めてくれるのを祈るよ」


「そうだといいがね」


神様が言うとシャレにならないのでやめてほしい。


「さあ、そろそろ寝なさい、アミ」


「はぁい」


「明日からは忙しくなるよ」


そうでしょうとも。


明日はいよいよ、学園の入学式だ。


襲い来るゲームイベントの波に押し流されないことを祈って、私はベッドに潜り込んだ。


なーんも考えずに書き始めた。そんなに長くならないといいな。

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