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同情できるかと思ったけどそうでもなかった

今の状態を認識した王女妹はマジ泣きにシフトしていた。


まぁ無理もないよな。助けに来たと思ったら人質ごと集中砲火だもん。

こんなの俺だってちょっと泣く。


「あ~、なんだ、その。お前、やっぱり帰って良いよ?」


王女妹は俺の言葉を聞いて、泣きながら怒なりちらしてきた。


「ふぇぇぇぇぇぇん!私を殺しに来てる奴等の所に、どうやって帰れっていうのよぉぉぉぉぉ!」


「いや、ほら、あれはさ、こいつを倒すために致し方無しって奴だろ?取り敢えず話して俺が攻撃止めさせてやるから、向こうに帰れ。な?」


俺は一旦王女妹を降ろして、手を取って立たせてやると、ヤドカリの背から大声で叫んだ。


「お前ら!やるにしても、悩むとか交渉のフリするとかさ!もう少しこいつの気持ちも汲んでやれよ!なんか俺が泣かせたみたいになってるじゃねえか!」


俺の声が届いた様で、姉が答える。


「大陸ヤドカリと愚妹なんて比べるまでもないじゃない!それに丁度良かったわ、功を焦って身の程を弁えなかった妹は、哀れ宿主に殺され、ここで短い人生を()()()()()


「狩りにかこつけて妹殺そうってか!王権争いとは言えやりすぎだろうがよ!」


「私は女王になる女なの!万に一つも間違いが無いように、危険な芽は摘み取っておかないと気が済まないのよ!お前もザラも、とっとと死んで私の武勲になりなさい!」


駄目だ、全く話にならねえ上に、俺達を殺すってのは想定の範囲内だったらしい。

横で唖然としている妹がものすごく可哀そうに見えてきた。


「あ~…。どの道殺るつもりだったみたいだな…。大丈夫!そのうち良い事あるって!」


「あんた慰めるつもりなら、もうちょっとオブラートに包んだ上で気の利いた言葉掛けなさいよ!気遣いが微塵も感じられないのよ!」


「や、だって俺とおまえって、殺し合い以外の接点ないからな」


「それはそうだけど!そうなんだけど!」


ザラ王女は諦めたかの様に、聞いてもいない身の上話をし始めた。

時間が惜しいから手短にしてほしい。


「…王権をどちらかに譲るって話が出た頃から、明らかに態度が変わったのは分かってたのよ…。それでも私達は血の繋がった姉妹じゃない。お姉さまを信じたかったわ…」


俺は一般市民だから政争なんて分からないが、昔話や史実では熾烈な争いもあったと言うしな。

地位と権力を得る為には、本当に身内にも刃を向けるんだな。


「いくら私がお姉さまより、スタイルが良くて、可愛くて、賢くて、モテて、強くて、魔法の才能があったからって、殺すことはないじゃない…。私が勝負に勝っても側仕えくらいにはしてあげるつもりだったのよ?」


「今、ほんのちょっとだけでも同情しそうになった俺を、力の限りぶん殴ってやりたい。あとお前もぶん殴りたい」


ダメだ。この妹にして姉あり、だ。

頭が湧いてるどころか沸騰してるわ、これ。取りあえず妹送り返して俺は引き揚げさせて貰おう。


「おい!姉の方!取りあえず妹返してやるから争いはよそでやれ!俺を巻き込むな!」


「大陸ヤドカリの討伐は決定事項よ!その為にはあんたは必ず殺す!その上でヤドカリも妹もデストロイ、これで晴れて私は女王よ!」


これはもう駄目だな。戦う以外の選択肢がねえ。

千人切りもできなくはないが、実際の人間相手に出来るかが問題だ。

あとはこちらの戦力、現状一人でもやるつもりでいるけど、他が多少でも役に立ってくれれば大分楽になるんだが、どうかね…?

まずはヤドカリとは意思の疎通が出来るって言ってたのを、試してみるか。


「なぁ、ヤドカリさんよ。どうやらこいつらはやる気満々らしい。出来る限り阻止するつもりだけど、お前さんも戦えるのか?」


どことなく俺が話しかけると、ヤドカリの目がコバルト色に淡く光った。

怒った時は赤だったし、取りあえずこれはOKのサインと受け取って良いのか?


次はザラ王女だ。


「なあ王女妹。このままだと殺されるっぽいけど、お前どうする?俺を殺して手土産にするか、あいつらを相手にするか選択肢があるけど」


「…ザラで良いわ、もう。姉の本音を聞いたら、なんか勝負も女王もどうでも良くなっちゃった。でも、それでも戦おうとは思えないし、戻る事も出来ないから私はここにいる。あとはもうどうにでもして」


さっきの魔法を期待したけど、流石に無理だったか。まぁ敵にならないだけマシだと思おう。


「分かった、ザラ。こいつが生きているうちは、ここは安全だ。事が片付くまでここにいろ。俺はちょっとあいつらぶっ飛ばしてくる」


「まさか…、私の…」


「違うからな?言っておくけど、お前は俺の人生で嫌いな女二位だからな?あ、一位はお前の姉ね?」


それじゃ、行きますかね。

これはゲームじゃない。コンテニューもリトライも不可能な一騎当千モードだ。

優勝決定戦のプレッシャーなんか比にもならない緊張感に、始まる前から心臓が爆発しそうだ。

俺は意を決して川岸に飛び降りて、王女姉と対峙する。


「交渉は全くできない事がわかった。あと残されてるのは実力行使だけだな。悪いが俺の移動式住居を脅かす奴は全員排除させてもらう。そして出来れば妹を持って帰れ」


その言葉に妹とそっくりなドヤ顔をこちらに見せて、見下した態度で話す。


「宿主が人間一人なんて、その大陸ヤドカリも運が悪かったわね。ヘンテコなマスク被った人一人でなにが出来るっていうのか、見せてごらんなさいな?あと、知られたからには妹はもういらないわ。ペットにするなりメイドにするなりご自由にどうぞ?生きていれば、の話だけどね」


その言葉が戦闘開始の皮切りになった。


俺は迷わずに対岸に飛び込んだ。

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こちらは転移無双なしの普通のファンタジーです。 良ければ読んでみてください。 「森の奥で出会ったのは、魔物じゃなくて人外じみた村人でした 」
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