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まさかゴリラ?いいえ、蟹です

……意識は直前まであった筈なのに、夢から覚めた様な感覚だ。


取り敢えずここはどこだ?

パッと見、サバンナみたいな感じだし、遠くに見える生き物もそんなに変わらないように見える。


ぐるっと一周見回して見れば、真後ろによく知ってる家が建っていた。

爺さんが死んだとき、ここだけはと相続させてくれた、分厚い茅葺き屋根を被った古民家。


中に入ってみれば間取りもまったく変わらない。

バカみたいに広い客間と居間、居間には囲炉裏が付いていて、そこを抜けると台所と言う名の土間がある。


あとはトイレと少し小さめの部屋が2つ。

だけど、据え付け家具以外何もねえ。

電気も、水道もねえ。ガスは元々無かったな。


神様よ、荒野におっぽり出されるよかマシだけど、家だけでどうしろと?


それでもまぁ無いよりは良いよな。取り敢えず雨風は防げるし。

住み慣れた家があるってだけでも大分違う。

全く神様はツンデレだな。


部屋を確認して回ってると、寝室に見慣れない、だけど、とても良く知っている衣装があった。

俺の愛用キャラ、古代文明の鷲の戦士の衣装だ。

衣装と言っても、黒のカーゴパンツに、胸に《二擊》と書き殴られたTシャツだけど。

だが、重要なのはそれじゃない。このフェイスマスクだ。


頭のてっぺんからうなじまで、歌舞伎の獅子のように盛った極才色の鳥の羽、こめかみあたりからチャラチャラと下がる金の装飾品。

そして、頭の前を覆うように、鷲をモチーフにした顔があり、(くちばし)が目元を深く隠す。


ヤバい、やっぱり格好良い。

このキャラはガチガチのレスラー型ファイターだ。

色々と不便はあるが、顔を付き合わす距離ならまず負けない。寄せも崩しも充実してる。

かなり操作に難があったが、慣れれば最強筆頭の強キャラだ。


公式チートだ差別だと色々言われてるが、こんなもんは強さと格好良さが全てだ。

俺は見た目に惚れて、寝る間も仕事に行くのも惜しんでこのファイターを育て上げた。


元々プロレスも好きだった俺は、このゲームとキャラにハマりにハマってしまい、気が付けばアマチュア世界一。

賞品は薔薇色の人生じゃなくて、異世界行きの片道切符だったけどな。



はるばる見知らぬ世界に来たは良いけど、これからどうするんですかね?

チュートリアルもプラクティスもないとか、ちょっと厳しすぎやしませんか?


マスクの羽を撫でつつ、色々と考えながら縁側に出ると、妙な物が目についた。

庭先の少し先に立っている、俺よりデカい二つの真っ黒な、細長い楕円形。ぎゅーっと引っ張って伸びた卵みたいだ。


なんだこりゃ、真っ黒でえらい艶っつやだな。

なんか人工物っぽいけど、台座もないのにどうやって立ててんだ?

これも神様のプレゼントか?異世界アイテムなのか?


その瞬間、俺の頭に稲妻が走った。

間違いねえ!これはアレだ。俺が触ったら封印的なアレが解けて、中から美少女的なアレがでてきて、一緒に旅してついでにアレもしちゃう奴だ!


マジかよ……。何もあげないとか言っておいてマジツンデレかよ神様。やっぱパンツでパイルドライバーは無しにしよう。


しかも二つだ!初めて上がるリングが二対一(ハンデマッチ)とか、動画でイメトレしかしてない俺にはちょっと格上挑戦だがそこはアドリブでカバーだ。

大丈夫、イメトレなら何千とこなしてきた。サイズとスピード以外なら上手く試合運び出来る自信はある。

俺の師匠も鷹だしな。


庭先に降りてペタペタと確認する。

近くで見てみると表面は六角形の複合体だ。ハニカム構造ってやつか?

中は何にも見えないが、所々に星みたいに白い点があるな。

天然石のようだけど違うようにも見える。


そんでもって開く気配も全然ねえな。

これあれじゃないの?俺が触ったら六角形の隙間から光がパァーって洩れて、外殻がパラパラと剥がれて、みたいなさ。


触ってダメなら……、やっぱあっちか?お姫様の目覚めさせるのに必要なのは、チュッとしたアレなのか?

俺の初めては、こんな石とも金属ともつかないようなコレなの?


ちょっと嫌だけど……、めくるめくイチャイチャの前には、尊い犠牲が必要なのかもしれない。

後に口直しさせて貰えるなら、これは予行練習みたいなもんだ。

そうだ、何事も練習は大事だよな。


……誰も見てないよな……?


キョロキョロと辺りを見回しても人はどこにもいない。


よし、行くぞ……、行くぞ……!


まだ見ぬ美少女に想いを馳せて、両手を付いてレモン味のそれを捧げる。

瞬間、中心から一気に赤い光が広がった。


来た来た来た来た!

さようなら俺のファーストキッス。

こんにちは未来の俺の嫁!


カタカタと地面が揺れてる。中々荘厳な登場だ。

揺れが強くなる。来るぞ来るぞ、全身全霊かけて祈れ、俺!


出来れば!裸でありますように裸でありますように靴下かネクタイだけ着けて出てきますようにっ!


俺はあのうっすい神様に願いを込める。既に顔が思い出せない。


揺れは地鳴りに変わった。大地がミシミシと悲鳴を上げる。

美少女の登場のわりには激しすぎやしませんか?


まさか……、ゴリラか?ゴリラが出てくるのか?


ゴリラが現れた際の対処法を、冷や汗をかきながら考えていると、黒卵の横から、間欠泉の様に激しく土が吹き上がった。


「あれ?そっち?」


え?そこなの?黒卵じゃなくてそっちから出てくるの?


しかし、大地を巻き上げて出てきたのは、裸靴下でもゴリラでもなく、10tトラックくらいある桜色の蟹の爪だった。


天高く振り上げられた爪が俺目掛けて降ってくる。


「なんで蟹ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」


死に物狂いで横っ飛びに避ける。地面が陥没するほどの打撃。

これは当たったら死ぬ。列車事故より悲惨かもしれない。


冷や汗がダラダラ流れる中、離れた所で同じ大きさの爪が飛び出し地面を叩く。


そして、巨大な爪に支えられ現れたのは、体育館の半分くらいはありそうな、桜色のザリガニのような蟹のような奴だった。


あれ、美少女の封印じゃなくて蟹の目だったのかよ……。

俺の意を決した初めては蟹だったのか……。

なんか涙出てきた……。もう異世界とサヨナラしようかな……。


目がこちらを向いて、また爪を振り下ろす。

地面を叩く度に地形が変わっていく。

俺は必死にその爪を避ける。


「何おまえ!?俺にキスされてっ!怒ってんのっ!?」


蟹は何も言わずに爪を振るう。蟹、喋らないしな。


「俺だって!初めてがお前の目とかっ!墓まで持ち込み確定のっ!案件だよっ!」


叩き付けられた爪が軌道を変えた。今度は横凪ぎに迫ってくる。


あ、これ避けられねえ。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!

俺の人生の最後が、キスした蟹に殴り殺されるとかぁぁぁぁぁぁぁ!」


俺はその場から動くことが出来ず、俺は顔の前で腕を交差させてギュッと身体を強張らせた。

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こちらは転移無双なしの普通のファンタジーです。 良ければ読んでみてください。 「森の奥で出会ったのは、魔物じゃなくて人外じみた村人でした 」
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