会話もできねえ
爆発の煙が晴れてヤドカリオンザ我が家が姿を現した。
どうやらヤドカリが守ったてくれたようで、バリアがキラキラと輝いている。
取り敢えず無事で良かったが、しかしあの女!
俺ん家と、ちょっと愛着沸いたヤドカリに何してくれてんだ!
「そこの女ぁ!出会い頭に人ん家爆破するのは、犯罪かテロ行為って言うんだぞ!?頭沸いてんのか!」
罵倒されて、初めて気付いたかのように、女がこっちを見た。
次の瞬間、金を払っても中々お目にかかれなさそうな、冷めきった目線が俺を貫いた。
「それは私に言ったの?」
「お前以外に女が何処にいるんだよ。お前は男か?それともどっちもイケるタイプなのか?あ?」
「不敬ね。切り捨てなさい」
女テロリストがそう言って何か唱えると、残していた側近らしいのが浮き上がり、こっちに飛んできた。魔法使い万能だな。
川を飛び越えた男たちは、こちらに着地するや否や、それぞれ武器を構えて突っ込んできた。
「初対面に口上も無しとか、お前ら荒ぶりすぎだろ!まずはお話からだろうよ!」
駄目だ。家は燃やすし殺す気満々だし。会話すら出来ねえ。
かと言って、無抵抗で殺されるなんて御免だ。
全力で抵抗してやる。
鎧着てる癖にやけに速いスピードで、剣士っぽいのが一番槍を取りに来た。
確実に殺しにきてる鋭い突きに、瞬間こちらが躊躇したが、すぐに反応する。
相手から軸をずらし、剣の腹を叩いて軌道を無理矢理変えた後に、鎧の上から膝蹴りを打ち込む。
「うぉらっ!!」
そして少し下がった顔にラリアットをぶちかますと、頭上のゲージの黄色が無くなって真っ赤に染まる。
すると、剣士の男は力なく、膝から崩れた。
弱ぇ。正直ストーリーモードの雑魚並だ。
これなら残りの二人も行けそうだな。
右腕を掲げ、拳の人差し指と小指を立てて雄叫びを上げる。
「ウィーーーー!!」
敬愛する、”ザ・ラリアット”のポーズだ。ラリアットをかますなら、これは外せねえ。
一人があっけなく倒れ、俺が吠えたせいか、残りの二人は飛び込んでくるの止め、窺うように構えてる。
てゆうか若干引いてる。
待つなら、今度はこちらから行くぞ。
槍を持つ方に、ダッシュを掛けて詰め寄る。
相手は、こちらに合わせて槍を繰り出そうとしているが、遅え。
槍を潜るようにスライディングをし、そこから蟹挟みで男を倒す。
「ダッシャァッ!」
そのまま片足を捕り、アンクルホールドを極める。
「ぐあぁぁぁ!!」
関節が行ってはいけない方向にねじ曲げられ、男の身体と口から悲鳴が上がった。
殺るか、殺られるかだ。申し訳ないが、足は壊させてもらおう。
更に強く捻ると、ゴキリ、と嫌な音と響きが腕に伝わってきた。
ギャッ!と短い悲鳴を聞いて、直ぐに解放し、残った男に駆け寄る。
「ひっ!来るな!来るなぁ!」
男は怯えた表情で剣を振り回しているが、そんなのには当たらねえ。
射程範囲まで詰めた後、高く跳ぶ。
コーナーロープから飛び立ったが如くの、高いジャンプから繰り出す、重力の乗ったミサイルキック。
俺の大技が顔面に綺麗に決まると、男はふっ飛んで川に落ちた。
お、これの方が早いな。
「おい!起きろ!お前ら、死ぬなよ?」
「なっ!」
「グエッ!」
気絶した男をビンタで起こし、川に放り込む。
ついでに足を壊した男も蹴り込んだ。
よし、これで会話が出来る。
送り出した男どもがやられるとは、思ってもいなかったのだろう。
川向こうの女は目を丸くしてこっちを見ている。
「そっちの女!そこ動くなよ!?」
そう言って俺は助走を付けて川を飛び越えた。
しかし、着地と同時に飛び込もうとすると、女はしっかりとこちらを見据え、手を向けてさっきヤドカリに飛ばしたアレを撃ってきた。
両腕をクロスさせて咄嗟にガードする。
ガガガッと軽い衝撃が連続する。
多段ヒットかよ、体力もきっちり削られてるし。
女は、こちらが防いだ事に驚いているみたいだ。
なんか騒いでる。
「は?私の魔法を生身で防いだって言うの!?ありえないでしょう!!」
そう言って再度撃ってくる。
あんなのポンポン撃たれたらたまったもんじゃねえ。一気に詰めるぞ。
俺はガードしつつ足を溜める。
先程と同じ間隔で、連撃のように身体に衝撃が走るが、三段目のヒットを受けたと同時に、溜めを解放してカウンターを放つ。
予想以上に飛んでくる、フライングクロスチョップだ。
「とうっ!」
「ぎゃっ!」
胸の上あたりに直撃し、女が倒れる。
そこにスライディング気味に詰めて足を捕り、俺の足と絡ませる。
「フンッ!」
そして足にグッと力を込めた。
じゃれたつもりが本気喧嘩に発展するド定番、足四の字固め。
「あだだだだだだ!何これ!凄い痛いっ!こんなの初めてっ!」
「あぶなかっしいもんバカスカ撃ちやがって!こっちの話を聞け!」
女が痛みで腕をバタバタとさせるが、足を極めたまま、会話を試みる。
「下民が!死になさい!」
まだ抵抗する力が残ってるか。
反撃しようと、罵倒と共にまたこちらに手を向けてきたので、腕も使い極め直して、ギュッと腕を締め、捻る。
「殺るとか死ねとか!反抗期がハイレベルなんだよ!どんな思春期送ってんだ!」
「いっだぁぁぁぁぁ!ちょっと待って!いっだい!それやめで!」
女が痛みに耐えかねえて、上半身を悶絶させてる。
暴れすぎてローブがはだけてしまい、色々と大変な事になってる。
素晴らしい。この世界でも白は正義だな。
「もう攻撃しません、は?」
「しない!しないから離せ!」
「あ?」
「痛ったぁぁぁぁ!しないっ!しません!離してください!」
そうして、ゆっくり足を離すと涙目で息を切らしながらこっちを睨んできた。
なんか事後みたいでドキドキする。
「この私にこんな事をして、ただで済むとは思わない事ね!」
「今後は知らんが、今すぐどうこうならない事は分かった。ちょっとそこで、お話聞かせてもらおうか?」
「え、何!どうする気!いやぁぁぁぁ!犯されるぅぅぅぅぅ!お父様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「俺に失礼だぞ!初めては相思相愛合意の上でって決めてるんだ!」
俺は騒ぐ女を担いで、川を飛び越え家に戻った。