尋問してみる
俺はギャーギャーと喚く女を抱えて家に戻った。
家には入ったが、放っておくと何をしでかすか分からない為、申し訳ないが鷲の戦士の、衣装のズボンで縛らせてもらった。
「おまえ!まさか手籠にする気!?あの書物みたいに!書物みたいにっ!!」
「その書物は後で貸して下さい。いや、そうじゃねえ。まずは教えてくれ。こいつは一体何なんだ?」
色々と聞きたいことはあるが、さっきの話じゃ、奴らが大勢引き連れて戻ってくるはずだ。
時間が無いから必要な事だけ聞き出して、こいつ置いて逃げよう。
このヤドカリをいきなり攻撃した理由は何だ?
「は?大陸ヤドカリを知らないの?ここに居住しているということはあなた宿主なんでしょ?」
「あいにくと来たばかりで、こっちの事情には疎いんだよ。それに、宿主って何だ?」
そう問いただすと、呆れたように話し始めた。
「宿主の癖に何も知らないとはね……。いい?こいつは大陸ヤドカリと言って、百年単位で番を求め、大陸を渡り歩く魔物よ。数百年かけて育った体は、殻から身、体液、排泄物まで余すことなく全てが極上の素材になるわ。一匹全てとなれば、その価値は国家予算に匹敵するほどの戦略物資よ」
「なるほど、こいつ自体の価値が高かったんだな。ということは、俺はここに住んでいる限り、一生お前らみたいなのに付きまとわれるのか?」
「そうよ。こいつを見つけて野放しにするのは、人にも魔物にもいないわ。死ぬまで追われるわよ?」
なんか勝ち誇った顔で言ってるけど、俺を脅してるのか?ちょっとムカつくぞ。
俺は足をグッと握り、捻ろうと持ち上げる。
女は四の字固めがまた来るのかと怯え、足をジタバタとさせ話を続けた。
「待って待って!続き!続き話すからそれやめて!大陸ヤドカリはどんな攻撃でも受け付けない防御力を持っているけど、攻撃手段に乏しいのよ!だから、自身が強いと見定めた生物を、背に乗せて主にするの!そして、防御の加護を分け与えて、背中に宿主が求める環境を作って居付いてもらって、外敵から守ってもらうの!これでいいでしょ!?」
なるほど。俺の家を背中に移動させたのは、俺を強いと認め、守って貰おうって事だったのか。握った足を離すと、ホッとしたようで、再度高慢な態度で話し始めた。切り替えが早くていいな。
「本来ならば竜や大魔狼のような魔物が宿主になるんだけど、まさか、お前みたいな矮小な人間が宿主になるとはね。よほど切羽詰まっていたのでしょうね」
そう言って、女は鼻で笑った。
こいつ、学習しねえな。マジでなんか極めてやろうかな。
まぁ、いい。続きだ。
「こいつと意思の疎通はできるのか?」
「ある程度、宿主が求めるものを汲み取ると言うわ。人間相手は分からない」
さっき水が飲みたいと思った時、川に進路を変えたのはそのせいか?
今後試す必要があるな。
「よし、大体わかった。お前ら、というか、どいつもこいつもこのヤドカリを狙ってる。俺はこいつから宿主と認められ、守ってもらおうとしている。そういう事だな?」
「そうよ。で、あなた。そこそこ腕が立つみたいね?宿主なんかやめて、私たちに協力してこれを討伐しないかしら?これを持ち帰った上で、あなた程の腕なら、私と一緒に王宮へ連れて行ってあげても良いわよ?」
こいつを手土産に昇級しようってことか。で、そのために俺は邪魔だと。
でもこの女、全くもって信用できねえ。ずっと態度でけえし。
なにより、100年か200年か、世紀を跨いで番を探すというコイツが気に入った。
時間に差はあるが、目指すものは俺と同じだ。そんな浪漫ちっくな生き物をむざむざ殺させる訳にはいかねえな。
「大陸ヤドカリはどれくらいいるんだ?」
「成体の数は極少ないわ。100年に一度レベルの報告よ。幼体のうちは海で過ごすから生態がわからないの」
「絶滅危惧種じゃねえか。保護してやれよ。」
そう言うと、女はきょとんとした顔でこちらを見た。何を言っているのか分かってない様な様子だ。
「は?何を言っているの?こいつの核だけで、どれだけの恩恵が受けられると思っているのよ。人類が繁栄するのなら、魔物一種類いなくなるくらい些細なことじゃない」
そうか、そういう価値観か。人類の追い込まれ具合は知らねえが、至上主義に近いのか?
自然環境やらなんやらは二の次って訳だ。一昔前の地球の話に似てなくもないな。
「話は分かった。たった今、お前らは、俺の家に手を出す敵だと認定された」
「なっ!あなたどれだけ馬鹿なの!?一人でこいつを守ろうっていうの」
「そうだ。俺はこいつの番探しを全力で守ることにした。ついでに俺の嫁も見つけて、ダブル結婚式だ。分かったら招待状が来るまでもう来んな」
俺は女の拘束を解いて、また担ぎ上げた。
「さっきの見てたけど、お前も空飛べるのか?」
「ちょっと、降ろしなさいよ!どれだけ無礼を働けば気が済むの!?飛べるけどそれが何よ!?」
そうか、飛べるのか。それなら落下死は無さそうだな。
「今からちょっと遠くまで投げるから、ちゃんと飛んで帰れよ?」
「は?何?どうゆう事よ!?ていうか、なんで魔法が発動しないのよ!」
「いやぁ、良くわかんねえけど、こいつのバリアの中だから攻撃させてくれないんじゃない?」
バリアと言うか結界だな。結界内じゃきっと魔法封じみたいなのがあるんだ。
鉄壁に近い防御力らしいし、それくらいは持ってそうだな。
俺は背中から川の方面を向くと、女を掲げてグッと力を込めた。
「さて、何メーター飛ぶかな?俺は、筋肉の超人になれるのか?」
「ちょっとあんた!何考えてるの!乙女を力の限り投げるとか聞いたことないわよ!投げるなら優しくベットの上よ?ね?」
担ぎ上げられた女が、潤んだ瞳でこちらを見つめてくる。正直、グッとくるものがあるが、ここは心を鬼にして野に放とう。
「ダメだな。書物を読み過ぎのおませさんは、少し頭を冷やした方が良い。次来る時はその書物持ってきてな」
さて、いくか。
一……二の……、って、川向こうから大量になんか来るぞ?なんか蟻みたいで気持ち悪いな。
よくよく見れば、あれは人の群れだ。1000人とかそのくらいの武装した人間。
何が100人だよ、大軍じゃねえか。
暫くそれを呆けて見ていたが、俺は女を担いだまま静かに家に戻った。