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魔王と私  作者: 乱舞
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ノエルとサタン それぞれの想い

ノエルは、氷の一族だ。


遥か昔から、氷属性の女性は氷の聖女と呼ばれ、特に魔力が強い為、他の属性とは交わらないように特別に保護された区域の中で生きていかなければならない。

碧の区域と呼ばれ、簡単に出入りすることはできない。

他属性と交れば、血が薄くなり魔力も途絶えてしまうとされ、同じ氷属性同士のみの婚姻が許されている。

氷の聖女達は皆、透き通るような白い肌をしていて、サファイア色の瞳をしている。


ノエルの母親は氷の聖女の中でも特別美しく、特別強い魔力を持っていた為、父から求愛されたとノエルは聞いている。

ノエルの誕生日が、母の命日である為、母の記憶は一切ない。

ノエルは、氷の一族では珍しい真紅の瞳を持って生まれてきた。

その為、生まれてすぐに父親から幽閉され、14歳になるまで外の世界を知らずに育った。

窓からは、父のもう一つの家族が見えた。

それでも、時々父はノエルを訪ねてきて、ノエルの成長を喜び、母親に似て、すごく美しいと褒めてくれていたのだ。


14歳の誕生日。

ノエルにとって最悪の日と最高の日。

父親はノエルを奴隷商人に売った。


ノエルの母親は側室だったから、父は自分とは一緒に暮らせないのだと、ずっと自分を納得させてきた。

仕方がないのだと。


それなのに。

父親は最後にこう言ったのだ。

「金にでもならなきゃ、誰がおまえみたいな出来損ないを育てるものか。母親に似て美しいし、能力開花の14歳になれば高く売れるんだよ。

だから、育てたんだよ」

と。



売られてから数日間、色んな男の人が来ては、籠の中で鎖に繋がれている自分を見ていった。

もう、どうでも良かった。

誰に買われても、誰に何をされてもいいと。

もう何も聞こえない。

何も見えない。

ノエルは心と体がバラバラになっていく感覚に襲われる。

じっと一点を見つめているが、真紅の瞳には何もうつっていない。

うつそうとしていないと言ったほうが正しいのかもしれない。


眩しい。

不思議な光が近づいてくる。


「なぜ、この子を鎖で繋いでいるの!」


ぼやけてよく見えないが、漆黒の髪に、自分と同じ真紅の瞳をした女の子が奴隷商人に向かって怒鳴っていた。

ルビーのように綺麗な瞳に吸い込まれそうになる。


「私が買うわ!それなら文句ないでしょ!」

「貴様のような小娘に買える金額だと思っているのか。世間知らずの小娘が!」


ノエルは、『買う』…その言葉にどうしても反応してしまう。

私は…モノなんだと嫌でも思い知らされてしまう。


「お金でなんてこの子に失礼だわ。私も同等の対価を払います。私は、何千年に一人の光属性の魔族よ!私の髪の毛はこの子なんてもんじゃなく高値で売れるわよ!」


ノエルと目が合った瞬間に、目の前のルビー色の瞳の彼女は、何の迷いもせず、足元まで届きそうなぐらいに伸びた美しい漆黒の髪の毛をバッサリと切り落とした。

切り落とされた瞬間、髪の毛は漆黒から黄金になり、美しい金色の糸に姿を変えた。


「早く拾わないと灰になってしまうわよ。ちょっと!早く、そこから出てきなさい!あなたの魔力なら簡単に出れるでしょ!あなたの後ろにいる美しい姫君がいつまでも泣き止まないわよ」


確かに今、目の前の彼女は『後ろの姫君』と言った…

自分が唱えているのか、もしかしたら後ろにいるらしい姫君が力を貸してくれているのかもしれない、ノエルが目を閉じて、念じると鎖も檻も瞬時に凍りつき粉々に砕け散った。

自分にそんな力あったことに驚く。

奴隷商人は髪の毛を拾うことに夢中で、自分よりも目の前の髪の毛のほうが価値がある事がハッキリとわかる。


「出られたじゃない。早くこんな所から出ましょう。私達女の子がいていいような場所じゃない。ぐずぐずしてたら、私達ぐらいの年齢が好きだという魔族の観賞用に売り飛ばされてしまうわよ。もちろん、観賞用だけで済むとは思わないほうがいいわ」


自分と同じぐらいの年齢だろうかと考えていると、気持ちが伝わったのだろうか、先を急ぐ彼女が振り向き、こう言った。


「私はサタン。14歳」


「髪の毛…ごめんなさい」


ノエルは肩までになったサタンの髪の毛を見て申し訳なくなる。


「大丈夫よ。髪の毛なんてまた生えてくるわ」


サタンはそう言うが…ノエルは、上級魔族の女性は髪の毛を伸ばしておかなければならないという事を知っていた。


「大丈夫だってば。魔力で長く見せておくから。私の許婚にはバレてしまうかもしれないけど。きっと彼なら許してくれるわ。それよりも、後ろの姫君が心配してるわよ」


ん?とノエルは振り返るが誰もいない。


「あー。やっぱり…」


サタンは大きくため息をついた。


「頼まれたのよ。その後ろの人に。透き通るような白い肌に、サファイア色の瞳。とっても、キレイな人。あなたと同じ顔だわ」


ノエルは母だと思った。写真でしか会ったことのない母。


「でも…もう…大丈夫だとわかったんだわ…もう意思を残す魔力は…」


そう言って、サタンはノエルの後ろに手をかざした。


「ノ…ノエ…ノエル…」


うっすらと映像のように微かに見えたのは、写真と同じ顔の女性。


「お母様…どうして…私を…」


「大好きよノエル…ずっと見てたわ。ごめんなさいね。つらい思いをさせて。あなたは出来損ないなんかじゃないのよ。氷の一族は、あなたを手放してはいけなかったの。もう、あそこは駄目ね。特別体質が生まれるのは、弱体化していく氷の聖女をリセットする為なの。なのに、あなたのお父様はお金に目が眩んでしまった…本当にごめんなさいね…」

ノエルの母親の目からこぼれた涙は氷の結晶になる。

その一つを手に取り、ノエルの母親は魔力をこめる。

手のひらから出てきたのは、結晶のペンダント。


ペンダントに注がれた魔力のせいだろうか、ノエルの母親は、少しずつ姿が薄くなったように見える。

先程までハッキリと聞こえていた声も徐々に遠くなっていく…


「お願いが…この…ペンダント…」


サタンの魔力でももう、彼女の姿を維持することごできず、全ていい終わらないうちに彼女の姿は光となってはじける。

ノエルはペンダントを抱きしめ俯いたまま顔を上げることはない。

沈黙を破るかのように、サタンはノエルにこう言い放つ。


「ねぇ。私の家に来ない?」


ノエルは、サタンが差し出した手をつかむ。

母親が繋いでくれたサタンへの縁。

それを大事にしたいとノエルは思った。


ノエルにとって、14歳の誕生日は、最悪の日から最高の日になった。

初めて見た母親の顔。

初めて聞いた母親の声。


この日からノエルはサタンの屋敷に住んでいる。

ノエルが望んで侍女としてサタンに仕えているが、サタンの両親は、サタンと分け隔てなくノエルにも教育を受けさてくれた。

ノエルは生涯をかけてサタンに仕えよう、サタンの笑顔を守ろうと誓っている。

命さえ危うかった自分が、教育を受け、誰からも差別されることなく、自由に生きている。

それだけで十分だと思う。

あの時、他に同じように売られていた魔族の子供がたくさんいた…



ルシファーの事を考えているであろうサタンは、相変わらず、ドレスとにらめっこしたままだ。


サタンの背中にノエルはそっと、「ありがとう」と呟いた。





2人の出会いです。

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