高木
もう一人、八代の学生時代に仲の良かった友人がいる。高木という名の変わり者だった。痩身で、背が八代の頭一つ分大きい。面長の白い顔は常に目つきが悪く、人を見る時も首ではなく目だけを動かす癖があった。専攻は違ったが、取る科目がよく被っていて、会う頻度はそれなりにあった。
高木はどちらかというと人嫌いで、友達もほとんどいなかったように思う。話しかけられても返答は素っ気ない。それだというのに、高木は自分から八代に近づいてきた。実技の講義を終えて帰ろうとしていたところに高木がやってきた。その頃の高木は、八代にとってよく見る顔ではあったが接点はなかった。人と一緒にいるところすら見たことがなく、おまけに目つきが悪いので、近づいてきた時は内心身構えていた。
「……こんちわ」
高木の第一声はそれだった。
「こんにちは」
身構えたまま返すと、高木は勝手に八代の隣の椅子を引いて座り込む。
「専攻は? 彫刻じゃないだろ」
「油彩だけど」
ふうん、と言いながら、高木は欠伸をした。後になってこれは八代に興味がないためではなく、彼の会話時の癖だと分かった。
「この間の課題」
高木が言った。気だるげな発声も彼の特徴だった。
「細密画の課題、あんたのを見たよ。あれ、良かった」
「ありがとう」
八代が返すと、高木は目だけをこちらに向けた。
「俺はご機嫌取りで褒めたりしない。もう少しまともに話せ」
突き放すような口調が八代にはかえって気安かった。
「悪い。ただ、用件が読めなくて。まさかあれを褒めるために来たんじゃないだろう」
まあね、とため息混じりの声が返る。これも高木の癖だった。高木は腰を反らすように伸びをする。
「あの絵であんたに興味が湧いた。だから話しに来ただけ」
椅子から腰を上げて、高木はもう一度欠伸をした。
「それじゃ、友達になりたくてってこと?」
「オトモダチじゃないと話もさせてくれないわけ?」
八代は反射的にいや、と言ってから、ちょっと考えた。
「その方が気が楽だから。話に来ただけならそれでもいい」
高木はほんの少し、笑みのようなものを浮かべた。それ以来、高木は八代と行動することが増えた。高木は塑像や彫刻がメインの学部で、絵画をやる八代とは講義教室で顔を合わせることが多かった。八代とは違い三限に入っている科目も多く、校内では高木と、中庭から外は桜井と行動することが自然と増えた。
お散歩にはまって道に迷うわ、迷った先のお肉屋さんの揚げ物にはまるわ、近頃いいことずくめなのでしっぺ返しに備えて今夜はひとり鍋にハイボールです。
へっへ。備えあれば憂いなしってね。
道に迷うの好きなんですよね。
理解されないと思ってたんですが、阿部サダヲも同じこと言っててテンション上がりました。