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序 ロアーズとは

序 ロアーズとは


 僕の名前はキラク・サハラ、今年14歳になる豹族でロアーズの少年だ。

 えっ、ロアーズは何かって? ああ、説明が必要かな。

 この世界は、大まかに二種類の人間が存在する。一つは人類、君の様なごくごく普通の、いわゆる人間だ。そしてもう一つは、僕たちのような獣人だ。もっとも、獣人は古い呼び方で、最近はロアーズ…咆哮する者…と呼ぶのが一般的だ。豹族もロアーズの一種だ。

 この二つの種族は、ゆるやかな棲み分けをしながら、ときにはせめぎ合い、ときには協力しながら共存してきた。空には宇宙ステーションが漂い、地上にはサイボーグやロボットが闊歩する時代になったが、今もロアーズは健在だ。


 上野駅の18番ホームから東北行きの列車に乗り、およそ3時間揺られるととある駅に着く。列車を降り、駅の東口の改札を抜けると小さなロータリーがあり、ロータリーを抜けて最初の交差点を左折して徒歩で10分の場所に、僕のおじいちゃんの経営する喫茶店『草原さはら珈琲店』がある。

 分厚い木のドアを押して店内に入るとそこは広々とした温室になっており、パッションフルーツやマンゴー、そしてコーヒーの木が目に入る。これらの木々の間を抜けて奥へと進むとそこはちょっとした広場で、並ぶテーブルと椅子の奥にあるカウンターには、獅子の顔をした店員達の姿が見える。皆獅子族と呼ばれるロアーズで、僕のおじいちゃんはこの店のマスターをしている。もちろん、彼も獅子族だ。

 店内では、自家焙煎の豆で淹れられたコーヒーの他、紅茶やその他のドリンク類、そしてケーキも味わう事ができる。特にケーキ類では、自家製のカステラをスポンジ代わりに用いた『カステラショート』がこの店の名物で、このケーキを目当てに隣町から女子高生が食べに来るほどの人気だ。

 この日、僕は開店前の店内で書き物をしていた。店内の一番奥にあるテーブルで、ノートに資料用の書籍、それにノートパソコンを広げていた。

「望!」

 突然の少女の声に、僕は顔を上げる。視線の先に、少女の顔があった。少女は太い眉に気丈そうな顔付きをしており、そこそこ伸びた黒髪を輪ゴムで後ろに束ねていた。

「やあナツミ、今朝は早いね?」

 そう言って、僕は再びテーブルに視線を戻す。

「今日は、キラクと呼んだ方が良かったかしら?」

 そう言いながら、ナツミはテーブル向かいの席に座る。

 望と言うのは、僕が人間の姿の時の呼び名だ。一般に、ロアーズ達は人間と獣の姿でそれぞれ別の呼び名を持ち、状況により使い分ける。

 そして、今の僕の姿は、金色の髪に緑色の瞳を豹に似た顔をしている、つまり獣人の状態だ。服の下に隠れているが、もちろん全身は斑紋のある美しい毛皮で被われている。

「どっちでも構わないよ、中身は同じなんだから」

 背中まで伸びる金色の髪をかきあげながら、僕は話す。故あって、最近は髪を伸ばすようにしている。

「でもどっちかと言うと、『キラク』と呼ばれた方がしっくりくるね」

 そうだよね、とナツミもうなずく。

「それより、キラクは何を書いているの?」

「ああ、これか?」

 僕は画面がナツミにも見えるよう、パソコンを動かす。

「備忘録を書いてるんだ」

「備忘録?」

「日記みたいなものさ。本を書かないかって頼まれていて、日々の出来事をメモ代わりに書いてるんだ」

「私の事も書くの?」

「ほんのちょこっとだけね。もちろん、本名は伏せておくけど」

「それは残念」

 そう言ってナツミは笑う。

「ねえ、タイトルは考えているの?」

 ナツミに問われ、僕はしばし思案にふける。

「そうだね、もし付けるとしたら…」

 僕は、語り始めた。



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