彼女の想い
ねぇ。
今年は何が欲しい?
久々に私はルシファーに思いきって話しかけた。
反応通り。
無反応。
冷たい目。
わかっていたけれど。
慣れたつもりだったけど。
やっぱり、まだどこかで期待している私は、また傷つくことになる。
私は知ってる。
昨日、彼の想い人から告げられた真実。
だから、私の最後の彼への誕生日プレゼントは決めている。
だから、無反応でもいい。
私は、今年も無難な物を選んでおくわねと形上だけ口にした。
ルシファー。
今までありがとうね。
さようなら。
明日、私はいない。
今日は確か。
彼と私の誕生日。
予定では今日、正式に彼の婚約者として紹介される。
私は、その誕生会に出ることなく、魔族討伐の旅に出ようと決心している。
彼の想い人が、そっと私に教えてくれた。
一つの事実。
だから、私は、今日旅に出る。
私は次期魔界の王となる、彼の許婚。
でも、ここ数年は許婚なんて形ばかりで、彼の心があの子にあることは明白だった。
彼の婚約者の可能性のある者は、魔族の中でも王族に近い、第一階級の出身者であることが条件。
彼が20歳になる時に、婚約者に選ばれる者は、魔力レベルがS級である必要がある。
だから、許婚であっても、そのまま婚約者になれるわけではない。
条件さえ揃えば、彼の婚約者には誰でもなれるのだ。
それでも、許婚であることは、他の女性の中では1番である証。
許婚は親同士が勝手に約束したこと。
私が、魔界では珍しい光の属性魔法に選ばれて生まれてきたことが1番の理由だったらしい。
魔力にも個性がある。
火の属性、水の属性、風の属性、土の属性、木の属性。
この5つに分類されることが多く、闇の属性は王族のみで、私のように光の属性は魔界では、何千年に1人ぐらいの確率なのだそうだ。
私が生まれるまで光の属性は魔界から消滅した状態になっており、光の属性は記録にもほとんど残っていない。
遠い昔には、一族全てが光の属性だったという記録もあるにはあるのだが…魔族の中では異端とされていた為に、迫害を受けて1人もいなくなったと伝えられている。
魔界暗黒期の話だが、それを語れる者もいない。
今は、光の属性が魔界を滅ぼすなんて馬鹿げた迷信は無く、何千年に1人生まれてくれば、皆驚きはしても、特別視されることはない。
私は光の属性だから、もちろん、光の魔法が得意なのだ。
魔力を属性には分けるが、皆一通りの魔法は使える。
使えるが、属性ほどの力を発揮することはできない。
王家の者は、生まれた時から闇の属性を持って生まれてくる。
私のように王族以外の魔族が生まれた時から属性が決まってることは珍しく、生まれた時から備わっていた私の力を見て彼の両親が、同じ日に生まれた私をたまたま許婚に選んだのだ。
だから、いずれは結婚するのだと、お互いの両親に言われて育ってきた私達は、彼女が現れるまでは、そのまま結婚することに何の迷いもなかった。
高等部入学から数年が経った時、彼女は転入してきた。
魔界には学校がある。
王族は、王宮で直々の教師がいるが、王子だからと学校に通わなくていいわけではない。
魔力の力も使い方も最初から備わってるわけではなく、学校で教わる。
高等部2年からは、力のレベルに応じてクラス分けがされていく。
婚約者が低級魔力しか持っていないとなれば、例え許婚であろうとも、結婚どころの話ではなくなる。
だから、私は魔力S級を維持してきた。
許婚として恥ずかしくないように、マナーのレッスンも欠かさなかった。
夜会の為のダンスレッスンも必死にこなした。
歴史も学んだし、剣の稽古だって血が出るまで頑張っていたのだ。
そんな私の姿を彼は知らない。
高等部に入ってからの私の姿なんてどれほど彼の記憶に残っているだろうか。
一度、練習のしすぎで倒れた時ですら、彼は私のことなど、見向きもしなかったのだ。
彼が私のことを無視しはじめてどれぐらいの月日が流れたのか。
時々、彼の存在すら忘れてしまいそうになる。
私は何だっけ?と自問自答する日々。
私のことなんて見てないのに。
なのに、許婚としての立場を変えてはくれない。
私が言い出さないからなのだろうか。
いずれ私が条件を満たさなくなることがわかっているからだろうか。
彼女のレッスンに時間を割く彼を見る度に、私の胸は苦しくなる。
可愛らしく微笑む彼女は、私とはかけ離れていて、まるで甘い甘いお菓子のように、ふんわりしていて、同じ女性から見ていてもうっとりしてしまう。
彼女を見ていると、彼が、夢中になるのもわかるし、助けてあげたくなるのも、心配したくなるのもわかるのだ。
だから。
私は、彼女のあの言葉に決心したのだ。
区切りをつける為に。
前に進む為に。
自分を見ていないのがわかっているのだから、これ以上何もないのだ。
私も前に進もう。
彼は魔王になるのだから。
私は、魔族の討伐隊に入隊し、魔界の均衡が保たれるように、私の魔力全てを魔界の為に使おう。
そもそも、こんな力を持っていて、王族の結婚相手に選ばれなければ、女性である以上生かすこともできないのだ。
王子の許婚として有名な私を許婚が解消されたとして、誰かが結婚相手として選んでくれたりはしないのだ。
私ができるのは、彼の隣で笑うことではない。
お妃として振る舞うことではない。
それに相応しいのは彼女以外にはいないのだから。
私は私の為にこの力を使う。
少し時間が戻ります。