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魔王と私  作者: 乱舞
3/18

彼女への想い

朝から雨が降っていた。

この時期の魔界は雨季。

一日中雨が降っている。

時々小降りにはなるが、やむことはない。


そんな長い雨季の時期には、王宮で『雨音の夜会』が開かれる。


雨音の夜会は、長い雨季に王家への反乱を防ぐ目的で開催されているのだが、17歳になった今年は、ルシファーの正妃、側室候補を選別するという大きな目的も担っていた。


ルシファーの嫁選びだけではない。

他の王族や上級魔族の男女の出会いの場でもあるのだ。。


夜会には、ルールが決まっている。

男性側からダンスを申し込む。

ルシファーのみ、女性側からダンスを申し込まねばならない。

ルシファーが何度も同じ人と踊ることは許されない。

ルシファーと二回踊れるのは、許婚だけなのだ。

ルシファー以外は、何度でも躍る事ができ、相性が合えば、同じ人とずっと一緒に踊ることも可能だ。


ルシファーの許婚とわかっていて、サタンにダンスを申し込む勇気のある者は今まで誰もいなかった。

おかげで、サタンは一度もルシファー以外と踊ったことがない。

いつもルシファーは1番目にサタンと踊る。

サタンと踊った後は、最後までルシファーのダンスの相手が途絶えることはない。

しかし、今回も今までと同様であるなら、最後にサタンと二度目のダンスを踊って会はしめくくられるはずなのだ。

サタンは、今年はどうなるのだろうと考えながら、屋敷のドアを開ける。


「このドレスはルシファー様からの贈り物です。

サタン様がお帰りになる少し前にルシファー様が直々にお持ち下さいました」


扉を開けるとすぐに侍女のノエルが迎えてくれる。

ルシファーからの贈り物を部屋に運んでいる最中だったようだ。

どうやら、サタンがセイントから剣術の稽古を受けている間にルシファーが訪ねてきたらしい。


誰が見ても、ルシファーがアンジュに気持ちがあるのはわかっているのに、なぜ自分にこんな贈り物をしてくるのかサタンにはわからない。

現魔王からプレゼントするようにでも言われたのだろう。

現在許婚である以上、夜会の服装は2人で合わせる必要がある。

許婚として恥ずかしくないように振る舞わなければならないからだ。

素敵なドレスを前にしても、サタンには一つもポジティブな考えは浮かんでこない。


贈り物の黒いドレスはルシファーの漆黒の髪の毛のように光沢があり、気品が漂っている。

腰の後ろにはダークブルーのリボン。

サタンが1番驚いたのは、ルシファーの瞳のような深い紫色をしたアメジストの大きなネックレス。

ルシファーの寵愛を一心に受けているかのようなドレスに仕上がっている。

表向きの許婚としての偽りの贈り物にすぎないのだと思うと心の中にドス黒いものが溢れていく。

きっと、明日の夜会にはアンジュが来るという考えに辿りついてしまい、一度その考えが頭をかすめると、それしか考えられなくなり、より一層サタンの心は憂鬱になっていく。

立場上、ルシファーはエスコートをしにサタンを屋敷に迎えに来るだろうが、王宮に着けばアンジュの元へ行ってしまうことは容易に想像できる。


許婚と言っても、正式に婚約者として発表されているわけではない。

優秀な血を残す為に、ルシファーの正妃、側室候補を念入りに探す為の夜会なのだから、ルシファーがアンジュのそばにいても不自然ではない。

女性からダンスを申し込むことも可能なのだから、堂々と愛するアンジュと一緒にいられるだろう。


そうなると、今回の夜会は、サタンがルシファーと踊れるかどうかすらわからない。


「サタン様にお似合いになるドレスがわかっていらっしゃるなんて、さすがルシファー様ですね」

「ノエル、ありがとう」


ノエルは、サタンが少しでも明るくいられるように笑顔で振る舞う。

侍女達の耳にまで届くほどの噂になっているルシファーとアンジュ。

サタンを思いノエルは胸を痛めていた。


「最近、また魔力が上がったのではないですか?剣術も。お一人で特訓なさるのは良いですが、あまり無理なさらないでくださいね」


ノエルは、いざという時にサタンを守れるぐらいの魔力の持ち主である。

だから、サタンの変化を見逃さない。

最近楽しそうに稽古に出かけて行くのを感じ、うすうす一人でないことにも気がついていた。

サタンが纏って帰ってくる微かな魔力に、悪い力は感じないので、黙認しているのだ。

ノエルはサタンが笑っていてくれれば、それで満足なのだ。

サタンの幸せこそが自分の幸せだと思っている。


「これ…明日着て行くのよね…」


サタンが呟く。

憂鬱そうにドレスを見つめているサタンの後ろ姿に、ノエルはサタンに出会った頃を思い出す。


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