家は動くし爆破もする
我が家を背負ったヤドカリはじっとしたまま動かない。
目が真っ黒でよくわからんが、こっちを見てるようにも見える。
取り敢えず攻撃の意思がなさそうだし、家も心配だし近寄ってみるか。
近寄って行くと目が少し動く。やっぱりこっち見てるな。
触れる程まで近付いたけど、動く気配はない。
見上げると甲殻やら脚やらで大きな段差が出来ている。
今の俺の身体なら飛び移れそうだ。
トンットンッと飛び上がると、マイスイートホームがしっかりと鎮座していた。
家の外観を軽く確認してみると特に何も変わらず綺麗な状態だった。
良かった、傾いてたり折れてたりしてたらどうしようかと思ってた。
無事なのは分かったが、これどうしよう。
どうやったって降ろせねえよな?
俺、このヤドカリと移動を共にするのか?
などど考えていると、ヤドカリがゆっくりと起きて歩き始めた。
「え?何?これこのままの感じ?『野生の英雄は飼えないよ、元の場所に返してあげよう』みたいなのないの?このまま連れ込まれちゃうの?」
動き出したことで少し慌てたが、意外と乗り心地は悪くない。
ズンズンと脚を降ろす度に音は聞こえるが、スポンジを挟んであるみたいに静かだし、何より揺れない。
一泊が前提の大型フェリーに乗ってるような、静かに大きく揺れる感じだ。
行くあても無いし、攻撃される感じでもないし、取り敢えずこのままでも良いのかな?
なんかやりそうだったらその時全力で止めよう。
「このまま海とか入るなよ?入ったら全力で双腕発勁打ち込むからな」
分かってんのか分かってねえのか、ヤドカリはマイペースに歩いていく。
小一時間くらい、風景眺めたり家でゴロゴロしてたら段々腹が減ってきた。
色々起こりすぎて忘れてたが水も食い物もないじゃん。最悪食い物はコイツどうにかして食うって手段があるが、その為の火も水もねえ。
やべえ思い出したらどんどん喉が乾いてきた。
一度降りて水場探そうかな。
取り敢えず屋根の上に飛び乗って辺りを見回す。
「この際、透明だったら川でも池でもいいからどっかねえかな」
少し離れた所に、光を反射する水面を見つけた。
それほど大きくない川だ。
「あった!水!」
場所を確認して、飛び出すタイミングを考えていたら、察したようにヤドカリが川の方向へ進路を変えた。
なんて空気が読める子!なんか可愛げが出てきたぞ。
水場付近で飛び降りるとヤドカリがゆっくり身体を降ろした。
「なんだお前、待っててくれるのか?忠犬みたいな奴だな」
取り敢えず家が逃げない事が分かったから、急いで水場へ向かう。
流れている水は幸い綺麗そうだった。
緊急事態だ。腹を壊して野外プレイで済む程度で、なんとかなると思いたい。
手で掬ってゆっくり飲む。
「水の味とか分かんねえけどうまい!」
川の水だという事も忘れガブガブと飲む。
水で腹も多少は膨れ一息付いていたら、川の向こうから何かやってきた。
あれは……、馬に乗った人?10人くらいか?
どんどんこっちに向かってくるぞ。初めての現地人になるが、接触して良いものなのかどうか悩むな。
向こう岸に辿り着いた一行が馬から降りる。
軽鎧を着て剣やら槍やら持ってる人と、いかにもなローブを着ている奴。
なるほど、ここは剣と魔法の世界か。
文明とか気になるが、まずは第一現地民がどんなもんか観察しないとな。
向こうは胡座をかいて座ってる俺に気付いている筈だが、全く気にすることなく、興奮した様子で騒いでいた。
「やはり大陸ヤドカリだ!」
「こんな所で、宿主もいない状態で発見するとは、なんて幸運なんだ!」
「如何なさいますか?メドウズ様」
騒いでいた中から、女性が人影から出てきた。
150そこそこくらいか?
金髪とピンクのグラデーションみたいなロングヘアーで、モデルみたいな小さい顔とちょっとキツそうな目。
他の奴より上等そうな真っ白なローブを着ている。
一目見てドキッとした。美人が混じる可愛さだ。嫁にしたい。
その女の子はヤドカリを観察しながら、何やら喋ってる。
「これは褒章ものだわ!急ぎ戻り100人程集めなさい。何人かは私と残って監視と足止めよ。まだ若そうだから、もしかしたら私でも殺せるかもしれない」
そう言うと、その女の子は3人残して、他を戻らせた。
「これを持ち帰れば、辺境から王宮へ戻ることもありえるわ。兵もじき来るでしょうし、殺るわよ」
見た目はちょいキツくらいだが、発言がどギツい。やっぱ嫁にはしたくない。
殺る発言からすぐに、女の子が両手をヤドカリにかざした。
するとバチバチと放電を伴った球体が現れ、ドンドンでかくなる。
球体は俺の二倍程に膨れ上がり、それをヤドカリ目掛けて飛ばした。
結構なスピードで飛んでいったそれは、胴体付近で弾け、爆発した。
「また俺の家ぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」